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第五章:陰湿な逃亡者
その89:生かさず、殺さず
しおりを挟む「<ホーリーアロー>!」
「くっ、やるな……」
「これでもDランク冒険者なのよ」
……まずった。
そう思ったのは私が野盗に囲まれた時。
焦りでとにかく急ぐべきだと考えていた私は、馬に回復魔法をかけて一気に突き進む手段をとったけど馬の体力がもたなかった。
スピードが落ちたところで野盗に狙われたのだ。
助けは来ない。
一人で切り抜ける以外方法はないわね。捕まったら二度と帰ってこれないでしょうし。
「馬を始末しておけ、逃げられないようにな!」
「させるか! <ディバインシャワー>!」
「おお!? あついい!?」
空に投げた魔法の光球から野盗に向かって魔力の雨が降り注ぐ。
ホーリーアローに比べて威力は低いけど、逃げるだけなら今!
「もう少しだけ頑張って!」
「ぶるる!」
「逃がすか!!」
「あう!?」
「ぶひひーん!?」
馬に乗ろうとしたところで野盗の放ったやが私の腕を掠め、馬の尻に刺さった。
「ああ、ま、待って!!」
「ようし、捕まえた。抑えろ」
「ちょ、やめなさい!! う……」
「うるせえ、こちらとら久しぶりに女を抱けるんだ、興奮しないわけがねえだろ。なあに、30人相手にしたら後はアジトでゆっくり、な?」
背筋に冷たいものが走る。
折角あのクソみたいな環境から『そういうのが嫌で』逃げて来たのに、こんなきったない男たちに襲われるの?
「うぎぎぎ……!」
「おお、怖い怖い。さて、それじゃいただきますか」
「きゃああああああ!?」
ダガーで衣服を破られ、下着が露わになる。
奴隷市場に売られたときはまだまともな人間が多かったけど、こいつらは違う。
徹底的に私を嬲り倒す。
怖い――
一人であそこから逃げ出してきて初めてそう感じた。
多分、最近は一人ではなかったからだろう。
「……ザガム……ファム……」
「お、なんだ男の名前か? ひへへへ、もう会うこともね――」
「「「うがあああああ!?」」」
「な、なに!?」
私を組み敷いていた男が急に居なくなり、周囲の野盗たちが悶え苦しみだし、私は目を開ける。
その瞬間、私の体がふわりと、浮いた。
◆ ◇ ◆
――捉えた。数は30と言ったところか。
組み敷かれているのは間違いなくルーンベル。
「……っ」
その光景に、俺の目の前が揺れ、あの夢に出てくる女が床に倒れている状況と、顔が塗りつぶされた男の下卑た笑い声が脳に響く。
「俺はどうなっているんだ? ……いや、今はどうでもいいことか」
接近しながら周りの人間どもを<メガフレイム>焼き払う。
阿鼻叫喚の声が街道に響き、ルーンベルを押し倒している男を蹴り飛ばす。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
派手に転がっていく男は無視。
すぐにルーンベルを抱きかかえて俺のマントで胸元を隠してやると、
「ザ、ガム……?」
「無事か?」
「どうして……」
「ふん、ファムが追いかけると言って聞かないからな」
「……そう」
「……それに、お前は俺の嫁候補なのだろう? なら、助けてやらねばな」
「! ……ふぐ……うううう……怖……怖かった」
俺の言葉に、ルーンベルはマントを掴んで大泣きする。
本気で怖かったのだろう、いつもの冗談は飛んでこなかった。
「て、てめぇ、いきなりなにをしやがる!」
「自分の嫁を助けただけだが。さて、お前達野盗はこの街道に巣くう迷惑なゴミだと聞いているが間違いないな?」
あえて挑発する言い方で野盗たちへと声をかけると、面白いように釣られた男たちが俺達を囲んで来た。
「その女の男か。しゃしゃり出てきやがって……その女を置いていけば命だけは助けてやるぜ」
「俺より弱い相手にそんなことをする必要があるのか?」
「貴様……! 腹の立つ野郎だ……かまわねえ、ぶっ殺せ!! 手足を切り落として後悔させてやれ」
「冗談は顔だけにして欲しいものだ。……腹が立っているだと? それはこちらのセリフだ」
俺は喋りながらすぐに行動に移っていた。
まずは一番前に出てきたやつから潰す。
「う、お……!? ぐぎゃぁぁぁぁ!?」
「まずは一人」
左腕だけでルーンベルを抱えたまま、右手で男の顔面を掴み地面に叩きつけてやる。地面が少しへこみ、ぴくぴくと体を小刻みに動かす。
「手加減したが、死んだか? まあ、いいか」
「な、なんだ、目に見え――」
「怯んだら死ぬぞ」
「へぶ……!?」
一足で次の獲物を捉え、鼻っ面を殴りつけてやった。
三人ほど巻き込んで地面に転がるとそのまま動かなくなり、やはり人間は弱いなと思う。
「うおお! 死ねぇ!」
「ふん」
「斧を素手で折ったぁ!? ぐげぇ!?」
背後から襲ってきた相手の斧を素手で掴み握りつぶし、そのまま木にぶつかるよう放り投げておく。
そうして五人ほどを撃滅したあたりでようやく動きがみられた。
「ば、化け物……!? に、逃げろぉぉ!」
そう、撤退だ。
だが、こういうやつらが蔓延っていては、いつか俺がこの地域をいただいたときに面白くない。
だから徹底的に叩く。
「<ブラックケイジ>」
「あ、あれ!? お、檻!?」
「に、逃げられねぇ……!?」
魔法の檻で俺を中心に人間が範囲に入るように囲っていく。
一度発動したら俺の魔力切れか意思で解くかしか、ない。
「ぐす……ひく……こ、殺しちゃダメよ……アジトの位置を聞き出して全滅させないと……それに捕まえたら……お金になるわ」
「フッ、それでこそお前だ。では、覚悟しろ」
「「「ひっ――」」」
◆ ◇ ◆
「ザガムさん! ルーンベルさん!」
「このクソ野郎が、死ね、死ぬのよ! ……あら、ファムも追いついたのね」
とりあえず
「は、はい、だ、大丈夫でしたか?」
「まあね。私達の旦那様のおかげで、ね」
「あー、ずるいです! ……へへ、でも良かった……」
俺の両脇に絡みつく二人に俺の鼓動が大きくなるが、まあ今は仕方がない。
「……ごめんね、ファムが私を追いかけるって言ってくれたんでしょ」
「はい! だって、同じお屋敷に住むパーティメンバーですし、助けないとですもん!」
「ふう……あんたって子は。イザールさん達もすみません」
「いえいえ、お安い御用です」
「そうにゃ、ベルは仲間にゃ」
「うふふ、これでザガム様の嫁にならざるを得なくなりましたねぇ♪」
「うう……」
顔を真っ赤にするルーンベル。
なにか病気かもしれないと、顔を近づける。
「顔が赤いぞ、大丈夫か? 熱があるのではないか」
「あ、あんたのせいよ!!」
べちんと何故か頬を叩かれ解せぬ思いが込み上げる。
まあ、元気そうなのでいいかとイザール達へ指示を出すことにした。
「この野盗どもはまだあちこちに巣を持っているらしい。ルーンベルは確保したが、この街道を安全に使えるようにするため駆逐するぞ」
「「「はい(ですにゃ)!」」
――イザールの鼻でアジトはすべて判明した
そしてこちらは俺の配下であるフェンリアーのイザール、ハイサキュバスのメリーナ、ワータイガーのミーヤの三人で十分制圧可能だ。
数時間後、大量の野盗が街道に並んでいた。
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