最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第七章:荒れる王都

その122:君は何のために

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 「フッ! ハァ!」
 『んー、いい太刀筋だネ』

 コギーの魂をナルに預け、俺は骸骨との激闘を繰り広げていた。
 そう、激闘である。

 驚いたのはこの骸骨……いや、死神か。どっちでもいいが、こいつの強さは予想を遥かに上回っており、8割程度の力を出しているにも関わらず軽くいなしてくる。
 
 明らかに立ち回りにくい大鎌のはずだが、鎌の腹と束の使い方が上手く、剣で懐に入ればすぐにケリがつくと考えていた俺は苦戦していた。

 「<ブラックフレア>」
 『<リフレクトウォール>』
 「甘い……!」
 『へエ、フェイントとは驚いたヨ。正面からぶつかるばかりだったのにサ』
 「知ったような口を!」

 首を刎ねれば動きが止まるか? いや、こいつのことだ。そこは読んでいるはず。
 ならばそっちに意識を向けてから足を砕く。

 「そこだ」
 『ふン、単調ナ……。む!』
 「もらった!」

 俺の蹴りは世界でも有数な硬度を持つブリアント鉱石の柱すらへし曲げることが出来る。骨くらいならたやす――

 「ぐああああああ!?」
 『狙いはいいけド、私を甘ク見てもらっては困るなア』
  
 ぐ……!? 膝を砕かれた……!

 俺の剣を紙一重で回避しながら束を足に落としてきたのだ。
 確実に、見えない角度からの攻撃だったはずだが見切られてしまった。

 「ザガム!」
 「<ヒーリング>……」

 完全にいってはいないが、恐らく骨に亀裂が入っていたはず。
 その急激な痛みで目の前がチカチカとし、ナルの声が遠くに聞こえたが回復魔法でなんとか堪えることができた。

 『いやはヤ、頑張るねエ。今の君が私に勝つことなド到底不可能なのにサ』
 「……やって見なければわからん」
 『いや、わかるネ。君はなんのためにあの娘を救ウ?』
 「いきなり問答か、時間稼ぎなどさせん」

 構わずブラッドロウを死神へ振り下ろす。
 最初の一撃を回避されるが、さらに一歩踏み込み。あらゆる角度からの斬撃を全力で繰り出す。

 「おおおおお!」
 『ほっほウ、久しぶりの全力はどうですカ? さテ、あなたはこの娘を助けたイ。それは何故カ?』
 「うるさいぞ……!」
 『まあ聞きなさイ。少し大人しくしてもらいましょうウ……ジェノサイドリッパー』
 「鎌が増えた……!? チッ、冥哭斬翔!」

 手にもった大鎌に加え、ヤツの周囲に鎌の刃だけが無数に展開され俺を囲む。
 この数を捌くなら冥哭斬翔の手数でと思い、二歩先に居る死神へ肉薄する。

 「う、おおおおお!」
 『……いケ』
 「ぐ……!?」

 弾いてもすぐに別の場所から襲ってくる刃。
 死神が指を鳴らす度に、数は増え捌ききれないほどの数になっていく。
 ならば……!

 「一点突破だ<リフレクトウォール>、ヴァンガードストライク……!!」
 『おオ……! やるネ。だが――』

 俺の渾身の一撃。
 だが、一歩及ばず。
 俺の剣が届く前に、刃が全身に刺さり動きを封じられていた。出来たのは、死神のローブを吹き飛ばしたくらい、か……

 「強い……メギストスと同じかそれ以上……」
 『……さテ、君はこの娘を、町の人間ヲ助けに来たと言っていタ。それは誰のためダ。勇者のためカ? 仲間のたメか?』
 「はあ……はあ……さあな……両方じゃないか?」
 
 コギーたちが帰ればファムは喜ぶ。
 もちろんルーンベルやヴァルカンもそうだろう。そう考えれば……

 「……自分のためかもしれんな」

 俺がそう返すと、死神は首を振ってカタカタと口を動かした。

 『おかしな話だネ。君は大魔王を倒すために勇者を利用しようとしたんじゃないのかイ? 勇者など使い捨てでいいじゃないカ。もし死んだら次に現れるまで待てばサ? あの国も君が冥王だと知っていル。大魔王を倒すなどと言わず、まず国を一つ掠め取ってしまえばいいじゃないかネ』

 ペラペラとやけに饒舌に喋る死神に、片膝をついた俺は睨みつけながら死神に返す。

 「使い捨てだと? ファムは一人しかいない。鍛えると約束したからには最後までやる。国を蹂躙するのは全てを終わらせてからだ……!」
 『ふうン、ならその時に君に逆らう人間も出てくるだろう。折角復活させてもこの娘は死ぬかもしれないネ? だったら、今、死なせたままでも良くいかネ?』
 「そんなことは――」

 無いと反論しようと口を開くが、その前に死神は酷く静かな口調で、俺に言う。

 『……ザガム。君は無感情だが、優しい。魔族領を拡張したいのも本当だろうし、勇者を大事に思っているのも間違いない。尤も、勇者に会うまでは微妙なラインだったがネ』
 「……? なにが……言いたい……」

 俺はヒーリングで傷を癒しながら目を細めて尋ねる。
 
 『実のところ、君の行動理念は‟大魔王を倒す”という一点に過ぎなイ。それはそう認識しているだろウ。しかし、そう思うのはどうしてかナ? 大魔王を君は『どうして倒したい』のか――』
 「それは……あの男が魔族の未来を……ぐ……」

 死神の空虚な目を見ていると頭が痛くなる……何故だと? 魔族の領地をもっと……

 「本当に、そう?」
 「なに……?」
 「貴方は忘れているものを、感情を、取り戻さないといけない――」

 いつの間にか俺の後ろに立っていたナルが一言、呟く。
 その瞬間、頭に映像が流れてくる。

 「――貴方を恐れ、全てを奪った‟大魔王”を倒すと誓ったあの日を」
 「お、お前は……ぐうううう!?」

 目まぐるしく頭の中で動く記憶と映像。
 その中には以前にも見た、胸から血を出す女の姿もあった。
 
 そうだ……あれは――

 「……あの時、俺を庇って死んだのは……母さん……か?」
 「……」
 「殺したのは……大魔王……? だが、どうして俺は母親とあんなところに――」
 『ふム』

 そこで俺の意識はぷっつりと、途切れた。


 ◆ ◇ ◆

 『少しずつ、戻り始めましたね姉上』
 「……そうね」
 『心中、お察ししますよ』
 
 倒れたザガムをナルが膝枕し、死神が横で首を振る。
 全身の傷を癒し、寝息が落ち着いたところでナルは口を開く。

 「本当なら静かに、勇者……ファムちゃんと静かに暮らして欲しいんだけどね。大魔王はザガムを見つければ必ず手に入れようとする。その時、力が無ければ大魔王の操り人形になってしまう」
 『だからこそ鍛え、失われた感情と記憶を取り戻す手助けをしているのですから』
 「……あなたには感謝しているわ。人間達の下へ行かせたのは、良かったようだし」
 『ええ。勇者も聖女見習いも、魔法使いもいい腕をしています。私、いや、僕達のようにはならないでしょう』
 「あと一息……か。後はザガムに力の上手い使い方を教えるとしましょう」
 『そうですネ』

 安らかな寝顔のザガムに、ナルと死神は笑顔を向けるのだった。
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