最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

文字の大きさ
126 / 155
第七章:荒れる王都

その123:ザガムは誰の子

しおりを挟む

 (早くその子を渡せ。立派な魔族に仕立て上げる)
 (馬鹿を言わないでくれるかしら? この子は私が大事に育てるのよ、あんたなんかに渡すものですか)

 これは……夢か?
 あの死神にボロ負けした俺が目を覚ますと、目の前で女性と高身長の男が言い争っている場面に出くわす。

 あの時に見た夢の続き。
 いや、その前か?
 体は動かず、俺はただその光景を見ているだけ。

 目の前の黒髪の女は豪奢なドレスを身にまとい暗くて顔が見えない男に食って掛かるのを聞いているが、どうやら俺の親権で言い争っているような感じがする。

 (どうしてもというなら……!)

 瞬間、女性の力が膨れ上がりいつの間にか剣を手にしていた。
 あれは……ブラッドロウ……?

 (ふはは、よせよせ。出産したお前はすでに力を大きく落としている。勇者の力も殆ど残っておるまい?)
 (それがあの子を渡す理由になるとでも?)

 言うが早いかドレスのスカートを切り裂き、男に肉薄する。
 かろうじて斬撃の軌道は見えるが、速い……!

 直感で俺の全力よりも上だと脳が告げる。これで力を落としているのか? 勇者はここまで強くなれるものなのか。

 対する余裕を見せていた男は無言で迎撃に移る。
 男もまた、禍々しい大剣を振るい、女性の一撃を受け流していく。こいつも化け物だと背筋が寒くなる。

 しかし、女性勇者は少しずつ押され始めていた。

 (ぐ……!?)
 (くく……いい女だな相変わらず。ユラン、その体をもう一度我に預けるのだ)
 (きゃ……!? くっ……離しなさい……! あ、ん……)

 女性勇者は剣を飛ばされベッドに押し倒されると情事を始めようと男が舌なめずりをして手を這わせる。
 この光景を、俺は知っている。

 (愛し合った中だろう? 何度抱いたと思っている)
 (ん……ふう……ん……ザガムの前でこんな……!)
 (あれとて男だ、すぐに女を集めるようにな――)
 (どやかましい!!)
 (ぐっ……!?)

 上手い!
 女性は頭突きをかまし、男がたまらず顔を上げると、女性は追撃で金的へ拳を叩きつけた。

 (うおう!?)
 (しばらく使い物にならないわね? ザガム、おいで!)
 
 女性……恐らく母が俺に手を伸ばして呼ぶと、フラフラと俺の意思とは関係なく体が動き出した。
 その時、窓ガラスが粉々に砕け、人が転がり込んでくる。

 「姉さん!」
 「フェル!? どうしてここに!?」
 「助けに来たんだ、僕の魔法なら一人で侵入するくらいは容易い……。だけど、あまりいい状況じゃないみたいだね……」

 体が動き出した途端、ぼんやり聞こえていた声が鮮明に耳に入りだす。
 どうやら弟らしい男が姉である母を助けにきたところらしい。

 『ぐぬ……人間風情が!』
 「いけない! フェル、ザガムを連れて逃げて!」
 「この子……まさか姉さんの子供!?」
 「あうー」

 女性がとてとてと歩いていく俺の背中を掴むと、そのまま男へ放り投げ腕の中へ。

 『逃がすか、その子供は私の後を継ぐのだ!!』
 「ザガムは真面目な子に育てるのよ!」
 「姉さん、こっちだ!」
 『おのれ……! 貴様から死ね!』
 「フェル!?」

 ……!?
 あの時の光景は、これか……!

 「早く、逃げて……ザガムを……」
 「姉さん!?」

 鋭い速さで飛んだ男の剣は弟を貫かず、庇った母の胸を貫いていた。
 背中から飛び散った血が、俺の顔を染める。

 「うおおおおお!」
 『なんだと!? ぐあああああ!?』
 
 直後、腹に剣を刺したまま、母は男に拳を叩きつけ大きく吹き飛ばす。
 膝をつきそうになるのをこらえ、ブラッドロウを拾った後、弟へ言う。 

 「はあ……はあ……い、くわよ……フェル……」
 「あ、ああ……」
 「あー」

 窓から空を飛んで逃げ出し、しばらく進んだところで俺達三人はどこかの森へ降り立たった。

 「ダメね……傷が……回復しない……」
 「ジャオウブレイドの能力か……くそ! タイミングを見誤るなんて!」
 「だ、大丈夫。あなたはよくやったわ。……大結界、完成させたのね……」
 「うん……うん……これでヤツは……大魔王はこの地に封印できる……でも、姉さんが」

 弟が涙を零すしながら指を動かし、

 「大氷結界‟ミレニアムコフィン”」

 そう、呟いた。
 魔法だろうか? 辺りは瞬時に雪と氷の世界へと変貌し、俺は寒さで眠りそうになる。 
 
 「ごめんね、ザガム……あなたを……置いて……死んじゃうお母さんを……許して……フェル、強い子に……おねが――」
 「……助けられなくてごめん……ユラン姉さん……」

 弟が俺を憎しみの目で見ながら、その言葉を放つと同時に、俺の意識は再び闇の中へと消えた――

 ◆ ◇ ◆

 「あ、起きた」
 「……俺は、一体?」
 『私の一撃で気絶したんだヨ。その娘に感謝するんだネ、庇ってくれたんだからサ』
 「……」
 
 上半身を起こしてナルの顔を見る。
 夢の中で母と名乗っていた女性と同じ黒髪をしているが、こいつは若い。
 子供はザガムと呼ばれていたのであれは俺なのだろう。
 そして俺の母は……死んだらしい。
 おぼろげだが少し記憶が戻ったが、まだ曖昧だ。あの後のことを覚えていないのだから。

 しかし、ここが魂の辿り着く場所であるなら――

 「なに? ファムちゃんが居るから私に惚れたらダメヨ?」
 「……いや、なんでもない」
 『真似しないで欲しいネ。さて、そろそろ帰ってもらおうカ、私には勝てなイ、諦めて――』
 「断る」
 「わお。即答」
 『……ここで死ねば君の魂は完全に消滅すル。賢くないよ、それハ」

 現在の俺では勝てるかどうかわからない。
 いや、負ける可能性の方が高いだろう。

 「だが、負けられない。親しい者が死ぬという悲しさをあいつらに思って欲しくないからな」
 「ふふ、面白いじゃない。……ほら、涙を拭いて」
 「む」

 泣いていたのか、俺が?
 ハンカチを借りて目じりを拭うと、ナルが立ち上がり、背伸びをして俺に言う。

 「んー、覚悟はできたみたいだし、それじゃ、私が戦い方を教えてあげるわ」
 「なに? ……うお……」

 瞬間、ナルが俺に重なり、吸い込まれるように消える。

 (さて、指南開始ね!)
 「うるさいな」
 『……どうなってモ知らないヨ?』
 「来る……!」

 死神が低い声を出しながら、大鎌を手に襲い掛かって来た――
しおりを挟む
感想 304

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...