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第七章:荒れる王都
その123:ザガムは誰の子
しおりを挟む(早くその子を渡せ。立派な魔族に仕立て上げる)
(馬鹿を言わないでくれるかしら? この子は私が大事に育てるのよ、あんたなんかに渡すものですか)
これは……夢か?
あの死神にボロ負けした俺が目を覚ますと、目の前で女性と高身長の男が言い争っている場面に出くわす。
あの時に見た夢の続き。
いや、その前か?
体は動かず、俺はただその光景を見ているだけ。
目の前の黒髪の女は豪奢なドレスを身にまとい暗くて顔が見えない男に食って掛かるのを聞いているが、どうやら俺の親権で言い争っているような感じがする。
(どうしてもというなら……!)
瞬間、女性の力が膨れ上がりいつの間にか剣を手にしていた。
あれは……ブラッドロウ……?
(ふはは、よせよせ。出産したお前はすでに力を大きく落としている。勇者の力も殆ど残っておるまい?)
(それがあの子を渡す理由になるとでも?)
言うが早いかドレスのスカートを切り裂き、男に肉薄する。
かろうじて斬撃の軌道は見えるが、速い……!
直感で俺の全力よりも上だと脳が告げる。これで力を落としているのか? 勇者はここまで強くなれるものなのか。
対する余裕を見せていた男は無言で迎撃に移る。
男もまた、禍々しい大剣を振るい、女性の一撃を受け流していく。こいつも化け物だと背筋が寒くなる。
しかし、女性勇者は少しずつ押され始めていた。
(ぐ……!?)
(くく……いい女だな相変わらず。ユラン、その体をもう一度我に預けるのだ)
(きゃ……!? くっ……離しなさい……! あ、ん……)
女性勇者は剣を飛ばされベッドに押し倒されると情事を始めようと男が舌なめずりをして手を這わせる。
この光景を、俺は知っている。
(愛し合った中だろう? 何度抱いたと思っている)
(ん……ふう……ん……ザガムの前でこんな……!)
(あれとて男だ、すぐに女を集めるようにな――)
(どやかましい!!)
(ぐっ……!?)
上手い!
女性は頭突きをかまし、男がたまらず顔を上げると、女性は追撃で金的へ拳を叩きつけた。
(うおう!?)
(しばらく使い物にならないわね? ザガム、おいで!)
女性……恐らく母が俺に手を伸ばして呼ぶと、フラフラと俺の意思とは関係なく体が動き出した。
その時、窓ガラスが粉々に砕け、人が転がり込んでくる。
「姉さん!」
「フェル!? どうしてここに!?」
「助けに来たんだ、僕の魔法なら一人で侵入するくらいは容易い……。だけど、あまりいい状況じゃないみたいだね……」
体が動き出した途端、ぼんやり聞こえていた声が鮮明に耳に入りだす。
どうやら弟らしい男が姉である母を助けにきたところらしい。
『ぐぬ……人間風情が!』
「いけない! フェル、ザガムを連れて逃げて!」
「この子……まさか姉さんの子供!?」
「あうー」
女性がとてとてと歩いていく俺の背中を掴むと、そのまま男へ放り投げ腕の中へ。
『逃がすか、その子供は私の後を継ぐのだ!!』
「ザガムは真面目な子に育てるのよ!」
「姉さん、こっちだ!」
『おのれ……! 貴様から死ね!』
「フェル!?」
……!?
あの時の光景は、これか……!
「早く、逃げて……ザガムを……」
「姉さん!?」
鋭い速さで飛んだ男の剣は弟を貫かず、庇った母の胸を貫いていた。
背中から飛び散った血が、俺の顔を染める。
「うおおおおお!」
『なんだと!? ぐあああああ!?』
直後、腹に剣を刺したまま、母は男に拳を叩きつけ大きく吹き飛ばす。
膝をつきそうになるのをこらえ、ブラッドロウを拾った後、弟へ言う。
「はあ……はあ……い、くわよ……フェル……」
「あ、ああ……」
「あー」
窓から空を飛んで逃げ出し、しばらく進んだところで俺達三人はどこかの森へ降り立たった。
「ダメね……傷が……回復しない……」
「ジャオウブレイドの能力か……くそ! タイミングを見誤るなんて!」
「だ、大丈夫。あなたはよくやったわ。……大結界、完成させたのね……」
「うん……うん……これでヤツは……大魔王はこの地に封印できる……でも、姉さんが」
弟が涙を零すしながら指を動かし、
「大氷結界‟ミレニアムコフィン”」
そう、呟いた。
魔法だろうか? 辺りは瞬時に雪と氷の世界へと変貌し、俺は寒さで眠りそうになる。
「ごめんね、ザガム……あなたを……置いて……死んじゃうお母さんを……許して……フェル、強い子に……おねが――」
「……助けられなくてごめん……ユラン姉さん……」
弟が俺を憎しみの目で見ながら、その言葉を放つと同時に、俺の意識は再び闇の中へと消えた――
◆ ◇ ◆
「あ、起きた」
「……俺は、一体?」
『私の一撃で気絶したんだヨ。その娘に感謝するんだネ、庇ってくれたんだからサ』
「……」
上半身を起こしてナルの顔を見る。
夢の中で母と名乗っていた女性と同じ黒髪をしているが、こいつは若い。
子供はザガムと呼ばれていたのであれは俺なのだろう。
そして俺の母は……死んだらしい。
おぼろげだが少し記憶が戻ったが、まだ曖昧だ。あの後のことを覚えていないのだから。
しかし、ここが魂の辿り着く場所であるなら――
「なに? ファムちゃんが居るから私に惚れたらダメヨ?」
「……いや、なんでもない」
『真似しないで欲しいネ。さて、そろそろ帰ってもらおうカ、私には勝てなイ、諦めて――』
「断る」
「わお。即答」
『……ここで死ねば君の魂は完全に消滅すル。賢くないよ、それハ」
現在の俺では勝てるかどうかわからない。
いや、負ける可能性の方が高いだろう。
「だが、負けられない。親しい者が死ぬという悲しさをあいつらに思って欲しくないからな」
「ふふ、面白いじゃない。……ほら、涙を拭いて」
「む」
泣いていたのか、俺が?
ハンカチを借りて目じりを拭うと、ナルが立ち上がり、背伸びをして俺に言う。
「んー、覚悟はできたみたいだし、それじゃ、私が戦い方を教えてあげるわ」
「なに? ……うお……」
瞬間、ナルが俺に重なり、吸い込まれるように消える。
(さて、指南開始ね!)
「うるさいな」
『……どうなってモ知らないヨ?』
「来る……!」
死神が低い声を出しながら、大鎌を手に襲い掛かって来た――
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