最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第七章:荒れる王都

その124:勇者の血を引きし存在

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 【さあ、行くわよ! 私が体を動かすから、その感覚を覚えなさい】
 「うお……!?」

 魔族領を出て少ししか経っていないが、驚きや発見があった。
 だが、今回のこれは群を抜いている。

 【はぁぁぁ!】
 『せイやぁぁぁぁア!』

 俺の体だが、中に入り込んだナルが手足を振り回す。
 剣を防がれればその場で回転し別角度から狙い、ヒットすればそのまま左右のステップを駆使して近づき畳みかけていく。
 速さはもちろんあるのだが、縦横無尽の剣術は華麗なダンスのようにも見える。

 【大人しく見ているわね、偉い偉い♪】
 「夢の中で俺の後ろを取った時に強いとは思っていたがこれほどとはな」

 動かしてはいないが感覚はある。
 筋肉の使い方や足さばき、肩の力、剣の振り、蹴り、拳……各部位を最適に動かす感覚が頭と、文字通り体に刻み込まれていく。

 【別にザガムが弱かったってわけじゃないけどね。きちんと教えてもらってないだろうし】
 『ぐウ……!?』

 ナルはそう言いながら剣を横薙ぎに払い、死神を大きく吹き飛ばす。
 恐るべきは俺の体を使うナルだが、それと同時についていく死神もまた強者だ。

 【ザガムは力の使い方は上手いけど、力押しで勝てる相手ばかりだったから技を磨きにくいのよね】
 「なるほど……メギストスには勝てなかったが、あいつを相手に磨くべきだったか」
 【そうよ、勇者の血を引くあなたならメギストスくらい訳はないんだけど】
 「……!」

 そういえば……さっき夢の中で母は『勇者』だと呼ばれていた。
 
 「俺は魔族だぞ……人間じゃない。勇者の力など――」
 【でもザガムは【王】達よりも数倍強い。恐らく、ここでの戦い方を覚えればヴァルカンは足元にも及ばないわ。魔族の勇者ってのもいいじゃない】
 「……」

 確かに血筋はそうなのかもしれん。
 だが、俺は間違いなく魔族領で過ごした記憶がある上【王】となった。
 
 ……いや、待てよ。
 母の弟から救出された後、どうなったのだ? フェルと名乗る人物は人間だったように思う。
 となれば、人間の国で育てられているはずだが、なぜ俺は魔族領に?

……いや、あの弟の憎しみに満ちた目。姉が死んだのは俺のせいだと思い、捨てたのかもしれないな。

 『強いネ……ふン!』
 【はぁ!!】

 俺が考えごとをしていると、死神が声を上げて渾身の一撃を振るう。大鎌とブラッドロウの激しいぶつかり合いの音が止み、周囲が静かになった。

 『ふう……そろそろ止めにしよウ。この戦い、私になんのメリットも無いしネ。娘や町人の魂は解放しなイ。とっとと帰りたまエ。もし女が憑依した状態で私が負けても解放はしてあげられないヨ』
 【だって。どうするのザガム?】
 「……代われ。先ほどの動きは覚えた、次は簡単にはやられん。それに……」
 【それに?】
 「大魔王に突っかかっていた時とは違い、諦められる状況じゃない。倒すまでやるぞ」
 【……そうこなくっちゃね】

 不意に体の主導権が戻ったので、俺は首を傾けて指に力を込めると、小気味よい音が耳に入る。

 『……倒すまで、ネ。いいだろう、そんな口を聞けないように魂を消滅させてやるヨ』
 「ふう……あいつ、本気で来るわよ」
 「関係ない。倒すのみだ」
 「落ちつきなさい。あなたなら勝てるわ」

 俺の体から抜け出たナルが肩に手を置いて神妙な顔で呟く。
 目を瞑って深呼吸をすると、不思議なことに気持ちが落ち着いてきた。

 ブラッドロウを握る手が軽い。
 目を開け、一歩前に出る。その足も重さを感じず、死神を見据えた時『勝てる』と思えた。

 『……ふうン、少しはマシになったカ。試してやル』
 「……!」

 死神の姿が一瞬消えたように見えたが、俺には見えていた。

 「右だ! 吹き飛べ!」
 『なんト!? ジェノサイドリッパー!』

 大鎌をブラッドロウで止め、額に拳を叩き込むとヒビが入り、慌てた死神が無数の鎌を至近距離で展開。
 構わず剣で突くが、死神は即座に距離を取った。

 『またズタズタに引き裂いてくれよウ!』
 「逃がさん」

 近接戦闘を嫌がって下がった死神が、浮遊する鎌を俺に向かって飛ばしてくる。
 先ほどは翻弄されたが、冷静に観察すれば回避することは容易い。
 一度こちらもバックステップで距離を離すことで、正面に鎌を見据えることができるからだ。

 「<ブラックフレア>! ……もらうぞ死神!」
 『やル! だがしかシ、簡単にやられるわけにはいかン!』
 「それでこそ倒しがいがある」

 瞬時に間合いを詰めて首を狩り取ろうと下からブラッドロウを斬り上げるが、鎌の柄で止められていた。
 この角度から俺を攻撃する手段はないはず。……いや、なにか切り札があると考えるべきだな。

 驕るな、ザガム、こいつは俺より強い……油断するな、直感を信じろ。

 『至近距離なら勝てると思ったかイ! <ギガフレア>……なニ!?」
 「……」
 『ばかナ、この距離で爆発魔法を避けタ!?』

 俺は即座にその場を離れるとギガフレアに合わせてブラックフレアを放ち相殺し、ブスブスと舞い上がる黒煙の中を駆け抜ける。

 「なにかあると思ったが当たったようだな。くらえ……!」
 『くッ!?』

 側面に回り込んだところで死神の首を狙うが、咄嗟に腕で庇われ左腕を落とすだけに終わった。この状況で腕一本だけしか落とせなかった……さすがと言わねばならない。

 「これで俺が有利になったか? それともまだ力を隠しているのか?」
 「おおー、カッコいいわよザガム!」
 『むウ……!』

 死神は落ちた腕と俺を見比べながら唸りを上げる。
 まだ戦意を失ってはいないであろうヤツに剣を向けていたが、死神は腕を拾いながらカラカラと笑う。

 『はっはっハ、この私かラ一本取るとはすごい進歩だヨ、君。ふム……この調子で続けられたラ、こちらが持たないねエ……』
 「……コギーを消すつもりか?」
 『いいや、君の勇気と強さに敬意を表して……願いを叶えてやろウ』

 そう言って大鎌を消し、死神は破れたローブを修復しながら指を鳴らす。
 
 すると――

 「む」
 「おや、消えていくわね……?」

 目の前に居たコギーの姿がすぅっと消えていく。

 「……大丈夫、なのか?」
 『他の人間も戻しておいたヨ。……まア、すぐにまた来ることになるかもしれないけどネ』
 「……? どういうことだ、また死ぬとでも言いたいのか?」
 『そうなるかどうかはザガム、君にかかっていル。勇者の血を引きながら忌むべき存在の君に――』
 「おい、どこへ行く。それにどういう意味だ? ナル追いかけるぞ」

 振り返って聞くと、ナルは微笑みながら俺をじっと見ていた。
 
 「どうした?」
 「……私はここまでね。多分、もうすぐあなたもここから消える」
 「目が覚めるということか。お前は一体なんだったんだ? どうして俺に協力をしてくれた」
 「まあ、女の子を泣かせまいとここまで来たザガムにご褒美ってところかしら」
 
 意味が分からないと訝しむ俺に、さもおかしいといった顔で笑うナル。

 「お前は生き返れないのか?」
 「あはは、150年も前に死んじゃったから体が無いわよ! 帰ったらお嫁さん達を大事にね」
 「……ああ、もちろんだ。ファムとお前はいい友達になれそうだと思ったがな」
 「……! そう、かもね……」
 
 不意に泣きそうな顔になったナル。
 その瞬間、俺の姿がすっと薄くなっていく。

 「お別れね。ザガム、元気で。大魔王は必ず倒せる。仲間たちと一緒に、必ず……倒してね」
 「任せろ」
 「うん」

 ナルが一筋の涙をこぼした直後、目の前が真っ暗になり――
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