最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第七章:荒れる王都

その135:ひと時

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 「はい、これは持っていきましょう」
 「トランプはいらないんじゃない?」
 「もしかしたらお友達ができるかもしれないですし? こっちの人も頷いていますよ?」
 「そんな暇はないと思うけど……」

 ファムの荷物整理を見てため息を吐くルーンベルが、なにもないところに視線を向けて言う。
 そう、魔族領へ準備を進めている俺達。
 できれば当日中に出発をしたいと思い、大急ぎで対応中である。
 
 ……正直な話、勇者の血を引いていると知り、あの冥界での戦いでレベルアップしている今の俺ならもしかするとメギストスを倒せるかもしれない。
 だが、ヤツが全てを握っていると考えればヴァラキオンを抹殺した理由としてはあり得るだろう。

 「ザガムさん、向こうの食べ物ってどうなんです? やっぱり持っていったほうがいいですか?」
 「だいたい似たようなものだ。パンの素材が違うとかはあるが」
 「なら、少しだけ持っていこうかな」
 「俺の収納魔法に入れておくから用意しておいてくれ。あれなら腐らない」
 「はーい!」

 着々と準備が進む中、俺はあの夜に食べたハンバーグを思い出していた。
 死ぬつもりはないが、もしかするともう食べられないかもしれない。
 それとルックレスに覚えて貰えれば向こうでも食べられる可能性がある。

 「というわけで、少しだけ寄り道をしようと思う」
 「急ですね。それに、ザガムさんが寄り道とは珍しい……」
 
 イスラが真面目な俺ならそういうのは抜きで真っ直ぐ向かうと思っていたらしい。
 確かに以前の俺ならそうだったかもしれないなと思う。

 「魔族領に行けば否が応でもなにかしらイベントは起こるだろう。その前に、食べておきたいものがあるのだ」
 「へえ、あんたがそこまで言うとはね」

 敵地に乗り込む前の決起会としてやるのもいいだろうと言うことで決まった。
 程なくして準備を終えると、戸締りをして黒竜へ乗り込む。
 
 「では、頼むぞ」
 「グルゥ」

 進路はオルソネリア王国、キアンズの町だ。
 
 「楽しみですねー」
 「はい、ザガム様が気に入ったという料理を是非マスターしたいです」
 「そしたらずっと食べ続けられますもんね」
 
 ファム、ルックレスが乗る黒竜にイスラのワイバーンが接近してそんな話をしていた。マスターしてくれれば儲けものだが、レシピを簡単に教えてくれるとは思えないので、期待半分というところか。

 「この子達はどうするの?」
 「門の前は広かったからそこに置いていいか聞こう。問題があるなら森の中だな。ちゃんと飯は用意してやるから」
 「ガウ」

 よしよし、言うことをちゃんと聞いてくれているな。
 これだけ大人しいなら問題はあるまい。

 ◆ ◇ ◆

 「ダメに決まってんだろ!?」
 「ふむ」

 ダメだった。
 顔を知っている門番だったから大丈夫だと思ったのだが……

 「でもほら、大人しいですし、町の中とまではいいませんから……!」
 「でもなあ……って、しばらく見ないと思ったらすげえパーティーを組んでんのなお前」
 「ねえ、お兄さんちょっとほんのちょっとだけだからいいでしょ?」
 
 ルーンベルが微笑みながらウインクをすると、門番は目を大きく見開いて顔を赤くしていた。

 「おう!? び、美人だ……。どれくらい居るんだ?」
 「夕飯を、ハンバーグを食べるくらいの時間だ」
 「なんだ、数時間くらいか。まあ、町の外ならいいぜ」
 「そうか、助かる。お前達、少し待っていてくれ」
 「「「「ガル」」」」
 「よくしつけられてんな……ドラゴンなのに……」

 門番の呆れた声を聞きつつ、町へ入ると真っすぐにあの酒場へと向かう。
 時間は以前来た時と同じく、開店直後。

 「久しぶりだなマスター。また、食べに来たぞ」
 「んあ? ……おお、おめえさんか! 久しぶりだな! お、えれえ美人を連れているじゃねぇか」
 「ああ、旅先で知り合ってパーティーを組んでいる。ハンバーグを人数分頼む」
 「へへ、わざわざ客を連れて来てくれるとは嬉しいじゃねぇか。おし、少し待ってな、酒は?」
 「そうだな、いただこう」

 静かな酒場で料理を待ち、マスターが酒を持ってきたので乾杯をするかと口々に言う。
 そこでファムがやりたいというので任せると、照れたように笑ってジョッキを掲げて口を開く。

 「えへへ、ありがとうございます! ……もしかしたらこれが最後の戦いになるかもしれません。今日はたくさん食べて備えましょう! 私はみんなと仲良くしたいですけど、戦うことになれば……覚悟を決めます。必ず生きて帰りましょう! かんぱーい!」
 
 ファムの宣言に拍手が響くと、ルーンベルが一口酒を飲んだ後、俺に目を向ける。
 
 「ええ。大魔王を倒したら結婚するんだもんね、ザガム?」
 「ああ、まだその気があるならな」
 「勇者の血を引いているならこちらからお願いしたいくらいですね! ペットはブレイブ君で大魔王城を乗っ取りましょう!」
 「イスラ様は面白いですなあ」
 
 そこからしばらく酒を飲みながら雑談をし、いよいよハンバーグが登場した。
 
 「うわあ! これ、お肉ですか!」
 「ステーキ……とは違うのね」
 「なんというじゅーしぃな……柔らかくて、口の中で肉汁が広がっていく……これがハンバーグ……大昔に食べたような気がするくらい美味しいです……」

 ファムとルーンベルが驚き、イスラが評論家のようなことを言いながらうっとりとした表情を見せていた。

 「俺がここへ来て最初に食べた食事だが、絶品だった。味わってみてくれ」
 「へえ、嬉しいことを言ってくれるぜ! もう一枚サービスしてやる」
 「むむ……これは……! マスター、僕に教えていただくことは可能ですか……!」
 「ほう、そんなに気に入ったのか」
 「僕は料理人でして、これほど美味しいものは初めて食べました。厚かましいとは思いますが――」
 「いいぜ、隠すつもりもねえ。こっちへきな」
 「は、はい!」

 ルックレスが厨房へ行き、俺達は食事を再開する。
 ファムとルーンベルがイスラを諫め、イザールが周囲の気配りをし、メリーナがつまみを配膳する。

 そうだな、全て終われば平和に暮らすのもいいのかもしれない。大魔王とか【王】とかどうでもよくて、人間を統治するのではなく助け合って生きる――

 (……)
 「ん?」

 ――視線を感じ、目を向けるとファムの横にナルが、見えた気がした。
 
 優しいまなざしで俺達を見ていた、そんな表情で。

 「ザガムひゃん、はんばーぐ、おいしいれふねえ!」
 「もう酔ったのか、早いぞ」
 「うはははは! 酒とハンバーグもってこい!!」
 「イスラ、パンツ見えているわよ!?」

 いや、呆れているのかもしれんな。
 しかしどうしてあいつがファムの横にいるのだろうか……

 「あ!? お前ザガムか!」
 「本当だ!? 勝手に出て行って驚いたんだからね!」
 「む、バリーにリアか」
 「誰?」
 「この町に来た時、依頼を受けたんだが、その時に助けた兄妹だ」

 遠い昔のことのようだなと思いながら、二人と握手を交わす。
 お礼を言えなかっただの、ファムが『お嫁さんは間に合ってます』などといいリアと喧嘩したりと賑やかな夜は深夜にまで及んだ。

 そして、結局、翌日出発することになる――
 
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