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第八章:過去の清算を

その144:仇討ち

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 『トドメをささせてもらうぞ……』
 「ぬん……!」
 『しぶとい……!』

 陰気な声とは裏腹に、毒が回ったマルクスさんを勢いよく突く。
 先ほどまでとは打って変わって、鋭い。
 遅かったのはわざとだったのかと思うくらいだった。

 「手を出すなよ……! これくらい一人で倒せんでこの後、クロウラーを倒せるとは思えん」
 「でも……」
 「問題ない! クァァァァ!」
 『……!?』
 「グ、グォ……」

 けたたましい雄たけびを上げたマルクスさんの羽毛が逆立ち、ドラゴンの鱗のようにも見える状態へ変化。黒竜も一瞬怯むほどの気迫を放出し、再びプラチオへ向かう。

 「ぬぅおおおおおおお!! 貴様はここで止める!」
 『くぅ……! なかなかの勢い。だが、やはり動きが鈍いな』
 
 こっちはこっちで全力を出している。穂先による斬撃、突き、柄での叩きつけをもって、反撃の隙を与えない。だけど、プラチオの言う通り精彩を欠いている気がするのも事実。

 「それでもお前は俺の手で倒す! ……で150年前の大戦時に参加していた俺の祖父は貴様の毒で死んだらしいからな。その仇だ!」
 『チィ……忌々しいあの戦争に居た者の子孫か』
 「お前を見た時、親父達が言っていた特徴と同じだったからすぐに分かった。ザガムと戦うようであれば代わる予定だったが、こっちに来てくれた助かった」
 『むお……!? それならば毒のことも聞いているであろう? それを回復する手段はないことをな!』
 「……」

 え!? ちょっと今、まずいこと言わなかったこいつ!?

 「嘘でしょ!? <マキシマムヒール>!」
 
 びっくりした私は聖女様から教えてもらった回復魔法をマルクスさんへ使ってみた。すぐに彼の体から変な色の痣が消え、プラチオを吹き飛ばした。

 「なあんだ、治るじゃない。驚かせないでよ」
 『ば、馬鹿な……!?』
 「な、治った、だと……?」
 「ごめんごめん、手出しをして欲しく無かったのよね。治らないなんていうからびっくりしちゃって」

 私は頭を掻きながら弁明するも、二人は驚愕の表情をしたまま呆然と浮いていた。
 
 「? どうしたの? 早く決着をつけないのかしら?」
 「いや、その、こいつの毒は回復魔法も受け付けないって爺ちゃんが……」
 『な、何者なのだ小娘……!?』
 「あー、聖女様の魔法だからかしら? 当時にもいたはずだし、改良を重ねたとか?」
 『か、軽い……。しかし捨て置けんな、我の毒を中和できるのなら大魔王様に献上ではなく、ここで殺しておくが吉か!』

 あ、なんか怒ってる。
 とりあえず迎撃すべく本を開くと、マルクスさんが遮るように立ちはだかってくれた。

 「お前の相手は俺だろうが」
 『どけ! 後で相手をしてやる!』
 「いいや、どくわけにはいかん。取り乱している今がチャンス! <デッドリーゲイル>」
 『ぐぬ……!?』
 「お前にやられた皆の仇を今……デッドリースピン!」

 マルクスさんは風魔法で相手を吹き飛ばし、槍を構えたまま大きく上昇した後、回転しながらプラチオへ突撃していく。

 『う、動けない……だと……!』
 「風を操るのは得意なんでね。……死ね!」
 『うぐお――』

 マルクスさんの槍がプラチオの胸を穿ち、そのまま突き破っていく。
 まだ終わっていない。そう思った矢先、空いた穴がぎゅるりと内側へ捩じれて収縮していく。

 『な、んだ……これは……』
 「超回転で穿った傷口は捻じれ、戻ろうとする。その力は捻じれが強ければ強いほど、収縮していくのだ」
 『お……が……そん、な……我は……さいきょ――』

 最後まで言い終えることなく、プラチオの身体は内側から破裂して木っ端みじんになり息絶えた。

 「おお、凄い威力ね」
 「感想がそれだけ!? ……はあ、やはりザガムの嫁になる人間ともなれば肝が違うな……」
 「ふふん、これでも修羅場は色々越えているからね! いやあ、ごめんなさいね、仇、一人で取りたかったんでしょ?」
 
 私がそういうと、呆れた顔でマルクスが槍を肩に置いて口を開く。

 「ま、結果的に自分の手でやれたからいいさ。死なばもろともで倒すつもりだったから……助かった」

 恐らく、毒のことを知っていたから私を近づけさせないようにしていたのかもしれないわね。

 「お礼ならザガムに言いなさいよ? 私がここに居るのは、あいつのおかげなんだから」
 「はは、そうだな。……地上も混乱しているが、空もまだ雑魚が多いな。地上はメギストス様も居る、ここはザガムと合流して制空権を奪おう」
 「オッケー!」

 そういやザガムに派手に叩き落されたヤツはどうなったのかしらね?
 そんなことを思いながら私は黒竜を指示して彼の下へ向かった。


 ◆ ◇ ◆

 
 「キリがねぇな」
 「そうだな、だが上陸はほぼ終わっている。大魔王様が来れば一層してくれるだろう。……ん? なんだ!?」

 俺、ヴァルカンとロックワイルドの二人で魔法生物を蹴散らしているが、とにかく数が多い。
 それと俺達【王】なら余裕で倒せるが、一般の魔族兵は少しきついかもしれないという強さも気になる。
 そんな中、空中からとんでもない加速がついたなにかが落ちてきた。

 「……こりゃあ死んだろ。ザガムにやられたのか?」
 「恐らく……頭から突っ込んだらさすがに……はあ!」

 ロックワイルドが魔族をぶっ飛ばしながらそんなことを言う。だが、落ちてきた魔族が顔を上げたことで俺達は驚く。

 『ぶはっ!? おのれ……一体何だったのだ!? あの勇者と同じ黒髪……ザガム様か?』
 「ひゅう、生きてるのかよ」
 『む、敵か。お初にお目にかかる私は深緑のキシュマテ。とりあえず進軍が止まっているのは貴様等のせいか』
 
 緑の髪に顎髭をたくわえた細身のおっさんが口をひん曲げて刺突剣を俺達へ向けてきた。それを見たロックワイルドが口を開く。

 「魔王軍の【王】が一人【土王】ロックワイルド。俺が相手をしよう」
 『ふふん、なにが魔王軍だ。我らがクロウラー様こそ、大魔王様よ』
 「勝てば本物。違うか?」
 『……そこは同意ですねえ。まとめてかかってきてもいいですよ?』
 「ここは――」
 「あ」

 ロックワイルドが仕掛けようとした時、背後から小さな影がキシュマテを殴りつけた。

 「あっははは! 髭のおっさん、あたしと遊ぼうよ!」
 「キルミス、アンデッド達を出してからだろう? ロックワイルド、ここは僕達がやるから、アンデッド達と道を開けてくれ」
 「む、しかし子供だけで……」
 「だーじょうぶ! ザガム様の役に立ってっ褒められないと! ちょおぁぁぁ!」
 『む、やるな小娘!』

 【霊王】の片割れであるキルミスが拳と蹴りの連打で攻め続ける。イルミスの方はアンデッドを操作し、俺達の援護に入ってくれる。
 コギーと同じくらいの歳ごろに見えるな。あいつの友達にはいいかもしれねえと思ってしまう俺。

 「ロックワイルド、こいつらも【王】だ。範囲攻撃が出来る俺達が道を切り開いた方がいいだろうぜ」
 「分かった。無理するなよ!」
 「はーい♪ ……さあて、本気でいこうかしら、きゃはっ」

 キルミスは指をパキリと鳴らしながら不敵に笑っていた。
 さて、死んでくれるなよ? 
 
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