155 / 155
第九章:ラストバトル
その最後:どこまでも続いていく日常を
しおりを挟む――十年
長いようであっという間だった。
俺やファム、ルーンベルとイスラは一年ほどで屋敷を出て極北へと移り住んだ。
理由はそれほど難しくなく、クロウラーが滅した後、徐々に雪や氷の大地が草木の生えて人の住める大地へと変貌したためだ。
それに黒竜やワイバーンといった大型の魔物がのんびり住む場所としてここがいいと判断したからである。
……何故かこの土地で暮らしたがる奇特な者も居るので、本当に暮らしたい者だけ受け入れている。
運動不足解消として黒竜を馬車代わりにし、日に何度かの定期便をとイスラが言うので採用したところこれが当たり、今では観光気分で島に来るものも多い。
一番はそれほど運賃が高く無いのにドラゴンに乗れるというのが子供たちに人気のようで、ここ五年くらいに街が出来たのだが、それなりに人は多いようだ。
黒竜たちも人懐っこいので、大人しく飛んでくれるのはありがたい。
作物も育つし、宿に商店、航路もあり、この島も国と呼べるくらいに大きくなってきたが、俺達は相変わらず平和に過ごしている。
「あなた、コギーちゃんからお手紙来ましたよ! 結婚式の招待状ですね、その前に一度会いに行きましょうよ」
「そうしよう。……まさかヴァルカンと結婚するとは思わなかったがな」
コギーも立派に成長し、十九歳となった。
昨年からヴァルカンに猛烈アプローチをかけており、自分にとってはまだ子供だ、それにお前が先に死ぬのは分かっているからと断っていたが、ついに折れたらしい。
「まあ、成人してたら気にならないわよね、ロリコンも」
「そうですね、幼女好きでも」
「ヴァルカンに言うなよ、泣くぞ」
「イルミス君の悔しがる顔が目に浮かびますねえ……」
「それも言ってやるなよ」
ルーンベルとファムがそんなことを言って笑いながら、なにを着て行こうかとそれぞれ話す。
そんな二人を見ていると、ふいに部屋の扉が開いた。
「お父さん、剣を教えてよ剣!」
「えー、わたし魔法がいいー! 宿屋のボッツ君に目にもの見せてやるんだから……フフフ」
「メリル、イスラの真似したらダメよ? でも魔法ならイスラに教わった方がいいかも」
「デライトはママと剣の稽古をしましょう!」
入って来たのは俺の息子デライトと娘のメリル。
デライトはファム、メリルはルーンベルとの子で、連れだしているがイスラとの子も居る。
長男のデライトは八歳でメリルは少し遅れて七歳。イスラの出産は一番遅く、五歳の次女バスレイが子供だ。
俺としてはデライトが女の子二人に振り回されそうな未来が見えるので男の子がもう一人くらい欲しいところだ。
「もうすぐイスラが帰って来るから昼を食べた後に教えてやろう」
「「わーい!」」
「ザガム様、お食事の用意が出来ました」
「イザールだ―! また狼になってよ!」
「ほっほ、奥様方の許可があればよろしいですぞ」
ちょうどイザールが声をかけて来てくれ、俺は子供二人を肩に乗せて食堂へ歩き出す。
イザールとルックレス、ミーアは引き続きウチで雇っているが、メリーナはスパイクの下で暮らしている。
ダメな男……でもないが、メリーナはそれが可愛いのだとか言っていたが、スパイクは幸せそうだったので尻に敷かれている部分は目を瞑ろう。
「はーい、戻りましたよ」
「イスラさん、タイミングばっちりですよ! 今からお昼ですよ。ってバスレイちゃん寝てますね」
「ブレイブ君と空の散歩をしてきたんですけど、怖がらないどころか寝る子ですからねえ……メニューはなんです?」
「ハンバーグステーキでございます」
「ハンバーグ!」
「うわあ!?」
イスラの背で船を漕いでいた娘、バスレイがハンバーグの一言で覚醒し、肩に乗ったデライトが驚きの声を上げた。
「あ、ぱぁぱ♪ 抱っこ」
「よしよし、パパと同じ好物のハンバーグだぞ」
「きゃぁ~♪」
満面の笑みで頬に両手を当て、眉毛をへの字にして喜ぶバスレイ。
感情が豊か過ぎて可愛い。
まさか子を作るとは、あの時には思わなかった。
「メリルちゃんこっちにゃ」
「ミーア!」
「大人しく食べるのよ、もう七歳なんだし」
「はーい! バスレイ、おねえちゃんの真似をするのです」
「あい!」
「男が少ないよ父さん……」
「弟が欲しいか、ファム」
「は、はい……」
「私も男の子欲しいわね、子育てもなれたしそろそろ……」
そんなお昼が終わると、昼寝タイム。
子供たちがベッドに休むのを確認したあとリビングへ向かい、尋ねて来たフェルの相手をすることに。
「やあ、ザガム。子供たちは?」
「今は昼寝だ。休みの日まで来るとは。いいのか?」
フェルは子供たちの勉強を教えてくれているのだが、学校の先生という大魔王らしからぬ仕事を選んでいたりする。
島の学校はユースリアやキルミスも教師をし、年代や項目ごとに色々とやっているのだ。
「いわば僕の孫みたいなものだからね、いつでも会いたいよ。まあ、もちろん話が無いわけじゃない」
「……母さんのことか」
「そうだね」
俺の勘は当たったようだ。
そこでファムが目を閉じて口を開いた。
「あ、出てきますか? え? もう大丈夫?」
「ん?」
ファムが独り言のように言うと、次の瞬間、背中からゴーストのような母が飛び出してきた。
しかし、以前、冥界で見てきた時よりも存在感が薄くなっているようだ。
『ふう……久しぶりね』
「どうしたんだ母さん、ファムの体から抜け出して」
「初めまして、というのもおかしいですけど……」
『ふふ、いいのよルーンベルさん。メリルも大きくなったわね』
母さんが目を細めて笑うと、ルーンベルが困った顔、いや少し泣きそうな笑いをしていた。
そして母さんが俺達を見渡した後、深呼吸をして口を開く。
『そろそろお別れだから挨拶に、ね』
「お別れ? ……そうか」
「うん。姉さんは持った方だけど、未練が無くなった今、この世に留まる理由がもうないんだよ」
「そんな……私はもっとお義母さんとお話したいです! 子供たちが大きくなるのを……うっ……見守って……」
「ファム、気持ちはわかりますけど、お義母様を休ませてあげるのもわたし達の役目です」
泣き出すファムにイスラが肩に手を置いて優しく諭すように言う。
いつか来るとは思っていたがいよいよか。
「覚悟は決めていた。ここに縛ったままというわけにも……いかないからな」
『ザガム……ありがとう……ふふ、あなたの泣き顔を見れただけでもここに残った価値はあったかな? 息子の成長も見れた。孫も見れた。そして大魔王クロウラーを完全に消滅させた。思い残すことは本当に無いわね!』
「姉さん……」
『フェルもありがとうね。私の為に魔族になってまでザガムの面倒を見てくれたし』
「いいんだ。僕は姉さんのためにならなんでもすると決めていたからね」
そういってフェルも珍しく涙を流して笑っていた。
姉弟として、仲間として一緒に過ごした彼の思いはどうだっただろう。
報われているといいなと、思う。
そして短い間だったが、母さんは間違いなくここに居て、俺達と共に生きたのだ。
『それじゃ、そろそろ行くわ。仲間を大事にね』
「お義母様……」
『絆を大事に』
「ええ」
『愛を大事に』
「はい……。はい……!」
『命を……大事に』
「ああ」
イスラ、ルーンベル、ファム、俺の順に顔を見て微笑み、最後は母さんも泣き笑いだった。
『……ふう。それじゃあね、みんな! ファムちゃん達は先に来ることになると思うけど、私がちゃんと迎えるから安心しなさいザガム!』
「……どんな心配だ。……またな、母さん」
俺が笑うと、満足気な顔で俺にウインクして……消えるように姿が見えなくなった。
「いっちゃいましたね……」
「そうだな」
「さて、お義母様の分まで幸せに生きないとね」
「ですね!」
「では僕は行くよ。また、学校で会おう」
「飲んでいかないのか?」
「たまには一人でゆっくり飲むさ――」
フェルは踵を返し、片手を上げてリビングから出ていく。
そうだな、ずっと窮屈なことをしていたんだ。たまにはいいだろうと思い見送るのだった――
◆ ◇ ◆
――いつか、ファム達とだって別れる時が来る。だけど、幸せを持っていれば先のことなど怖くない。
先だろうが後だろうが、死ぬ前、それまでの過程が大事なのだ。
「お父さん、黒竜たちのお嫁さんを探しに行こうよ! 獣人のサムが言ってたんだけど、ドラゴンばかりが住む島があるらしいよ」
「そこにいるサージュってやつが一番偉くて強いドラゴンなんだって! ね、見たくない?」
「母さん達の許可を得たらな」
「ふっふっふ……そう言うと思ってすでに準備はできていますよ!」
「ぴぎゃー♪」
「ブレイブ君もお嫁さん欲しいって! バスレイもそう思う!」
「ふふ、イスラさんの方が張り切っているお父さんの腕の見せ所ですね!」
「ファム、お前が焚きつけたんじゃないだろうな……?」
「ま、たまには体を動かさないとね?」
「ルーンベルはまだまだ美人だけどな」
「ねー、早く早く!」
「ああ、デライトすぐに行くよ」
俺はいつか来る終わりの為に、幸せを積み重ねるために。
愛する妻と子供を追ってリビングを出ると静かに扉を閉めるのだった――
Fin
◆ ◇ ◆
どうも作者の八神です!
最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~
いかがだったでしょうか?
あまり人気が伸びず、後半は駆け足で進めましたが本当はもっとフェルの話とかを書きたかったなとも思ってました。
最強の魔族と最弱の人間勇者。
異種族での考え方の違いなんかも出せれば面白くなったかもなどなどやりたいことは多かったかもと。
しかしこの作品はこれにて終了とあいなります!
ここまで読んでくれた読者様に最大限の感謝を! 既存作、また新作でお会いしましょう!!
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(304件)
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
>yanaさん
最後までありがとうございました!!
報われない人は……脳内補完でお願いします(笑)
最終的に国に発展する可能性が高いですねー
子供も強そうですし、将来は明るいか?
最後まで本当にありがとうございました!! 今やっている作品が終わったら新作をやろうかなと思ってます!
>リョウさん
最後までありがとうございます!
見たことがあるのは超器用な世界の未来の世界だからだったりします(笑) 2~3000年後くらいかな?
ザガムの先祖はラース君
イルミス&キルミスはウルカなど。
サージュはサージュですね(笑)
他にも色々設定だけは考えていましたが、出す機会が無かったですねえ……
ともあれ、最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
>yanaさん
魔族化して難を逃れたタイプですね!
本来なら死んでた……目立たないロックワイルド……