死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神 凪

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プロローグ:リアルスライドショーのようなもの

3. ごく平均的な一般家庭

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 はい、おはようございます。よく眠れましたか?

 ……死んでいるからずっと眠ってるんじゃないか? はは、上手いこと言いますね。何もありませんけど?



 それでは昨日宣言した通り、今日は一般家庭の様子を見てみましょう。

 
 ポチ……ブゥゥゥン……



 「はい、毎度ありがとうございます。今後ともごひいきに……」

 今日はこの方、リカルドさん一家です。

 冒険者はある意味もっとも多い職種ですが、もちろん他の職業もあります。
 リカルドさんは冒険者に道具を売る人ですね。チェーン店などありませんので、仕入れから販売まで個人経営です。

 ああ、そちらの方、そういった事を? ……ほうほう、フランチャイズでコンビニを?
 
 この話は辞めましょう。



 おや、店の奥から誰か降りてきましたね?


 「……親父、俺は冒険者になりたい。だからこの店は継げない」

 「なぁにぃ! てめぇ誰がここまで育ててやったと思ってんだ!? そんな危険な事する必要はねぇ!」

 「そうは言うが、店の経営状態……あまり良くないんだろ? だから俺が稼いで立て直してから!」

 「バカヤロー! 子供はそんなこと気にする必要はねぇんだ!」

 「なんだと! だから母さんは倒れたんだろ! 親父が無理をさせたから!」

 「お前に何が分かる!」 バキッ! ガッシャーン!!

 「二人とももう止めて!」

 「か、母さん! 寝てないとダメだよ!」


 ざわざわ……ざわ……


 カットカット!! 早く消してください!



 ……ふう、申し訳ありません。間違えました。

 (この家族仲が良かったじゃありませんか……え? 1ヶ月前に奥さんが倒れてからこんな状態? 早く言ってください……ほら、騒ぎ始めたじゃないですか)

 はい、はいはーい! パンパン

 それでは気を取り直して別の家庭を見てみましょう。

 ……ええ、ええ、ああいった事は稀ですからご安心ください。

 続きが見たかった? 結末が知りたい? ……ご冗談を、ドラマじゃありませんので続きはありませんよ。

 それではこちら、ウォードさん一家ですね。

 (今度は大丈夫なんでしょうね? ……信用しますよ?)






 「おおーい、ちっと手伝ってくれや!」

 「あいよ父さん。棚から小麦粉を降ろせばいいのかい?」

 「そうだ、分かってるじゃないか」

 「へへ、いつも見てるからね!」

 こちら、ウォードさん一家。

 町でも有数の商家で、息子さんと奥さん、それとアルバイトで店を盛り上げていますね。

 「オーナー、こちらの調味料はどこへ?」

 「それはこっちのワゴンでいいよ。いやあディアナちゃんはよく働いてくれるから大助かりだね、どうだウチの息子の嫁に……」

 「お、おい父さん……」

 「うふふ、考えておきますね!」

 今回ご紹介しているウォードさんは主に食料品を扱う商家なのです。
 他にも食料品を扱うお店はありますが、ウォードさんの所は色々と戦略を練っていますから大きくなったのです。
 あなた方なら、前世の知識を活かして何か面白い事が出来るかもしれませんねぇ? ああ、あくまでも「かも」ですからね? やる気次第ですよ?
 おや、奥さんも出て来たようですね?

 「そろそろお昼にしませんか?」

 はい、奥さんも美人ですね!


 カチッ


 「もうそんな時間か、ディアナちゃん店番を少し任せていいかな」

 「はい! 私は後で構いませんので! ごゆっくりなさってください」

 どうですか? 自分の息子にこんな可愛い嫁が来るかもしれないんですよ?
 奥さんも美人でしたね、こんなゴリラみたいな男についてくるんですよ? 容姿で悩んでたあなたもこの世界ならモテモテかもしれないんです!

 「誰がゴリラだコラ!」

 「ど、どうしたんですかオーナー?」

 「い、いや何か俺を蔑む声が……」


 そこのあなた、そうあなたです。あなたもチンパンジーみたいな顔してますけど、この世界に行ったらイケメンになれるかもしれないんです。
 まあチンパンジーでも大丈夫です。このゴリラもしっかり嫁さんをゲットしてますからね!


 「うおおおおどこだああああ!! ゴリラやらチンパンジーやらうるせえぞ! ぶっころしてやるぁ!!」

 え? スイッチが入っている? 

 ……カチッ


 

 ……では次の場面ですね。

 「はあはあ……いったいどこの誰だ……馬鹿にしやがって……」

 「まあまあどうなされたんですか? はい、お水」

 「ありがとう……んぐ、んぐ……ぷは! ついカッとなっちまった」

 「父さんも歳なんだからあんまり無理しないでよ?」

 「ふん、言うようになったな。ま、お前が嫁さんをしっかり捕まえてくれればいいんだがな?」

 「く……やぶへびだったか……」

 「はっはっは! まだ俺をやりこめるには早かったようだな。さ、母さんの作ったご飯をいただくとしようか」


 どうです? この平和的な家庭風景!

 おや、そこの女性。家庭に興味が? ははあ、小さい頃は施設に……となると家庭への思いは人一倍ですよね。

 分かります。

 カチッ

 女性としてこの”キルアットダリウスオーマイングレゴット”に生まれ変われば、こういった幸せな家庭を築くことができるかもしれませんよ?

 「……幸せな家庭? さっきから何か声が聞こえるな……まあ、幸せな家庭か、へへ、悪い気はしねぇな……」

 後はゴリラと結婚しないよう気をつければいいんです。第一印象は重要ですからね。後はキチンと付き合って中身重視も問題ないイケメンをゲットしましょう! 貴族なんかは美男美女が多いですから狙い目ですね。

 「ゴリラで悪かったな! ……見た目はアレだけど、優しい俺がいいって言ってくれたんだよ……うっうっ……」

 「ど、どうしたんだ父さん!?」

 「あらあら、見た目と違って涙もろいのは昔と変わりませんね、フフ」


 カチッ

 ……これ、早く修理してもらうよう頼んでください。

 ギャーギャー!

 ああ、皆さん落ち着いてください、私も言いすぎました。その点については謝罪します。

 ギャーギャー騒がないでください、うっとおし……いえ、なんでもありませんよ?


 ---------------------------------------------------


 ボロッ



 んん……ごほん。


 さて、ここまで”キルアットダリウスオーマイングレゴット”の住人を見ていただきましたが如何だったでしょうか?

 まだ他の人も見たい?

 この前「次で最後」と申し上げたように今日で最後です。

 転生するか、昇天するか、もうあなた方にはその2択しか残されていないのです。

 若くして亡くなってしまった人はせっかくですし、この世界に転生した方がお得だと思いますけどね?
 昇天したらミジンコやカメムシ、もしくは黒い悪魔かもしれないんですよ?

 え? 選評に悪意がある? そんなつもりは……プフ……ありませんよ? 事実を述べたまでですから。

 今なら大特価で、「この世界なら」一応「人型」として転生できるように手配いたしますし、記憶も引き継いで差し上げますよ? 強くてニューゲーム? 何のことか分かりませんがあなたはミジンコでいいですかね?

 
 さ、明日は行き先を決めてもらいますので、今からの時間は就寝まで自由です。
 他の方とお話をされて決めるも結構、もう決まっているからは部屋で休んでいただいても構いません。

 ああ、それと煙草は喫煙所以外では禁止してますので、部屋や廊下で吸っていたらミジンコですのでご注意ください。

 食事はあっちにいる黄色い髪の者に頼んでください。和・洋・中なんでもあります。
 豪華ですか? はは、最後の晩餐になるかもしれないですからね。

 はい? その表現はマズイ? 

 ……ここは死者の魂を厚くおもてなしするための施設ですからね! 食べて飲んで、次の行き先を決めてください!

 それでは解散!





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ついに現れる主人公。


転生か昇天か、二つの選択に揺れ動く彼の心に決意させるものは何か?
彼の選択はどのような物語を、そしてどのような結末を迎えるのか?


……そして、主人公はまっとうな人間なのか?


次回「同意書と契約書」


ご期待ください。





 
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