死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神 凪

文字の大きさ
6 / 48
ケース1:海

2. 親を説得するのに困った時は兄弟にも相談しよう(解決するとは言っていない)

しおりを挟む
 

 「おらあ! 誰がメンタル弱いんだ! ……はあはあ……くそ、死んだら覚えてろよマジで……」

 スイッチは切ったままらしく、自室で怒鳴りつけるがまるで無反応だった。こういう所もムカツク要因の一つだ。このままだときっと禿る。

 「しかしまいったな、ここまで拒否反応を示すとは母さんはともかく、父さんは流れに身を任せて頷くと思ったんだが……」

 また時期が来たら聞いてみよう。あれだ、冒険者は危険じゃない宣伝を書いたパンフレットでも用意するか。

 しかし何とか早めに死にたい……良い方法は無いか……。

 コンコン

 ベッドの上で考え込んでいると、ドアがノックされた。

 「開いてるよー」

 「やあ、クリス。父さんたちに何て言ったんだい? めちゃくちゃ落ち込んでたけど……」

 おや、俺の部屋に来るとは珍しい。
 このめっちゃ優しそうな目をした金髪イケメンは兄のデューク=ルーベイン。21歳である。

 「んー、俺も16になったろ? だから家を出て冒険者になりたいって……」

 そこまで言った所でガクっと膝をつく我が兄。

 「それは困ったことを言ったね……。僕が言うのも何だけど、父さんと母さんは親バカだよ? そんな危険な事を許す訳がないじゃないか」

 とか言うこの兄も相当の兄バカなんだよなあ……。

 俺が6歳、兄さんが10歳の時に、俺は初めて町へ買い物に出かけたんだけど、身なりのいい子供ってのは狙われやすい。この世界はそういうものだってその時に分からされたね。

 ちょっと兄さんと離れた隙に、例によって(?)肩にトゲのついたジャケットを着て、モヒカン頭をした二人組に絡まれて裏路地へ。そしてお決まりの「有り金を置いていけ」と言われたわけだ。

 俺は仕方なく財布を取り出したんだけど、その時に乱暴に盗られ、俺は突き飛ばされて転んだ。

 そこまではまあカツアゲとしてありそうな場面だが、その後が大変だった。
 俺を必死で探していた兄さんが、俺が転んだ場面に出くわし、近くにあった角材でモヒカンをボッコボコにしはじめたからだ。

 「く、くそ! このやろう! あべ!?」「ひ、ひいい! 何だこい……ひで……!?」

 モヒカンは抵抗するがまるで敵わない。
 それもそのはず。10歳で皆伝レベルの腕前を持つ兄さんなので、その辺の不良程度の男達が敵うはずが無い。
 
 いつもは暴力なんて微塵も振るわない人だったから、騒ぎをかけつけて来たみんなが驚いてたよ……。

 「弟がやられて黙って見ているなんて兄としてそんなことは出来なかった」と、質問してきた自警団に向かって真っすぐ目を逸らさず言い切った兄を俺はカッコいいと思った。やりすぎだと怒られていたが。

 普段は優しいけど、いざという時はやはり兄だなと感じたよ。

 カチッ

 「やっぱり難しいかな……」

 「というか何で冒険者なんだい? クリスは発明したお金とかあるし、何なら他にも発明するための資金にして研究者になればいいじゃないか」

 うーむ、まさか「自殺したいから」など、言えない……。

 <そうですよ、お兄さんの言うとおり研究者がいいじゃありませんか! その世界をどんどん発展させてくださいよ、そしたら私の給料も……おおっと、危ない危ない>

 「お前今何て言った!?」

 「ど、どうしたんだい!? ……ああ、例の発作か」

 すいません。

 「そ、そうそう。いきなり悪いね。こればっかりは後回しにするってのが出来ないから……」

 <私に構わず、話を続けてください。何かあれば言いますから>

 「(言わなくていいんだよ! どっか行け!)」

 <はあ、仕方ありませんね……>

 カチッ

 「……ふう」

 「凄い汗だよ? もう休んだ方がいいんじゃないかい?」

 「そうする……。兄さんは?」

 「僕はアンジュと一緒にちょっと出掛けてくるよ。おみやげは期待していいよ」

 アンジュさんは兄さんの妻だ。兄さんは何気に結婚してたりする。

 まあアンジュさんもおっとりしていて母さんっぽいけど、母さんよりさらにゆるくした感じの人だ。

 でもいざという時に強い。

 追いつめられるほど真価を発揮する人だけど、俺からは恐ろしくてこれ以上言えない。

 「気を付けて、とは言え領内最強の兄さんに言う事でもないか……」

 「ははは、クリスに言われたら自信がつくね。それじゃ、ゆっくり休むんだよ」

 はいよっと。片手をあげて見送った。

 恐らく兄さんは両親の放った刺客だ。冒険者にさせまいと牽制を入れてきたな……?

 「ま、今は考えても仕方ないし寝るか」

 スイッチが切れている今の内に寝る事にした。


 ---------------------------------------------------


 カチッ


 「兄さんー」

 「お兄様ー」

 ドアの向こうから声がして、俺は目を覚ます。ありゃ……2時間も寝てたのか……。

 来訪者はいつもの二人だな……頭を掻きながらドアを開けて招き入れてやる。

 「ああ、良かった! 起きていたんですね。呼んでも返事が無かったからてっきり……」

 てっきりなんだ?

 「もう、寝るならわたくしが添い寝しましたのに!」

 やめてくれ。

 この若干黒い二人は双子の兄妹で俺の弟と妹になる。

 ウェイク=ルーベインが弟で、アモル=ルーベインが妹で共に10歳。

 ウェイクはサラサラ金髪(母親似)で、男だけど女の子みたいな顔をしている。

 アモルは金髪ツインテールというテンプレでやはり母さん似(双子だしなあ)
 

 「父上に聞きましたよ! 冒険者になりたいって! いいなあ、僕も冒険者になりたいなあ!」

 「ダメよ! お兄様は私とずっとここで暮らすんだもん!」

 ウェイクは俺が大好きで事あるごとに付いてくることが多かった。
 というより、見た目女の子みたいだから、からかわれることが多くてな、よく助けてたんだけどそれで懐かれたってのはあるな。
 でも、別に気弱って訳じゃないんだ。ある日、やっぱりからかわれているところに遭遇したから助けようとしたんだ。
 その時、俺を馬鹿にする事を相手が言ったらしくて、ウェイクが初めてブチ切れた。

 ……近くになったナイフで長かった髪を切って「僕は男だ! 兄さんまで馬鹿にするなら許さないぞ!」と、もみくちゃになりながらも相手に勝利していた。2年前の話か……懐かしいな。
 いざという時の爆発力は恐らくかなり凄い。我が弟ながら先が楽しみな存在だ。

 アモルは……ヤバイ意味で俺が大好きだ。勘違いじゃなく愛されていると思っていい。
 事あるごとにキスをねだり、夜な夜なベッドへ忍び込んでくるという事案レベルで危ない。

 他の兄妹や両親の前では言動程度におさまっているが、二人きりになると途端に野獣になる。それがアモルだ。
 「お兄様と結婚する」というフレーズ。小さい頃は可愛かったが、今は他の人から聞いたとしても戦慄を覚えるフレーズと化した。

 基本的には常識人でいい子なんだけどねー。俺に対する愛情が振り切っているだけで。
 いざという時は……いや、もういいか……。

 「冒険者なんてすごく男らしい! 兄さん、冒険者になったら僕も連れてってね!」

 「あ、ああ……でも父さんと母さんに止められたんだけどな」

 <ガーン!>

 ウェイクが、ガーンという効果音と共に膝から崩れ落ちて涙を流す。つか、今のガーンは違うだろ!?

 「ふふん、冒険者なんて危険で臭そうな仕事はお兄様には合いませんわ、それよりホットケーキみたいなお菓子はもう作らないんですの?」

 「とりあえずアモルは冒険者に謝ろうな? そうだなー材料があれば考えるけど……」

 <そうそう、そういうのでいいんだ! 妹ちゃんナイスですよ!>

 「ああん!?」

 <ヒイ! 目が合った気がした!?>

 「アモル、女の子がしちゃいけない顔になってるぞ。それじゃあ俺は好きになれないなあ」

 「そ、そんな!? えへへ♪ これでいいですかあ?」

 むしろその変わり身の早さにお兄ちゃんドン引きだよ。

 「ま、それはともかくアモルには悪いがまだ諦めちゃいないんだ。何とかして次のプランを……」

 「あ、そうなんですね。良かったぁー」

 割と早く復活したウェイクがホッと胸を撫で下ろすと、アモルが複雑そうな顔のまま俺にパンフレットを見せてきた。

 「ん? 旅行のパンフか? ……ほう、海か」

 「う、うん。お兄様は忙しいと思うけど、みんなでどうかな? って思って。デュークお兄様が結婚してから家族で出かけてないでしょ?」

 アモルは俺に対することを除けばとてもいい子なのだ。大事だから二回言う。
 海か……釣り、海水浴……あ!

 「そうだな、俺からも父さんと母さんに聞いてみるよ!」

 <一体どうしたんですか? 海なんて珍しい>

 「やかましい! ふふふ、見てろよ……」

 <おー怖い怖い……あ、もうご飯の時間ですか今行きまーす>

 カチッ
 
 「(例の発作かな?)」
 「(例の発作よ、おさまるまで待ちましょう)」

 嫌な気の使われ方だった。

 しかし俺はアモルのおかげでいい事を思いついた。これなら『丈夫な体』の俺でもきっと……!
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...