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ラストケース:全ての決着
7. 謀反
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<……今更私に何か話があるとは思えませんが……>
ハイジアの言葉で完全に疲れ果てたオルコスが主任と呼ばれた男に力なく呟くと、主任が口を開いた。
<まあ、このままお前は罪を償うために一度浄化のため魂に返るからな>
<なら……>
と、振り返った所で、主任はもう一度声をかけてくる。
<お前は何故、記憶を引き継がせたまま転生させたのだ?>
<?>
話の意図が読めず、もう一度振り返って主任を見るオルコス。
<規則で記憶を持ったまま送り込むことは禁じられている、というのは周知の事実。例外があるとすれば、一級神以上の神が何らかの要因……それこそ魔王を倒す勇者や、疫病の危機に現代の医者を送り込むといったことがあるくらいだ。お前はどうしてその考えに至ったのだ?>
<……>
オルコスは黙ったまま主任をじっと見つめ、やがて口を開く。
<……私は……私は一級神に早くなりたかった。ポイント制度というのは一見平等に見えますが、送り込んだ人間の生まれや状況によってバラバラになりすぎる、そう思っていました>
<おまけみたいなものだからな。我々はより良い世界を作る必要があるものの、干渉しすぎるとバランスが悪くなってしまうから、よほどのことが無い限り知恵を貸すことは禁じられている>
<ええ、よく存じておりますよ。ですが、平和な世界を担当した者は殆どポイントが入らない。それはどう思われますかね?>
<……担当を割り振られた限り仕方あるまい? そ、それよりお前に話があると言ったことなんだが……どうだ、私の為に働いてくれるなら今回のこと、無かったことにしてもいい>
<え!?>
驚いたのはハイジアだった。わざわざ捕まえたオルコスを見逃そうと言うのだから無理も無い。しかし、それに対しオルコスはフッと笑い、言葉を続ける。
<……なるほど、あなたでしたか。二級神を唆して自分の手駒にしてポイントを自分にいくらか振り分け、その代わりに担当をつける際に優遇する手続きを行っている。そうですね?>
すると、それまで強面だが柔和だった主任の顔がみるみる内にゲスい顔に変わり、笑いながらオルコスに告げる。
<ふん、その口ぶりだと俺というところまではつかめていなかったようだが。まあいい、そのことを知っているならお前に用は無い。このまま消えてもらう……お前は目立ちすぎた。大人しく使われていればよかったものを……一級神に上がるのは……俺だ>
<……あなたのせいで陥れられた二級神も多かったようですねえ。同じ二級神でも役職付きのあなたならこんなことをせずとも上がれたのでは?>
<500年だ>
<?>
<俺はもう500年、二級神をやっている。最初は俺も頑張ってポイントを集めるため色々考えたさ。だが、どうやっても俺の担当だった人間の世界では大きくポイントをもらうような出来事は起きなかった……しかし長年やっていると、一応の役職はもらえるもので、俺は主任となった>
<そこで、他人のポイントを頂く計画を?>
オルコスが尋ねると、ニヤリと笑って答える。
<そうだ。主任になってある程度融通は利くなったからな、ちょっと囁いてやれば協力してくれたよ。あまり役に立たないヤツはお前みたいに適当に罪を作れば良かったしな>
まあ、お前は自分から罪を作ってくれて楽だったな、と言いながら主任が笑っていた。
<……そうでしたか>
<残念だったな。次の査定では俺とお前、どちらかが一級神になるか決まるくらいのポイントがあってヒヤッとしたよ。お前が裁判で俺を告発しても罪人のお前の言葉を聞くものなどいない>
<……>
黙っていたオルコスの代わりに、主任の背後にいたハイジアが口を開いた。
<わ、わたしが居るわ。オルコスの罪は変わらないけど、あ、あなたもとんでもない悪党だったって訳ね! このことを一級神様に言えば……>
<……なぜ俺がこうもペラペラと喋っていたのか、わかるか?>
<! 逃げなさいハイジア!>
オルコスが叫ぶと同時に、主任は動いていた! 身を翻して走り出そうとしたハイジアの首を主任が抑えていたのだ。
<う、うう……>
<フフフ、俺に逆らえないよう調教してやろう。お前の女だったんだろう? 楽しみだ。一級神になれば、さらに色々できる。それこそ創造神を出し抜いてやることもな>
<ハイジアを離しなさい!>
<ハハハ、吠えろ吠えろ! そのまま指を咥えているんだな! ……来い>
<この!>
<ぬぐ!? この女ぁ!>
ドカッ! と、ハイジアが主任の腹に蹴りを入れると、激怒した主任が壁にハイジアを叩きつけた。
<う……>
ずるりと崩れ落ちるハイジアの髪を掴んで、引きずろうとするのを見てオルコスが叫ぶ。
<ハイジア!? その人に何かあったら許しませんよ!!>
<許してもらう必要はないな? では、さらばだ。もう会うこともなかろう>
<……くっ……ハイジア! 誰か! 誰かいませんか! 主任は極悪人です! この男を捕まえて……>
<ここはお前専用の牢だ、誰も来やしな……>
と、出口へ向かっていた主任が声を詰まらせて立ちどまる。オルコスからは見えないが、誰かが行く手を塞いだようだった。
<お、お前……オルコスの……それに、あ、貴女は……!?>
ハイジアを捨てて後ずさりしてくる主任。それを追ってきた人影を見て、オルコスは目を見開いて驚いた。
<あ、あなたは!?>
「やれやれ、まさかこんなところで再会するとはな。そして月並みだが言わせてもらう。主任とやら、お前はもう終わりだ」
<クリスさん!? あ、あなたは死んだはずでは!>
「おう、死んだぞ。まったく、生きている頃はガタガタ言ってきてうるさかったと思ったら、とばっちりでこのザマだ。……覚悟しとけよ?」
『それは後でいいから、今はこいつを拘束するわ』
<……ルア、様か。どうして貴女が地上人と一緒にこんなところに……>
冷や汗をかきながら主任とやらが絞るように言うと、ルアは主任に告げた。
『オルコスとこの人を合わせるためと、オルコスに話を聞くためよ。重犯罪の檻に入れたのはあんたね? オルコスに話を聞いてから調べようと思ったけど、勝手に話してくれてありがとうね』
にっこりとルアが笑い、ギリっと歯噛みをする主任。
「おい、あんた大丈夫か」
<う、ううん……ハッ!? あ、あなたセルナの……!? どうしてここに!? ルア様も!?>
「セルナを知っているのか?」
『その子は後回しよ。さ、同行してもらうわよ』
<ぐ、ぐぐ……(ここで捕まれば俺は終わりだ……まさかルアが聞いているとは……ならば!)>
「何!?」
追いつめられた主任が手に光の刃を出して襲いかかってきた!
<お前を殺してオルコスを殺す! ハイジアに罪を被せれば……!>
「危ない!」
ザシュ!
「いてぇぇぇぇぇぇ!?」
ルアを庇うため前に出て光の刃を受けた俺は肩口からざっくりやられていた。体が丈夫じゃない!?
『バカね、何やってるのよ。とりあえずどきなさい』
ルアが俺を押しのけて、尚も攻撃してくる主任の前に立つ。
<お前の椅子には俺が座ってやる……!>
『私、一級神じゃなくて創造神なんだけどね? あんたには荷が重いわ』
俺は転がりながらルアを見ると、何も持たずに主任を迎え撃つ体制を取っていた。
「お、おい!?」
<ふはは……! もらった! ……え?>
主任があほみたいな声を上げた瞬間、体に無数の痣ができていた。目の前にはルアが目にもとまらぬスピードで拳を繰り出してた。
<ぐは!? うぐお!?>
『あんた程度に武器も魔法も要らないわ。私の妹の万分の一にも及ばないわよ? それじゃ、おやすみ!』
ドゴ!
強烈なストレートが主任にヒットし、反対側まで吹き飛ばされていき、壁に叩きつけられた後ずるっと滑り落ちるように倒れた。
『はい、おしまい。後はよろしくね』
<は、はは……!>
ルアが合図をすると、一緒に着いて来た神が主任を連れて行った。
『あーあ、派手にやられたわねー。こっちだと特殊な力は何も無くなるからあなたは普通の人よ。はい』
ふわっと暖かい光が俺を包むと、ケガが一瞬で回復した。
「すごいな……」
『まあ、これでも上の方の女神だからね』
「胸は無いのに……」
『消滅させるわよ』
「すいません」
俺は即座に頭を下げ、謝罪すると力を蓄えていた右手を収めてくれた。本気だったんかい……
それはともかく、ついに俺はオルコスと再会することになった。
---------------------------------------------------
オルコスより悪党だったポッと出の黒幕、主任は倒れた。
結果オーライの状況に、とばっちりを受けたクリス。
そして、オルコスと再会したクリスはどうするのか?
最終回『世界の選択を』
ご期待ください。
ハイジアの言葉で完全に疲れ果てたオルコスが主任と呼ばれた男に力なく呟くと、主任が口を開いた。
<まあ、このままお前は罪を償うために一度浄化のため魂に返るからな>
<なら……>
と、振り返った所で、主任はもう一度声をかけてくる。
<お前は何故、記憶を引き継がせたまま転生させたのだ?>
<?>
話の意図が読めず、もう一度振り返って主任を見るオルコス。
<規則で記憶を持ったまま送り込むことは禁じられている、というのは周知の事実。例外があるとすれば、一級神以上の神が何らかの要因……それこそ魔王を倒す勇者や、疫病の危機に現代の医者を送り込むといったことがあるくらいだ。お前はどうしてその考えに至ったのだ?>
<……>
オルコスは黙ったまま主任をじっと見つめ、やがて口を開く。
<……私は……私は一級神に早くなりたかった。ポイント制度というのは一見平等に見えますが、送り込んだ人間の生まれや状況によってバラバラになりすぎる、そう思っていました>
<おまけみたいなものだからな。我々はより良い世界を作る必要があるものの、干渉しすぎるとバランスが悪くなってしまうから、よほどのことが無い限り知恵を貸すことは禁じられている>
<ええ、よく存じておりますよ。ですが、平和な世界を担当した者は殆どポイントが入らない。それはどう思われますかね?>
<……担当を割り振られた限り仕方あるまい? そ、それよりお前に話があると言ったことなんだが……どうだ、私の為に働いてくれるなら今回のこと、無かったことにしてもいい>
<え!?>
驚いたのはハイジアだった。わざわざ捕まえたオルコスを見逃そうと言うのだから無理も無い。しかし、それに対しオルコスはフッと笑い、言葉を続ける。
<……なるほど、あなたでしたか。二級神を唆して自分の手駒にしてポイントを自分にいくらか振り分け、その代わりに担当をつける際に優遇する手続きを行っている。そうですね?>
すると、それまで強面だが柔和だった主任の顔がみるみる内にゲスい顔に変わり、笑いながらオルコスに告げる。
<ふん、その口ぶりだと俺というところまではつかめていなかったようだが。まあいい、そのことを知っているならお前に用は無い。このまま消えてもらう……お前は目立ちすぎた。大人しく使われていればよかったものを……一級神に上がるのは……俺だ>
<……あなたのせいで陥れられた二級神も多かったようですねえ。同じ二級神でも役職付きのあなたならこんなことをせずとも上がれたのでは?>
<500年だ>
<?>
<俺はもう500年、二級神をやっている。最初は俺も頑張ってポイントを集めるため色々考えたさ。だが、どうやっても俺の担当だった人間の世界では大きくポイントをもらうような出来事は起きなかった……しかし長年やっていると、一応の役職はもらえるもので、俺は主任となった>
<そこで、他人のポイントを頂く計画を?>
オルコスが尋ねると、ニヤリと笑って答える。
<そうだ。主任になってある程度融通は利くなったからな、ちょっと囁いてやれば協力してくれたよ。あまり役に立たないヤツはお前みたいに適当に罪を作れば良かったしな>
まあ、お前は自分から罪を作ってくれて楽だったな、と言いながら主任が笑っていた。
<……そうでしたか>
<残念だったな。次の査定では俺とお前、どちらかが一級神になるか決まるくらいのポイントがあってヒヤッとしたよ。お前が裁判で俺を告発しても罪人のお前の言葉を聞くものなどいない>
<……>
黙っていたオルコスの代わりに、主任の背後にいたハイジアが口を開いた。
<わ、わたしが居るわ。オルコスの罪は変わらないけど、あ、あなたもとんでもない悪党だったって訳ね! このことを一級神様に言えば……>
<……なぜ俺がこうもペラペラと喋っていたのか、わかるか?>
<! 逃げなさいハイジア!>
オルコスが叫ぶと同時に、主任は動いていた! 身を翻して走り出そうとしたハイジアの首を主任が抑えていたのだ。
<う、うう……>
<フフフ、俺に逆らえないよう調教してやろう。お前の女だったんだろう? 楽しみだ。一級神になれば、さらに色々できる。それこそ創造神を出し抜いてやることもな>
<ハイジアを離しなさい!>
<ハハハ、吠えろ吠えろ! そのまま指を咥えているんだな! ……来い>
<この!>
<ぬぐ!? この女ぁ!>
ドカッ! と、ハイジアが主任の腹に蹴りを入れると、激怒した主任が壁にハイジアを叩きつけた。
<う……>
ずるりと崩れ落ちるハイジアの髪を掴んで、引きずろうとするのを見てオルコスが叫ぶ。
<ハイジア!? その人に何かあったら許しませんよ!!>
<許してもらう必要はないな? では、さらばだ。もう会うこともなかろう>
<……くっ……ハイジア! 誰か! 誰かいませんか! 主任は極悪人です! この男を捕まえて……>
<ここはお前専用の牢だ、誰も来やしな……>
と、出口へ向かっていた主任が声を詰まらせて立ちどまる。オルコスからは見えないが、誰かが行く手を塞いだようだった。
<お、お前……オルコスの……それに、あ、貴女は……!?>
ハイジアを捨てて後ずさりしてくる主任。それを追ってきた人影を見て、オルコスは目を見開いて驚いた。
<あ、あなたは!?>
「やれやれ、まさかこんなところで再会するとはな。そして月並みだが言わせてもらう。主任とやら、お前はもう終わりだ」
<クリスさん!? あ、あなたは死んだはずでは!>
「おう、死んだぞ。まったく、生きている頃はガタガタ言ってきてうるさかったと思ったら、とばっちりでこのザマだ。……覚悟しとけよ?」
『それは後でいいから、今はこいつを拘束するわ』
<……ルア、様か。どうして貴女が地上人と一緒にこんなところに……>
冷や汗をかきながら主任とやらが絞るように言うと、ルアは主任に告げた。
『オルコスとこの人を合わせるためと、オルコスに話を聞くためよ。重犯罪の檻に入れたのはあんたね? オルコスに話を聞いてから調べようと思ったけど、勝手に話してくれてありがとうね』
にっこりとルアが笑い、ギリっと歯噛みをする主任。
「おい、あんた大丈夫か」
<う、ううん……ハッ!? あ、あなたセルナの……!? どうしてここに!? ルア様も!?>
「セルナを知っているのか?」
『その子は後回しよ。さ、同行してもらうわよ』
<ぐ、ぐぐ……(ここで捕まれば俺は終わりだ……まさかルアが聞いているとは……ならば!)>
「何!?」
追いつめられた主任が手に光の刃を出して襲いかかってきた!
<お前を殺してオルコスを殺す! ハイジアに罪を被せれば……!>
「危ない!」
ザシュ!
「いてぇぇぇぇぇぇ!?」
ルアを庇うため前に出て光の刃を受けた俺は肩口からざっくりやられていた。体が丈夫じゃない!?
『バカね、何やってるのよ。とりあえずどきなさい』
ルアが俺を押しのけて、尚も攻撃してくる主任の前に立つ。
<お前の椅子には俺が座ってやる……!>
『私、一級神じゃなくて創造神なんだけどね? あんたには荷が重いわ』
俺は転がりながらルアを見ると、何も持たずに主任を迎え撃つ体制を取っていた。
「お、おい!?」
<ふはは……! もらった! ……え?>
主任があほみたいな声を上げた瞬間、体に無数の痣ができていた。目の前にはルアが目にもとまらぬスピードで拳を繰り出してた。
<ぐは!? うぐお!?>
『あんた程度に武器も魔法も要らないわ。私の妹の万分の一にも及ばないわよ? それじゃ、おやすみ!』
ドゴ!
強烈なストレートが主任にヒットし、反対側まで吹き飛ばされていき、壁に叩きつけられた後ずるっと滑り落ちるように倒れた。
『はい、おしまい。後はよろしくね』
<は、はは……!>
ルアが合図をすると、一緒に着いて来た神が主任を連れて行った。
『あーあ、派手にやられたわねー。こっちだと特殊な力は何も無くなるからあなたは普通の人よ。はい』
ふわっと暖かい光が俺を包むと、ケガが一瞬で回復した。
「すごいな……」
『まあ、これでも上の方の女神だからね』
「胸は無いのに……」
『消滅させるわよ』
「すいません」
俺は即座に頭を下げ、謝罪すると力を蓄えていた右手を収めてくれた。本気だったんかい……
それはともかく、ついに俺はオルコスと再会することになった。
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オルコスより悪党だったポッと出の黒幕、主任は倒れた。
結果オーライの状況に、とばっちりを受けたクリス。
そして、オルコスと再会したクリスはどうするのか?
最終回『世界の選択を』
ご期待ください。
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