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第三章
第104話 吉か凶か
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「これは快適ですねえ……」
「でしょ?」
「はい、魔兵機《ゾルダート》よりも揺れないし音も静か……」
<ふふん、最新鋭の技術を注ぎ込んだ機体ですからね>
「なんでお前が得意げなんだよ」
とりあえず俺達はフグラの町を出て一直線に次の町を目指していた。
ヴァイス一機と親狐のクレールにガエイン爺さん。そしてシャルとイラスという変編成だ。
俺はガエイン爺さんを肩に乗せてクレールを手に持ってから高速移動をしている。
【きゅーん♪】
「子狐さんは嬉しそうですねえ」
「母親も大人しいし、これならすぐに到着するかしら?」
「追い越さないようにだけ注意だな。ブースターを使っているから恐らくすぐ近くには居るはずだ」
そう話しているとサクヤからの伝達が入ってくる。
<レーダーに反応。敵影3>
「追いついたか。町まではまだかかりそうだな」
「全力を出したら夜中になる前につくな」
「地図を見ると馬車なら一日と少しかかるみたいだからかなり速いわ」
【キュオン】
「ふふ、自分もそれくらいいけるって言ってるわね」
手に乗るクレールが自己主張するように鳴いていてシャルが笑っていた。トップスピードがどれくらいか分からないが今度全力疾走を見せて欲しいものだ。
さて、とはいえ魔兵機《ゾルダート》の足もそれなりに速いのでこのままいけば昼過ぎには到着するだろうか?
今回の作戦概要としては奴等が町へつくまで追跡を続け、町まで行く。
その後、魔兵機《ゾルダート》から降りたらガエイン爺さんが隊長のトルコーイやパイロットを抑える形だ。
イラスにはそのタイミングで一機奪ってもらうようにすれば戦力増強も図れるという算段だ。
「リク様って大胆な作戦を考えますよね……」
「やれることは最善にってな。本当ならグライアード王国の人間は全員殺すくらいの勢いでいいと思うんだが、ビッダーとヘッジ、それにイラスを見ているとグライアード王国そのものに疑問を持っている奴も少なくない。話し合いでなんとかなるならそれが一番いいしな」
<メビウスは問答無用で襲ってきましたからねえ>
「そういえばリクの敵はそんな感じなんだっけ。そういう意味では似てるわね」
まあ、話す余地も無い相手だからこっちはこっちで気は楽だったけどな。ただ殲滅をするだけだし。
「そういえば逃走と戦いの連続で忘れておったが、リクがこの世界に来たのはいったい何故なんじゃろうのう」
「分からない。コクピットにある俺の死にかけの身体の通り、俺はあの時死ぬはずだったんだ」
「リ、リク様も戦争をしていたんですね……」
「ああ。そういや状況は似ているんだよな……俺達も最初はヴァッフェリーゼが無くて、一方的に機動兵器にやられてた。魔兵機《ゾルダート》と同じだな」
偶然だと思うが因果なものだ。するとシャルは笑いながら言う。
「でもリクが来てくれたおかげでこうしてあたし達は生き延びることができたし、反撃もできそうなんだもの。神様っているのよきっと。あ、でもイラス達には悪いけど」
「い、いえ……殺すか殺されるかみたいな状況ですし……」
「……神様か。サクヤも神様の名前からとっているんだよな」
「へえ、そうなの!」
<……>
「ん? サクヤ?」
<ハッ! すみません寝ていました>
「お前寝るの!?」
サクヤも日本の神様の名前を冠しているが、この体たらくだとそうは思えないAIだ。ん? そういえば記憶が飛ぶ前に――
「あれ? そういや意識を失う前にチル――」
<……どうやら町についたようです。皆さま、戦闘準備を>
「お、マジだ。それじゃガエイン爺さんとクレールを下ろすぞ」
ひとまず町に到着した。
明るいのでヴァイスは目立つ。これ以上は近づかない方が無難だろう。
「一旦ここで夜を待つか――」
◆ ◇ ◆
「戻って来たよ」
「お帰りなさいませトルコーイ様! ……おや、ゼルシオ様は?」
「敵に捕まった。エトワール王国の人間が僕達と同じような魔兵機《ゾルダート》を持っている」
「なんですと!? 我々グライアード王国が初では!?」
あたりがすっかり暗くなったころ、町に戻ったトルコーイは魔兵機《ゾルダート》から降りて駆けつけてきた騎士に状況を説明する。
騎士達はゼルシオが捕まり、似たような機体があることに驚愕する。
「それは分からないよなあ。そして性能は格段に向こうが上。正直、殺しにかかられたら十台でも無理だと思うよ」
「そ、それほどですか……いや、確かにへこんでいますな。あれをあのようにするには相当な力が必要ですし」
トルコーイが嘘をつくとは思っていないが、状況を見る限り信じざるを得ないと騎士は呟く。
「作戦を練るぞ。このまま黙ってやられるわけにはいかないんでね」
「ハッ!」
◆ ◇ ◆
「では行ってくるぞい」
「ああ。イラスもすまないが頼むぞ」
「あ、はい」
【きゅーん】
「お留守番しててくださいね」
シャルだけコクピットに残して俺は近くの岩陰に身を隠す。タブレットは爺さんが持っているのでトルコーイを抑えた時点で俺が動く予定だ。
「……さて、この作戦が上手くいくかどうか」
「あたしは悪くないと思うけどね? 一機強奪して隊長を抑える。これで騎士達も手が出しにくいから交渉のテーブルにつかせることはできる」
「話だけ聞いていると、俺達は盗賊かなんかだよな」
<いいのです。悪党に容赦はしない。それが私達に組み込まれた思考パターンです>
「物騒な……」
そんなことを話しながら走っていくクレールを見送る俺達だった。
「でしょ?」
「はい、魔兵機《ゾルダート》よりも揺れないし音も静か……」
<ふふん、最新鋭の技術を注ぎ込んだ機体ですからね>
「なんでお前が得意げなんだよ」
とりあえず俺達はフグラの町を出て一直線に次の町を目指していた。
ヴァイス一機と親狐のクレールにガエイン爺さん。そしてシャルとイラスという変編成だ。
俺はガエイン爺さんを肩に乗せてクレールを手に持ってから高速移動をしている。
【きゅーん♪】
「子狐さんは嬉しそうですねえ」
「母親も大人しいし、これならすぐに到着するかしら?」
「追い越さないようにだけ注意だな。ブースターを使っているから恐らくすぐ近くには居るはずだ」
そう話しているとサクヤからの伝達が入ってくる。
<レーダーに反応。敵影3>
「追いついたか。町まではまだかかりそうだな」
「全力を出したら夜中になる前につくな」
「地図を見ると馬車なら一日と少しかかるみたいだからかなり速いわ」
【キュオン】
「ふふ、自分もそれくらいいけるって言ってるわね」
手に乗るクレールが自己主張するように鳴いていてシャルが笑っていた。トップスピードがどれくらいか分からないが今度全力疾走を見せて欲しいものだ。
さて、とはいえ魔兵機《ゾルダート》の足もそれなりに速いのでこのままいけば昼過ぎには到着するだろうか?
今回の作戦概要としては奴等が町へつくまで追跡を続け、町まで行く。
その後、魔兵機《ゾルダート》から降りたらガエイン爺さんが隊長のトルコーイやパイロットを抑える形だ。
イラスにはそのタイミングで一機奪ってもらうようにすれば戦力増強も図れるという算段だ。
「リク様って大胆な作戦を考えますよね……」
「やれることは最善にってな。本当ならグライアード王国の人間は全員殺すくらいの勢いでいいと思うんだが、ビッダーとヘッジ、それにイラスを見ているとグライアード王国そのものに疑問を持っている奴も少なくない。話し合いでなんとかなるならそれが一番いいしな」
<メビウスは問答無用で襲ってきましたからねえ>
「そういえばリクの敵はそんな感じなんだっけ。そういう意味では似てるわね」
まあ、話す余地も無い相手だからこっちはこっちで気は楽だったけどな。ただ殲滅をするだけだし。
「そういえば逃走と戦いの連続で忘れておったが、リクがこの世界に来たのはいったい何故なんじゃろうのう」
「分からない。コクピットにある俺の死にかけの身体の通り、俺はあの時死ぬはずだったんだ」
「リ、リク様も戦争をしていたんですね……」
「ああ。そういや状況は似ているんだよな……俺達も最初はヴァッフェリーゼが無くて、一方的に機動兵器にやられてた。魔兵機《ゾルダート》と同じだな」
偶然だと思うが因果なものだ。するとシャルは笑いながら言う。
「でもリクが来てくれたおかげでこうしてあたし達は生き延びることができたし、反撃もできそうなんだもの。神様っているのよきっと。あ、でもイラス達には悪いけど」
「い、いえ……殺すか殺されるかみたいな状況ですし……」
「……神様か。サクヤも神様の名前からとっているんだよな」
「へえ、そうなの!」
<……>
「ん? サクヤ?」
<ハッ! すみません寝ていました>
「お前寝るの!?」
サクヤも日本の神様の名前を冠しているが、この体たらくだとそうは思えないAIだ。ん? そういえば記憶が飛ぶ前に――
「あれ? そういや意識を失う前にチル――」
<……どうやら町についたようです。皆さま、戦闘準備を>
「お、マジだ。それじゃガエイン爺さんとクレールを下ろすぞ」
ひとまず町に到着した。
明るいのでヴァイスは目立つ。これ以上は近づかない方が無難だろう。
「一旦ここで夜を待つか――」
◆ ◇ ◆
「戻って来たよ」
「お帰りなさいませトルコーイ様! ……おや、ゼルシオ様は?」
「敵に捕まった。エトワール王国の人間が僕達と同じような魔兵機《ゾルダート》を持っている」
「なんですと!? 我々グライアード王国が初では!?」
あたりがすっかり暗くなったころ、町に戻ったトルコーイは魔兵機《ゾルダート》から降りて駆けつけてきた騎士に状況を説明する。
騎士達はゼルシオが捕まり、似たような機体があることに驚愕する。
「それは分からないよなあ。そして性能は格段に向こうが上。正直、殺しにかかられたら十台でも無理だと思うよ」
「そ、それほどですか……いや、確かにへこんでいますな。あれをあのようにするには相当な力が必要ですし」
トルコーイが嘘をつくとは思っていないが、状況を見る限り信じざるを得ないと騎士は呟く。
「作戦を練るぞ。このまま黙ってやられるわけにはいかないんでね」
「ハッ!」
◆ ◇ ◆
「では行ってくるぞい」
「ああ。イラスもすまないが頼むぞ」
「あ、はい」
【きゅーん】
「お留守番しててくださいね」
シャルだけコクピットに残して俺は近くの岩陰に身を隠す。タブレットは爺さんが持っているのでトルコーイを抑えた時点で俺が動く予定だ。
「……さて、この作戦が上手くいくかどうか」
「あたしは悪くないと思うけどね? 一機強奪して隊長を抑える。これで騎士達も手が出しにくいから交渉のテーブルにつかせることはできる」
「話だけ聞いていると、俺達は盗賊かなんかだよな」
<いいのです。悪党に容赦はしない。それが私達に組み込まれた思考パターンです>
「物騒な……」
そんなことを話しながら走っていくクレールを見送る俺達だった。
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