魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第三章

第103話 逆転

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「攻勢に出た方がいいじゃろうな。問題は誰が行くか、じゃが――」

 ゼルシオをギルド内にある牢へ入れた爺さんが、受付カウンターのあるメインの広場へ戻って来たので先ほどの話をする。
 基本的にはシャルと同じで向こうに攻める方向にしたいらしい。
 しかし問題は人員。
 俺はレーダー持ちなので参加するつもりだ。しかし、基本的には町の中に入り込んでの作戦になるため騎士や冒険者の数が必要だ。
 そう思っていると、ガエイン爺さんはとんでもないことを言いだす。

「いっそリクに暴れてもらうのはどうじゃろうか?」
「なに言ってるのよ師匠。町の人が危ないじゃない」
「そうされる前に先に潰すんじゃよ。逃がすのも難しいというのはクレイブの町で理解したじゃろう」

 確かにその側面はある。しかしそこは姫としてシャルが諫めた。

「それは却下。あくまでもグライアードの騎士達を叩き出すか討伐が目的でしょ」
「むう。ならワシとリクだけで良さそうじゃな」
「お、俺達もやりますよ?」
「冒険者達はこの町で防衛じゃな。シャルも残っておれ、アウラ様に申し訳ないからのう。キツネは借りるぞ」
「あたしも行くって。イラスもトルコーイってやつに用があるみたいだしね?」
「は、はい……ゼルシオさんがこっちに捕虜として居るなら話もできそうですし……」

 目算通りあいつは今まであった隊長とは違い常識があるそうだ。そこはゼルシオも同じらしい。
 だが、グライアードに属している騎士というのは覆せないので、裏切るような真似はしないとのこと。
 
「頭がいいのでこちらの要求を通せればと思っています……」
「オッケー、ならイラスは連れて行く。それでも殺し合いになる可能性は高いぞ?」
「……はい」
「あたしは……!?」
「むう、どうするかのう」

 置いて行っても黙って着いてきそうな気がするなと恐らく爺さんも思っているに違いない。
 クレールを爺さんが使うのはそうさせないって理由があるのだが、馬で追ってくるだろうと。するとそこでサクヤが提案を口にする。

<ではシャル様とイラス様はコクピットに乗り込んで進軍というのはどうでしょう? 狐様はガエイン様で>
「ふむ、クレールはそれでいい?」
【キュオン】
「問題無さそうですね……? わ、私もリク様の機体に乗っていいんでしょうか……」
「まあ、それが安全だしね? 今のところ世界で一番安全な場所よ!」

 それは言い過ぎだと思うが。
 ガエイン爺さんと本人がいいなら従うしかないかと俺達はこのまま夜明けと同時に奴等を追うことにした。

「我々はこのままで良いでしょうか?」
「そうね、町に常駐して様子見をお願い。他に敵が現れそうなら拠点に戻ってビッダーを連れて来てもいいかも」
「承知しました」

 騎士達に指示を出すシャル。
 あいつらもそんなに早く戻れるとは思えない、慎重に後をつける形で追いかけるとしよう――

◆ ◇ ◆

「トルコーイ隊長、足回りはやられていないのでなんとか戻れそうです」
「そいつあ良かった。ひとまず町に戻って修理だなあ」
「しかしゼルシオ様は如何いたしましょう?」
「……見捨てるって言っただろうがあ?」

 トルコーイ達は平原を駆けながら魔力通信具《マナリンク》を通じてそんな会話をする。
 捕らえられたゼルシオのことを一人が尋ねると、不機嫌を露わにして返事をした。
 しかしパイロットの騎士は臆せずに続ける。

「ゼルシオ様はトルコーイ様の一番の理解者ではないですか。お二人の下だからこそ従っている者も多い。交渉に応じるべきでは?」
「馬鹿野郎があ。そんなことをしたら本国にバレた時、割を食うのはお前達だ。一人と百人、どっちを取るかはわかるだろう」
「その通りですが……ゼルシオ様を取り戻すということであれば私はあの白い魔兵機《ゾルダート》と交戦するのは吝かではありませんがね」

 パイロットがそういうと、トルコーイは目を細めてから鼻を鳴らす。
 彼はゼルシオという人間を失うのは惜しいと感じている。しかし、ヴァイスの強さを目の当たりにして奪還は不可能だと瞬時に判断した。
 なら二人の言う通り交渉に応じて町と交換ならと考えたが、さすがにそれがグライアード本国、いや、フレッサー将軍に知られたら面倒なことになる。

「どうしたもんかねえ。ディッター隊長は生き残っているみたいだが、報告が行っているかどうかわからないし」
「やはり援軍を呼ぶべきでしょう。……言い方は気に入らないかと思いますが、あの白い魔兵機《ゾルダート》の操縦者に人質をとって――ぐあ!?」

 そこまで言うと騎士の魔兵機《ゾルダート》が大きく揺れた。トルコーイが背中を軽く小突いたからだ。

「気に入らないって思ってんなら口にするなよなあ。あの兄さんは面白い。喧嘩をするならああいう奴に怨恨無しで挑むのが一番いい」
「隊長なんだからそういうのは止めて下さいよ? しかし、ゼルシオ様を奪還する必要は絶対にあります。なにか作戦を考えましょう」
「……その時間があるといいがな?」
「え? 何故です?」

 騎士の提案にトルコーイが渋い顔でポツリと呟く。それは他の二人に聞こえなかったが、彼の頭には二つ考えなければならないことがあった。

「奴等が町の人間度外視で攻めてくるかもしれないだろう?」
「来ます……かね?」
「人間を犠牲にするならやるだろうさあ。さっきも言ったが、俺達を倒すことが目的ならそっちの方がいい。魔兵機《ゾルダート》も無限にあるわけじゃねえし、隊長を育てるのは大変だ」
「確かに……」

 だが、トルコーイはもう一つの『膠着状態になった時』の件は口にせず保留にした。

「(援軍を呼ぶにしてもディッターみたいな奴がきても困るんだよなあ。町の人間を殺すなんて命令をはいはいと聞く奴は後のリスクを考えていない……ゼルシオを助けるなら……俺がなんとかするしかないかねえ)」

 追われる側になるとは洒落にならないなと苦笑しながらそんなことを考ていた。
 そして全力で戻ったトルコーイ達は二日で町へと戻り補給する。
 
 トルコーイの予測は当たり、その夜――
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