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第二章:令嬢は学校へ行く
第12話 現場検証といきましょうか
しおりを挟む『美子』が飛び降りたというビルへとやってきたわたくし。
五階建ての『びる』は半分ほど朽ち果てており事故後ということもあり黄色いテープが入り口に張られて立ち入り禁止を促していますわね。『けいじどらま』というので見たことがあります。ふふん。
「警察の方は……居ないようですわね。では――」
わたくしは眼鏡を外して鞄へ仕舞うと、素早く移動して黄色いテープをくぐってから中へ侵入。階段をのぼりすぐに屋上へと到着しましたわ。
「『にんじゃ』のようで楽しいですわ」
忍者とは遥か昔にこの世界にいた暗殺者とは涼太の弁。
しかも暗殺だけでなく情報収集やお手紙の配達などいろいろやっていたという万能職業です。
「もう居ないらしいのが残念ですわね。『わたくし』の世界なら重宝するでしょうに」
おっと、お話が逸れてしましたわね。
扉を開けて屋上に出ると傾きかけた陽がわたくしと地面を照らす。
端は金網に囲まれているものの、それほど高くなく、一部が傾いているため飛び降りるには難しくない感じがしますわね。
そこにも黄色いテープが張られていて恐らくここから飛び降りたであろう場所へ近づいてみると――
「……なるほど、下にある大木と植栽がクッションになったというわけですか。下が『こんくりいと』だけで頭から落ちていたら確実に死んでいましたわね」
とはいえ死んだ後にこっちの言葉でいう『心肺停止』状態中に治療が進み、中身が入れ替わったから生きていると考えることもできそうですけど。
さて、美子が身を投げた場所を確認できましたが特に手がかりになるようなものはなさそうですわね。
ただ、一つ気になることがあり顎に手を当ててビルから見える光景に視線を合わせます。
「……学校からかなり離れていますわね。どうして『ここ』を選んだのでしょう?」
そう、飛び降りるだけなら最悪学校でもいいわけですわ。高さは同じくらい……さらにその中でも廃屋であるビルを選んでいる。
心身を喪失していれば『人に迷惑がかからない』ようになどと考えるのも難しいと思うのですけれど……。
「やはりあの三人が鍵、ということになると考えるべきですか。……おや」
地面が夕日に照らされた時、飛び降りたあたりになにか光るものを見つけ、屈みこんでみるとそこには星を模したイヤリングが一つ。
「……美子はこういったアクセサリーはつけていないはず。風化したような様子もない……ごく最近の物ですわね」
ふむ、もし……もし、美子が自殺ではなく誰かがここまで美子を連れてきて突き落としたとしたら?
「ですが病院では目撃情報は無かったと言いますし、後は美子の記憶が頼り……しかし、わたくしではその時の記憶はなし、ですわ」
とりあえず証拠品としてイヤリングをハンケチーフに包んでポケットへしまうと、扉の方から声が聞こえてきました。
「……君、こんなところに来たら危ないだろう?」
「あなたは……? いえ、恐らく警察の方でしょうか?」
「……! よくわかったね。俺は若杉という。よろしくな神崎さん」
「名乗るまでもない、ですか」
『どらま』などで見る『警察手帳』なるものを開きながら微笑む若杉という男。
あれが本物かはまだ分からないですが、必要以上に近づいてこないところを見るとそれなりの人格を持った人間と見ていいでしょうね。
「……なにか思い出したかい?」
「その質問の前に一つ。あなたはわたくしを監視しているのでしょうか?」
「いや、警察はこの事件から引きつつあるから君についているのは俺だけだ」
「なるほど。では質問にお答えしますが思い出してはいません。ただ、わたくしが落下したという現場を見たかっただけです」
わたくしの言葉に若杉さんの眉がぴくりと動き、顎に手を当てて呟きます。
「思い出していないのにここへ来たのか。状況は聞いていたはずだけど怖いとは思わなかったのかい?」
「記憶がありませんからね」
「……ああ、それは納得がいく理由かもしれないな」
「逆にお尋ねしますが警察は引いているのになぜあなたはここに居るのでしょう」
基本的に『記憶がない』で済む話なので早々にこちらのことを切り上げて尋ねてみると、一瞬だけ考えた後に口を開く。
「個人的に調査しているんだ。俺の妻は高校の教師をやっていてね。いじめと聞いて真相を掴んで欲しいと頼まれたのさ」
「そんな暇あるんですの?」
「ま、色々と事情があってな。どちらにせよここは危ない。下へ降りよう」
「……わかりました」
この方は信用できるかしら? そういえば味方というものがあるといいかもしれませんね?
◆ ◇ ◆
「美子っちのやつ飛び降りたビルに来たけどぉ」
「……」
「なにか思い出したかな?」
「それはヤバくない? あたし達のことがバレると面倒だしぃ。ね、織子、どうする?」
「どうって……とりあえず様子見するって決めたでしょ。……って、パトカー?」
「あ、本当だ。イケメンなお兄さんが出てきたわね」
「あの人が連れ戻してくれるからわたし達はもう帰りましょう。見られたら有栖の言う通り面倒だし」
莉愛が目ざとくパトカーから出てくる男を品定めをし、織子はパトカーを見て美子につけていた監視かなにかだと思いこの場を立ち去ろうと踵を返す。
そこで――
「ん? ねえ、あれってぇ見たことある車じゃなぁい?」
「そう?」
「どこにでもある車じゃない。ちょっと高級そうだけど。とりあえず行こうよ新作のリップを見に行きたいんだよね」
「あー、いいねぇ♪ 美子ちゃんも気になるけど、警察はちょっと勘弁だもんねー」
「あ、ちょっと押さないの」
織子は二人に促されて織子はその場を後にする。
去り際に振り返ると『どこかで見た車』が急発進してどこかへ消えていく。
彼女はオフィス街には似つかわしくない高級車だなと気にはなったが、廃屋に入った美子もなにをしているのか、と目を細めて屋上へ視線を向けるのだった――
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