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第一章:覚醒の時
その5 お宝かガラクタか
しおりを挟む「ここが宝物庫だ」
「やっぱりというかやっぱり地下にあるんですね」
国王に引っ張られてきた僕はアレン並の語彙力のなさで返事をするが、特に気にした様子も無く国王は一緒に着いて来た騎士達へ向き直ると命令をする。
「ここから先はこの子と私だけでいい」
「は!? し、しかし、御身に何かあれば我々は――」
「私が良いと言っている。お前達は今私に引導を渡されたいか?」
「い、いえ……では入り口に居ますので何かあればすぐにお呼びください!」
「うむ。それではレオス、だったか? 行くぞ」
「あ、はい」
僕を訝しむように見る騎士の目が痛い。だけど国王様の決定だから勘弁してくれよ? そんなことを思いながら宝物庫へ入ると重苦しい扉が閉ざされた。
「ここに入るのも久しぶりだのう。さ、好きなものを持って行っていいぞ」
すっごい笑顔の国王が僕にそんなことを言うけど、腑に落ちないことがあるため尋ねてみることにした。
「はあ、とてもありがたいんですけど、どうして国王自らここに案内されたんですか? 僕みたいなただの商人に。それと僕の特殊カバンを持っていることが国王様に何か関係が?」
すると国王はその辺にあった椅子に腰かけて僕を見ながら口を開く。
「ここは宝物庫だからな、騎士や宰相、メイドみたいなのを入れる訳にはいかん。どうでもいいものも多いが、一応大事なものがある。で、カバンだが、単純に興味本位だ。ここにある道具を入れてみたいと思ってな! 大きさとか制限はあるのか?」
まあ言っていることは理にかなっている、か。それならと僕は国王に説明をする。
「特に制限も無いですし、無限に入る……はずです。試したことがないのでなんともです」
「ふむ。ではそこにある大鏡はどうだ? かなり大きいが」
国王が指さす先にある大きな鏡。僕は頷いてカバンの口を開け、押しつけるようにすると――
ひゅるるる、すぽん!
「おお!? 吸い込まれるように消えた……」
「出す時はこうです」
これは僕が持った時にしかわからないんだけど、中の道具を出そうとすると頭の中に何が入っているかキレイにまとまった状態でイメージが浮かぶ。その中から頭で選ぶと勝手にカバンから出てくるのだ。というわけで早速大鏡をイメージすると……
ひゅぽん!
「おお、出てきた! なるほど、面白いカバンだ。それはお主にしか使えないのか?」
「ですね。だからアレンが僕から強奪しようしました。一回奪われてその時は大泣きしましたが、翌朝勝手に僕の手元に戻ってきましたから防犯も完璧です」
「色々聞きたくない話が出てきたが、聞かなかったことにしておこう。……ちなみに生き物は入るのかな?」
「え!?」
一体何を考えているのか……? 国王の目がキラリと光っている。正直試したことは無いから結果は僕にも分からなかったりする。だって死んだり、戻って来れなかったら怖いしね……
「……試したことはありません。差し出がましいお言葉で申し訳ありませんが、止めておいた方がいいというのが僕の意見です」
すると国王は肩を竦めて残念そうに口を尖らせた。
「そうか、持ち主が言うなら仕方ない。ここだけの話だが、お主、口は硬いか?」
「ミスリルゴーレムの皮膚よりは」
「うむ。もし人間が入れたら、お主を雇うつもりだったのだ」
「な、なんでまた……」
「アレンがクレアと結婚してくれるというからどっちでも良くなったが、大魔王が倒された今、次に起こるのは何だと思う?」
「次? いえ、分かりません……」
「有り得るのは戦だ。大魔王軍のおかげで世界は疲弊している。領地や物資が欲しいのはどこも同じだからな。我が国もやはり厳しい。特に勇者の支援もしておったからな」
「アレンが羽振り良かったのはそのせいか!?」
「まあそこはいいのだが。大魔王が倒されたのに豊かにならなかったら、暴動が起きる。他国が攻めてくるといったことも考えられよう。その時、お主のカバンに入れば逃げられると思ったのだ」
「ひっどいですねその理由!?」
途中までいい話だったのに最後で一気に自分本位になったよ!? だけど、国王はフッと笑って僕の頭を撫でた。
「言いたいことはあるだろうが、私は国王だ。万が一城が落とされても私が生き残っていれば取り返すこともできるだろう?」
なるほど。最悪の状況を想定しているのか……結構国王は苦労人なのかもしれない。かける言葉が見つからず黙っていると、椅子から立ち上がり笑いながら言う。
「大丈夫! アレンが国を継ぐなら戦力は問題あるまい? だからお主は保険みたいなものだった。さ、話が長くなったな、宝物庫から好きなものをいくつか持っていくといい。おっと、私は品物について何も答えないからそのつもりでな。商人として目利きを発揮して見せろ!」
「あ、はい、ありがとうございます。それでは早速――」
僕は国王様に一礼をして宝物庫を漁り始める。
「さて……何がいいかな……」
ある意味商人といsての能力を問われるこのイベント。変なものを持って帰るのは避けたい。剣や鎧、指輪に宝石……色々あるけど、ピンとくるものが無い。
「ここにあるものなら何でもいいからなー」
たまにそんなことを言うのがプレッシャーだ。そろそろ決めないとしびれを切らしそうだなと思った時、ふと壁に立てかけられている剣が目にとまった。
「これは……?」
「ん? ……ああ、それか。それは大昔に魔剣と呼ばれていた代物らしい。騎士の誰かに持たせたら防衛にでも使えるかと思ったんだがとんだなまくらだった」
「凄く切れそうですけど」
「切れ味はいい。が、今の時代これくらいの切れ味の剣はいくらでもあるからな。そろそろ食事の時間だ、また明日にするか?」
「い、いえ、じゃ、じゃあこの剣をください! それと、これとこれに、後この辺も!」
僕は何となく当たりをつけていた品物を一カ所に集めて叫ぶ。もう一回国王と宝物庫に来るとかとんだ罰ゲームだよ!
「あ、ああ、私の話聞いてたか? ……まあいい、ではそれがお主の褒美だ! カバンに入れておくがいい」
「ありがとうございます!」
ふう、何とか粗相をせずに終わらせることができたみたいだ。悪神の力があっても、今の僕は人間だ。ルールはに従っておかないとどこかで間違いを犯しかねないからね……
ま、城を出たら鑑定屋さんにお宝を持っていく楽しみができたし、良かったかな?
国王は宝物庫でまだすることがあると言っていたので僕だけが部屋に戻ることになった。
◆ ◇ ◆
「ご苦労」
「陛下、問題ありませんでしたか?」
「ふん、私が商人にどうかされると思っているのか?」
「い、いえ……申し訳ありません」
「まあ、大魔王との戦いを生き抜いた者だからな。気持ちは分かる。ただで生き残った訳では無さそうだしな」
「は?」
「あの子はこの宝物庫にある品物でも上位宝を持っていきおった。私がなまくらだと評した魔剣もな。あれは扱えさせすれば勇者のもつ剣と同じクラスの威力を持つらしい」
「商人としての目利きは確かということですか。まあ扱えれば、ですが」
「うむ。良い余興だった。ほとぼりが冷めたら家族と一緒にこの国に定住してもらってもいいかもしれんな。カバンは色々試したいしのう」
国王は威厳とは程遠く、だが、人の好い笑顔を見せながら部屋へと戻って行くのだった。
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