前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
6 / 196
第一章:覚醒の時

その5 お宝かガラクタか

しおりを挟む

 「ここが宝物庫だ」

 「やっぱりというかやっぱり地下にあるんですね」

 国王に引っ張られてきた僕はアレン並の語彙力のなさで返事をするが、特に気にした様子も無く国王は一緒に着いて来た騎士達へ向き直ると命令をする。

 「ここから先はこの子と私だけでいい」

 「は!? し、しかし、御身に何かあれば我々は――」

 「私が良いと言っている。お前達は今私に引導を渡されたいか?」

 「い、いえ……では入り口に居ますので何かあればすぐにお呼びください!」

 「うむ。それではレオス、だったか? 行くぞ」

 「あ、はい」

 僕を訝しむように見る騎士の目が痛い。だけど国王様の決定だから勘弁してくれよ? そんなことを思いながら宝物庫へ入ると重苦しい扉が閉ざされた。

 「ここに入るのも久しぶりだのう。さ、好きなものを持って行っていいぞ」

 すっごい笑顔の国王が僕にそんなことを言うけど、腑に落ちないことがあるため尋ねてみることにした。

 「はあ、とてもありがたいんですけど、どうして国王自らここに案内されたんですか? 僕みたいなただの商人に。それと僕の特殊カバンを持っていることが国王様に何か関係が?」

 すると国王はその辺にあった椅子に腰かけて僕を見ながら口を開く。

 「ここは宝物庫だからな、騎士や宰相、メイドみたいなのを入れる訳にはいかん。どうでもいいものも多いが、一応大事なものがある。で、カバンだが、単純に興味本位だ。ここにある道具を入れてみたいと思ってな! 大きさとか制限はあるのか?」

 まあ言っていることは理にかなっている、か。それならと僕は国王に説明をする。

 「特に制限も無いですし、無限に入る……はずです。試したことがないのでなんともです」

 「ふむ。ではそこにある大鏡はどうだ? かなり大きいが」

 国王が指さす先にある大きな鏡。僕は頷いてカバンの口を開け、押しつけるようにすると――

 ひゅるるる、すぽん!

 「おお!? 吸い込まれるように消えた……」

 「出す時はこうです」

 これは僕が持った時にしかわからないんだけど、中の道具を出そうとすると頭の中に何が入っているかキレイにまとまった状態でイメージが浮かぶ。その中から頭で選ぶと勝手にカバンから出てくるのだ。というわけで早速大鏡をイメージすると……

 ひゅぽん!

 「おお、出てきた! なるほど、面白いカバンだ。それはお主にしか使えないのか?」

 「ですね。だからアレンが僕から強奪しようしました。一回奪われてその時は大泣きしましたが、翌朝勝手に僕の手元に戻ってきましたから防犯も完璧です」

 「色々聞きたくない話が出てきたが、聞かなかったことにしておこう。……ちなみに生き物は入るのかな?」

 「え!?」

 一体何を考えているのか……? 国王の目がキラリと光っている。正直試したことは無いから結果は僕にも分からなかったりする。だって死んだり、戻って来れなかったら怖いしね……

 「……試したことはありません。差し出がましいお言葉で申し訳ありませんが、止めておいた方がいいというのが僕の意見です」

 すると国王は肩を竦めて残念そうに口を尖らせた。

 「そうか、持ち主が言うなら仕方ない。ここだけの話だが、お主、口は硬いか?」

 「ミスリルゴーレムの皮膚よりは」

 「うむ。もし人間が入れたら、お主を雇うつもりだったのだ」
 
 「な、なんでまた……」

 「アレンがクレアと結婚してくれるというからどっちでも良くなったが、大魔王が倒された今、次に起こるのは何だと思う?」

 「次? いえ、分かりません……」

 「有り得るのは戦だ。大魔王軍のおかげで世界は疲弊している。領地や物資が欲しいのはどこも同じだからな。我が国もやはり厳しい。特に勇者の支援もしておったからな」

 「アレンが羽振り良かったのはそのせいか!?」

 「まあそこはいいのだが。大魔王が倒されたのに豊かにならなかったら、暴動が起きる。他国が攻めてくるといったことも考えられよう。その時、お主のカバンに入れば逃げられると思ったのだ」

 「ひっどいですねその理由!?」

 途中までいい話だったのに最後で一気に自分本位になったよ!? だけど、国王はフッと笑って僕の頭を撫でた。

 「言いたいことはあるだろうが、私は国王だ。万が一城が落とされても私が生き残っていれば取り返すこともできるだろう?」

 なるほど。最悪の状況を想定しているのか……結構国王は苦労人なのかもしれない。かける言葉が見つからず黙っていると、椅子から立ち上がり笑いながら言う。

 「大丈夫! アレンが国を継ぐなら戦力は問題あるまい? だからお主は保険みたいなものだった。さ、話が長くなったな、宝物庫から好きなものをいくつか持っていくといい。おっと、私は品物について何も答えないからそのつもりでな。商人として目利きを発揮して見せろ!」

 「あ、はい、ありがとうございます。それでは早速――」

 僕は国王様に一礼をして宝物庫を漁り始める。

 「さて……何がいいかな……」

 ある意味商人といsての能力を問われるこのイベント。変なものを持って帰るのは避けたい。剣や鎧、指輪に宝石……色々あるけど、ピンとくるものが無い。

 「ここにあるものなら何でもいいからなー」

 たまにそんなことを言うのがプレッシャーだ。そろそろ決めないとしびれを切らしそうだなと思った時、ふと壁に立てかけられている剣が目にとまった。

 「これは……?」

 「ん? ……ああ、それか。それは大昔に魔剣と呼ばれていた代物らしい。騎士の誰かに持たせたら防衛にでも使えるかと思ったんだがとんだなまくらだった」

 「凄く切れそうですけど」

 「切れ味はいい。が、今の時代これくらいの切れ味の剣はいくらでもあるからな。そろそろ食事の時間だ、また明日にするか?」

 「い、いえ、じゃ、じゃあこの剣をください! それと、これとこれに、後この辺も!」

 僕は何となく当たりをつけていた品物を一カ所に集めて叫ぶ。もう一回国王と宝物庫に来るとかとんだ罰ゲームだよ!

 「あ、ああ、私の話聞いてたか? ……まあいい、ではそれがお主の褒美だ! カバンに入れておくがいい」

 「ありがとうございます!」

 ふう、何とか粗相をせずに終わらせることができたみたいだ。悪神の力があっても、今の僕は人間だ。ルールはに従っておかないとどこかで間違いを犯しかねないからね……

 ま、城を出たら鑑定屋さんにお宝を持っていく楽しみができたし、良かったかな? 

 国王は宝物庫でまだすることがあると言っていたので僕だけが部屋に戻ることになった。




 ◆ ◇ ◆




 「ご苦労」

 「陛下、問題ありませんでしたか?」

 「ふん、私が商人にどうかされると思っているのか?」

 「い、いえ……申し訳ありません」

 「まあ、大魔王との戦いを生き抜いた者だからな。気持ちは分かる。ただで生き残った訳では無さそうだしな」

 「は?」

 「あの子はこの宝物庫にある品物でも上位宝を持っていきおった。私がなまくらだと評した魔剣もな。あれは扱えさせすれば勇者のもつ剣と同じクラスの威力を持つらしい」

 「商人としての目利きは確かということですか。まあ扱えれば、ですが」

 「うむ。良い余興だった。ほとぼりが冷めたら家族と一緒にこの国に定住してもらってもいいかもしれんな。カバンは色々試したいしのう」

 国王は威厳とは程遠く、だが、人の好い笑顔を見せながら部屋へと戻って行くのだった。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...