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第一章:覚醒の時
その6 ソレイユさん降臨
しおりを挟むそんなこんなで褒美も貰い、久しぶりのお風呂に入って豪華な食事を取った後、僕はあっさりと意識を手放して眠りについた。
「――あれ? ここは……」
眠りについたはずの僕は気付いたら真っ白な空間に立っていた。しかし知らない場所という訳ではなく見覚えがあった。それを確信づけるかのように背後から声がかかった。
『お久しぶりですね、レオスさん』
「……君か」
振り向いた先にいたのは、僕をここへ送り出してくれた張本人の女神ソレイユだった。相変わらずおっとりとした顔をしているが、少しいつもと雰囲気が違うような……?
「久しぶりだねソレイユ。夢に出る、ということは記憶に関することでいいかな?」
『はい。まさか記憶が戻ると思いませんでした……強いショックを受けたりしました?』
おずおずとソレイユが僕に尋ねてきたので、今までの経緯を話すことにした。というか見てたんじゃないの?
『なるほど、アホ勇者がカバン欲しさにレオスさんを……すみません、無限収納カバンはわたしがレオスさんにあげたギフトなんです。産まれ先が商人の家だったのでプレゼントしたんですが、まさかそんなことになるなんて』
「まあ、想定外だよね。戦力にならない人間を連れ出している時点で。でも、おかげで大魔王を倒すことができたから、死ななくてすんだよ」
大魔王討伐に繰り出されたのはソレイユのせいではないし、カバンも役に立っているから謝られることは無い。だけどこのタイミングで出てきた理由は気になった。
「で、記憶が戻った僕をどうにかするため来たのかな? またこのまま転生させられるとか……?」
するとソレイユは首を横に振って微笑んだ。
『いえ、もうあの世界の住人ですから死ぬまで転生はありませんよ! でも警告を一つ』
「警告?」
不穏なセリフに僕は尻の穴がきゅっとなる感覚に襲われ、次の言葉を待つ。
『はい。記憶と力を取り戻したのは結果的に良かったですが、記憶よりも力……悪神としての力がどうなるのかわたしにも分かりません。レオスさんが誰かを恨んだり憎んだりすることがあればまたあの姿が顕現することがあるかも、と考えています』
「あの姿か……」
僕の悪神としての姿……巨大なスケルトンといっても差し支えないアレを思い出しながら相槌を打つ。しかし、あの件は僕を倒した人間に消滅させられたし、今はエリー達も転生していると聞いているから人間に恨みはもう無い。
『万が一戻るようなことがあっても、殺戮だけは避けてください。もしそんなことをすれば今度は本当にレオスさんを消滅させなければいけなくなります……』
悲しそうな顔をしてソレイユが俯いてから言う。仕方ないなあ……
「大丈夫だよ。今の僕はただの商人のレオスだ。もし、エリーの時みたいなことが起こりそうになったら、この力は悲劇を回避するために使うと思う」
『はい……今のレオスさんなら大丈夫ですよね! 皆殺しとか絶対しないでくださいね!』
「そういうフリみたいな言い方はやめてくれ……」
『?』
首を傾げるソレイユ。そして話を続ける。
『後もう一つ。レオスさんの世界は未知の部分が多いです。神が面倒を見なくなってかなり経つ物件……いえ、世界なのでわたし達が知らない何かがあるかもしれません。大魔王は倒されましたが十分気を付けてください』
「あ、うん。ありがとう。それじゃソレイユはわざわざ気にかけてくれたのか」
『転生させた女神としてほおっておけませんでした! ……それと酷い人生だったレオスさんには幸せになってほしいですしね。でも、わたしも忙しいので今後お話しできるかはわかりません』
そういって優しい女神は微笑んで「ね?」ともう一度言う。これが最後だとしてもありがたいなと思っていると、何かを思い出したかのように手をパンと叩いて僕に話しかけてきた。
『そうそう、レオスさんが今後争いごとに巻き込まれた時に自衛できるようにプレゼントを持ってきたんですよ!』
「へえ、それは嬉しいね! 僕は一応商人だし、悪神の力を使わないでいい方法があるならそれにこしたことはないかな」
『ですよね! というわけで、はい、軽くて自衛できる武器『ビームライフル』です!』
ずもっと、ソレイユが持つにはあまりにも武骨なデザインの銃が出てきて
「きゃーっか!? それはダメでしょ!? 君、自分の世界じゃないからってやりすぎだからね!?」
『え? ご不満ですか? それならこちらでどうでしょう『ダブルビームライフル』です!』
「オーバーテクノロジー!? だからそういう似つかわしくないし、とんでもアイテムはダメだよ!」
どうして僕が女神に戒めを解かなければならないのか……ソレイユはモノを抱きしめてきょとんとした顔のまま、目をパチパチさせる。くそ、可愛いな!
『レオスさんも最終決戦で戦車とか使ってたじゃないですかー』
「ぐ……あれはいいんだよ……僕は地球にも行ったことがある悪神だったんだから……。手段を選ばないボスってそんなもんだよ。どちらにせよそんな自衛どころか国一つ滅ぼせそうなモノは却下」
『ぶー』
ソレイユが不満げに口を尖らせるが、スルーして続ける。
「とりあえず、力が顕現しないようにと、世界が未知だってことは分かったよ。ま、僕はさっさと家に帰って商売をするつもりだけどね」
『そうですね、レオスさんはパン屋さんにもなれますし、商人は向いていると思います!』
……覚えてたのか。
「……そうだね。あ……」
僕が呟くと、景色が揺らぎ始め、ソレイユの形が曖昧になってくる。ソレイユは笑いながら手を振り、最後に声をかけてくる。
『お元気で! もしかするとあなたの力は、今度こそ誰かを守るために――』
最後まで聞き取れなかったが、言わんとしていることは分かった。僕は笑顔で手を振り返すと、意識が遠くなってきた。最終回みたいなノリだなあと思っていると今度は現世で目が覚めた。
「……夢、か?」
いや、多分そうじゃないのだろう。わざわざ会いに来てくれた、そういうことなのだ。窓から見える月明かりを見ながら僕は考える。
「やれやれ、僕に気を使ってくれるなんて気の良い女神様だよ……というか目が覚めちゃったなあ。眠気も無いし、宝物庫で貰ったお宝でもじっくり見てみようかな」
焦ってかき集めたので実はロクに見ないでカバンに入れていたので、ちょっと楽しみだったりする。無限収納カバンの口を開けて手を入れると、とんでもないものが入っていることに気付く。
「……やっぱり夢じゃなかったんだな……却下って言ったろうに……」
ずもっとカバンから出てきたモノは、ソレイユが自慢げに僕に渡そうとした『ダブルビームライフル』だった。
「ダブルにすりゃいいってもんじゃないだろう……」
あまりのショックに、僕のツッコミも何だか的を得なかった――
どうするんだよコレ……
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