前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第四章:オークション

その54 思わぬ展開?

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 「だあぁりゃあ!」

 「ぐああああ!?」

 「凄い、あんなに重そうなバトルアクスを軽々と! というか邪魔だよどいてどいて!」

 「なんだこのガキ!? 速――ぐあ!?」

 シルバ達のお母さんが司会者や、ティモリアといった闇の出品者達から庇おうとするごろつきたちを次々に排除していく。僕は一瞬出遅れ、ごろつきに足止めをくらっていた。

 「あの子狼たちのお母さんね! あたしも手伝うわ! はあ!」

 「こ、この女も強いぞ……!? 背中に何か背負ってるのに!」

 「う、うぷ……」

 ボコスカと倒していくのを見て、お母さん獣人はニヤリと笑う。

 「骨がある娘じゃないか、ならあっちのお兄ちゃんを頼むよ」

 「了解!」

 ダッ! っと、二手に分かれてルビアがシルバを助けに入る。そこへ四人の男達が立ちはだかった。

 「商品にお手を触れないでくださいなってか!」

 「邪魔よ!」

 「こっちにもいるぜ!」

 ヒュン! ブオ!

 「ハッ! それ! たあ! ……トドメ!」

 「な、何てやつだ……」

 もちろんそんな出鱈目な攻撃がルビアに当たるわけもなく、あっという間に男達は沈黙。シルバの元へ行くことができた。

 「大丈夫?」

 「うん! お姉ちゃん強い! お母さんみたい!」

 「はは、ありがと。まだお母さんって年じゃないけどね」

 「シルバを頼むよ!」

 「ええ!」

 「な、何……頭が揺れるんですけど……気持ち悪い……」

 シルバはルビアに任せ、僕はお母さん獣人を追ってシロップへと迫る! まだ公王様の執事とティモリアはじゃれあっていた。

 「持っていくならお金を出しなさい!」

 「放さぬか!? ほら、白金貨だ、持っていけ!」

 ヒュン!

 執事がもみ合っているごろつき達の中へ白金貨を投げると、ティモリアはその中へ飛び込んでいく。
 
 「ワタシのお金ー!」

 くそ、ティモリアもとっ捕まえようと思ったのに体よく逃げられた形になってしまった。しかし、今はシロップが先だと執事を挟むように回り込む。

 「シロップのお母さん、協力しましょう!」

 「レオスにいちゃ!」

 「ん? 知り合いかい? アタシはこの子達の母親でレジナだよ。よろしく……ね!」

 じりじりと間合いを詰めていたシロップのお母さんが一気に踏み込む。狼獣人だけあって速い! 執事の男も武器らしきものを持っていないので二人ならすぐに助けられるだろうと思っていたら――

 「レオスさん! その男、魔族ですよ!」

 「なんだって!?」

 いつの間にか駆けつけてきたバス子が空中から叫んだので、僕は驚愕する。ちょうどレジナさんがシロップに手をかけようとしたところでその手を払う。

 バシッ!

 「何! こいつ……うぐ!?」

 「お母さん!」

 「レジナさん! <ファイアアロー>!」

 ボゥ! 僕の前に火矢が三本現れ、それを飛ばす。

 「何だこの魔法は……! 《ウォータバレット》」

 ボジュジュジュ!

 「いい判断をするね!」

 「小僧が目の前に!?」

 「えへへ……レオス君の背中……」

 火矢を消すのに気を取られて僕の接近を許す魔族。僕はシロップを抱えている腕を柄で思い切り叩きつける!

 「ぎゃ!?」

 「シロップ!」

 「レオスにいちゃ!」

 シロップを抱きかかえるとそのままレジナさんへパスをする。

 「おっとっと……良かった、無事みたいだね……」

 「お母さん……怖かったよう」

 レジナさんに泣きつくシロップを見て安心した僕は、目の前の魔族に剣を向けて問う。

 「オークションの時に公王様の横にいた執事だな? 公王様はこのオークションのことを知っているのかい?」

 「……クク、何者か知らないがいい腕だ。だが私がそれをわざわざ教える親切な人に見えるかな?」

 「まあ、魔族ですから人じゃないですよねえ」

 「黙れ!? その羽、なるほど貴様も魔族か。見たところサキュバスのようだが、高位の魔族が人間に手を貸すとはプライドは無いようだな」

 「おっと、余計なことを言う口ですね。わたしはお嬢様とレオスさんに手を貸しているだけですよ? そういうアンタは何者なんですかねえ」

 高位の魔族バス子が!? どちらかと言えばそっちの事実の方が驚きだ。でも大魔王の娘の従者をやるのだからそれくらいの実力は必要ってことかな? 僕があれこれ考えていると、魔族が笑いながら答える。

 「嫌でも答えてもらいますよ!」

 「クク、できるものなら!」

 ずるりとおじさん風だった男の姿が変化し、美男子へと変化する。高位だと言われたバス子の攻撃をしっかり防ぐあたり、こいつもかなりの実力者のようで、どこからか取り出したサーベルでバス子の槍をうまく逸らしていた。そこへ僕も参戦する。

 「とりあえず黙って捕まってもらうよ! どういうつもりか聞かないとね」

 「たかが冒険者風情の小僧が粋がるな! 《ウォータバレット》」

 バス子を左手のサーベルでいなしつつ、僕へ水の魔法を放ってくる。もちろんかわす必要もないのでそのまま前進だ!

 「<フルシールド>」

 バチャ
 
 「んな!? 何だそれは!?」

 「知らなくていいことだよ、覚悟!」

 「チィ!」

 ガキン!

 サーベルでセブン・デイズを受けたので、僕は剣に魔力を込めて叫ぶ。

 「『クルーエルシャドウ』」

 ズズズ……

 剣の宝石が真っ黒になりそこから闇がしみだしてくる。サーベルを受けた手にまとわりつきじわじわと締め付けはじめた。

 「む、これはいかん、即座に離脱……いたあ!?」

 「動けない今がチャンスですよ! えい、えい!」

 「貴様ぁ! 尻をつつくんじゃ……いたあ!? やめろ! やめないか!」

 「バス子、止め!」

 「あい」

 「お尻が穴だらけになりたくなかったらお前と公王様の関係を言うんだ」

 「ふー……ふー……誰が言うとでも?」

 「バス子、ゴー」

 「あい」

 ブスブス!

 「ぐあああああ!? おのれ!」

 「おっと!」

 ギィン! 僕との鍔迫り合いを嫌い押し返したかと思うと、バス子へ突きかかった。だが、バス子はひらりとかわし槍で追撃をはかる。

 「まだ元気だね、動けなくなるまで追い詰めるよ」

 「あいあいさー♪」

 後退しながら僕とバス子の攻撃を受け流すが、流石に二人相手は厳しいようで段々と脂汗を額に流し出す。

 「悪魔か貴様ら!? ええい、獣人の子とエルフは残念だがここは引かせてもらおう」

 大きく後ろに下がりレジナさん達を見据えてそんなことを言うと、レジナさんはシロップを庇うように抱きしめてから叫んだ。

 「アタシに近づいたらその首を跳ねるからね」

 「お母さんかっこいい!」

 「フッ、油断しないことだな」

 「なにかっこつけてるんですかね、この男は!」

 「いたぁい!? 尻ばかり狙うんじゃない! “セーレの名において我が身、煙のごとく消し去らん”」

 美男子魔族がしめたとばかりに何やら呟くと――

 「消えた!?」

 呟き通り、煙のごとく消え去った。

 「逃げられましたね、見たことのない魔族でしたけど何者だったんですかねえ」

 「そうなの? まあ、シロップとシルバが無事でよかったけど」

 すると、レジナさんがシロップと共にこちらへとやってくる。

 「助かったよ、このとおりシロップも無事だし、シルバもね」

 レジナさんが目を向けた方を見ると、ルビアが最後のごろつきを倒しているところだった。

 「はああ……」

 「姐さんノリノリですねー」

 「誘拐とかそういうのは大嫌いだからね。アレンが僕を――っと、何でもない」

 これだけの騒ぎだから、どこで誰が聞いているか分からない。アレンと旅をしていたことを言うと余計なことになりそうだから口を噤む。

 「さあて、あっちも潮時みたいね」

 パンパンと手を払いながらこちらへ来たルビアがあのオールバックの首領とかいう人を見る。そういえば居たね、まああの人たちは良く知らないし、重要じゃないからこんなものだよ、うん。

 程なくして司会だった男がお縄につき、首領が僕達に話しかけてきた。 
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