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第四章:オークション
その55 事態の収拾
しおりを挟む「よう、そっちも終わったみたいだな」
「そっちも、ってことはあなた方も?」
僕が訪ねると、黒いスーツを着た首領と呼ばれている男は頷きポケットから煙草を取り出すと、魔石で火をつけて一服すると話を続ける。
「ふー……そういやお前さん、露店でショバ代を払ってなかった坊主か。まさかこんなところで会うとはな。俺はバンデイル、この町の表と裏両方の監視役ってところだな」
「それって町長じゃないの?」
「町長は別にいるんだ。この町は見ての通り露店の数も多いし、オークションもある。だから町で暮らす人間といざこざは少なくないのさ」
故に、自警団のような組織を自分で作って町の平和を守っているのだそうだ。組織に入ればそれなりに生傷が絶えないことも多いけどうま味もある。今回はそのうま味をさらに徴収しようとした結果というわけだ。
「もちろん噂はあったし、動いていないわけでもなかった。表のオークションのように道具や武器くらいなら小遣い稼ぎと考えれば説教するくらいで済んだが、いつのころからか奴隷を売り捌いていると聞いて本格的に乗り出したってわけよ」
そう言ってまた煙草の煙を吐くと、今度はバス子が口を開く。
「変装はなんだったんです?」
「ありゃ、カモフラージュってやつだ。あの野郎、俺が出張に出ている隙を狙って開催していやがったからな。情報収集を兼ねて変装してたってわけさ」
「なるほど……あ、そういえば表のオークションで公王様が来てましたけどよく来るんですか?」
「ん? ああ、あの人は常連だ。おかしな骨とう品やら装飾品、絵画を買ってはホクホク顔をしているいい王様だよ。公王様の金の殆どは寄付金として配っているけどな」
「今しがた僕達が戦っていた相手は公王様と一緒にいた執事だったんですけど、魔族でした。何か心当たりはありませんか?」
僕の言葉に煙草を咥えたまま少し考えるそぶりを見せたバンデイルさん。しばらくしてから声を潜めて話し出す。
「……これは真偽が定かじゃないが、公王は人を集めているらしい。冒険者や獣人、エルフにドワーフ、種族を問わずにだ」
「そういえばあの魔族、あそこにいるエルフの子を手に入れようとしていましたね。それにシルバとシロップも」
「アタシの可愛い子供たちを売ろうだなんて不届きなヤツが居たもんだよ」
ふんす、と鼻息を荒くして犬歯を見せるレジナさんのセリフで僕は重要なことを思い出し、ティモリアを探す。
「居ない!? あの、すみません。何かわかめみたいな髪の毛をした男がその辺でお金を拾おうとしてもみくちゃにされていませんでしたか?」
「いや、見てないな。どさくさに紛れて逃げたんじゃないか?」
バンデイルさんの部下らしき人へ、司会の男であったイーゼルの仲間をふんじばっていたので聞いてみたが見ていないそうだ。
「あいつ、逃げ運だけはいいな……」
僕が一人誰ともなく呟くと、ルビアがまじめな顔で僕に言う。
「それよりも公王様よ。魔族と繋がっている上に奴隷や人買いをしているというなら割と問題だと思うわ」
「うん。あの魔族が公王様と一緒ならまだ町にいるかもしれない。もし居なくても、公国の首都に戻っているはずだよ」
「えっへっへ、実は魔族が公王様を操っていて、それを助けたわたしは公王様に見初められて大金持ち……これは行くしかありませんね」
「追い出される未来しか見えないけど、夢を持つことはいいことだよね」
「首都へ行くのか? お前等……一体何者なんだ? 確かに公王様は怪しいが、この国をよく考えてくれているお方だ。危害を加えるってんなら俺も黙っている訳にはいかないんだがな?」
バンデイルさんが目を細めて僕達に殺気を放ってきたので、僕はいつか言おうと決めていた言葉を放つ。
「コホン! 何者か? フフフ、何を隠そうこちらのお方と、僕の背に居るこの子は何と大魔王を倒した拳聖ルビアと賢聖エリィなのです!」
「何だと!?」
「あ、これギルドカードです」
「ちょっと勝手に……」
エリィとルビアのカードをバンデイルさんに見せると、
「マジだ!?」
「でしょう? 僕とこの子、そしてルビアの背負っている子は二人のお供なんです」
大げさに手を広げながら言うと、バンデイルさんが顎に手を当ててから口を開いた。
「……オッケー、了解だ。公王様が町に居るかどうかはウチの者に調べさせる。坊主たちはそれまで露店でも出していてくれ」
「先回りしてもいいんじゃないですかね?」
「それを魔族に知られたら雲隠れするかもしれないだろ? 泳がせて確実に追い詰められることを優先しよう」
「それじゃ、何か分かったら連絡するぜ。撤収だ!」
おおおおお! と、いろんな人を捕まえた部下たちと共に引き上げていき、その後を僕達も追いかけて外に出ると、レジナさんが話しかけてきた。
「何だかよくわからなかったけど、ウチの子達を助けてくれたのは感謝する。ありがとう」
「レオスにいちゃ、ありがとう!」
「ルビアお姉ちゃんもありがとう!」
「いいよ、あの森で会って無かったら気づかなかっただろうしね。それにしてもどうして捕まったんだい?」
僕がシルバに訪ねると、こんな答えが返ってきた。
「僕達、村の近くで遊んでいたんだけど、シロップに矢が刺さって眠ったんだ。そしたらわかめ頭のあいつが出てきて、シロップを連れて行こうとしたから逃げようと思ったんだけど……」
シルバもそれほど体は大きくないし、大人からは逃げられなかったということだ。眠り矢を用意していたところを見ると、元々誘拐目的だったに違いない。
「子狼をさらった張本人はレオスが知っていたみたいだけど」
「そうだね。前の時はメガネをかけていたけど、今回は商人風の服だった。ティモリアの目的はよくわからないけど、一度捕まえておかないとまた誰かに迷惑がかかる気がするんだ」
「あの男はアタシが見つけたら拷問にかけておくよ。で、しばらくシルバとシロップを村から出さないようにしよう。では、アタシ達は森へ帰るよ。もし立ち寄ることがあったら、夫と一緒にお前たちを歓迎する」
「ばいばい!」
「またねー!」
レジナさんが深々と頭を下げると大きな狼に変身して二人を背に乗せ、月夜の中去っていった。何にせよ無事でよかったかな? もし野良だったら連れて行きたかったくらいあの二人は可愛かった。
「さ、僕達も宿へ帰ろう」
「ですねえ。お嬢様はもう虫の息ですし。げひゃひゃひゃ!」
「え?」
バス子が大声で笑うので、ベルゼラを見ると、白目を剥いてだらんと力なく、文字通りぶら下がっていた。
「うわああああ!? ベルゼラ、しっかりするんだ!? <ダークヒール>」
「世界が……回っています……」
ベルゼラがなにやら呟いていたけど、やがて動かなくなり寝息を立てだした。
「あー、めちゃくちゃ暴れたからね……悪いことしちゃったわ……」
「その点エリィさんはがっしりとレオスさんを掴んでいますねえ」
「正直、指が食い込んで痛いくらいだけど、今の戦いでは落ちなくて良かったと思うよ」
「むにゃ……レオス君……」
結局僕の背中から離れなかったエリィと一緒に寝る羽目になったのは言うまでもない……
――とりあえず気になるのは公王様とあの魔族、確かセーレと名乗ったあいつとの関係。復活した冥王が関わっているのだろうか……
もう一つ腑に落ちないのは、あの魔族がベルゼラとバス子を見ても特に反応が無かったこと。大魔王の娘なら人質にでもプロパガンダにでも使えそうだけど、まるで興味を示さなかった――
いや、存在を知らないというくらい反応が無かったと言っても過言じゃない。それくらい違和感を感じたんだよね。悪意は無いけど、ベルゼラとバス子も注意しておいた方がいいかな?
次は公国首都に行くのか……若干回り道になるけど、これは仕方ないかな……
僕が行かなくても一人で行っちゃうんだろうし、それはそれで心配だ。強いと言ってもルビアだって無敵じゃないしね。
さて、何が出てくるやら……
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