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第五章:スヴェン公国都市
その63 謎の女性登場
しおりを挟む村長が去った後、僕達はガチオ村の宿屋へと向かう前に馬二頭を預かってもらうため厩舎に来ていた。荷台から切り離すと軽くなったと言わんばかりに藁の上に歩いていく。
「ひひーん」
「ぶるるん」
「ゆっくり休んでくださいね」
バイバイとエリィが手を振っていると、厩舎のおじさんが笑いながら声をかけてきた。
「はっはっは、手入れは任せておけ! これだけ立派な馬は久々に見るわい」
「よろしくお願いします。馬の餌代などは後で清算しますから」
僕がそう言うと、おじさんはにこっと笑って見送ってくれた。いつ忙しくなるか分からないからあの二頭にはゆっくり休んで欲しい。そういえば、と思ったところでシルバを抱っこしたベルゼラに、
「そういえばあの二頭、名前が無いんじゃないですか? 私達で考えてあげません?」
と、尋ねられた。
そう、バンデイルさんは馬の名前を教えてくれていないのだ。まあ、それは全てが終わってから出いいと思う。そんな話をしながら宿へを足を向ける。
「落ち着いたら考えてあげようか。それよりも今は公国都市だよ」
「顔が割れているのが厄介ですね。あのアホバールでしたっけ? あいつが邪魔をしなければ今頃全部が終わっていたんですがねえ」
バス子が至極当然なことを言い、ルビアが続ける。
「ゲロバールは完全に予想外だったから仕方ないわね。アレンの装備を持って帰ってくれたことを祈りたいわね。で、みんな何かいい案出た?」
「うーん、一番いいのは変装でしょうか。カードは持っていないことにしておけばいけるかなと思うんですけど……」
「門の衛兵に顔を見られているから結構厳しいわよ? 相当変えないと」
「お嬢様とわたしは角とかを隠すくらいしかできないんですよねえ」
「僕、狼になれるよ!」
「シルバは顔を見られていないからいいけど、レジナさんはダメだろうね」
「ああ。アタシはずっと追っていたし、狼の姿も人間の姿も見られている。衛兵をごまかせるとすればレオスとシルバだろうね」
そうレジナさんが言う。
確かに僕は衛兵に顔を見られていないから、変装して僕一人で潜入するのもアリかなと思いつつみんなの話を聞いていると、突然背後から声をかけられる。
「君達、変装をしたいの?」
「え?」
僕達が振り返ると、若い女の子がにっこりと笑って立っていた。ルビアと同じくらいの年齢かな? 僕からすればお姉さんといった感じの人だ。
「えっと、そういわれればそうなんですけど……」
「そうなのね! ちょうどじっけ……もとい、実験体を探してたの、どう、私に任せてみない?」
女の人は実験体って言おうとして、しまった顔をした後、実験体を探していたと言い放った。もしかしたらアホなのかもしれない。
「間に合ってます」
「行きましょう、怪しいですし」
僕とベルゼラが冷たく言い放つと、女性は慌てて駆け寄ってきて僕達の前に回り込む。
「いやいやいや、間に合ってないんだよね!? 私に任せてくれれば万事解決よ!」
「あなたは変装の達人なんですか?」
エリィが首を傾げて訪ねると、女性はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに胸を張って口を開く。
「よくぞ聞いてくれました! あ、私はセリア。別に変装の達人ってわけではなくて薬品士なの。だからあなた達に役立つ薬がきっとあるわよ? ほら、髪の色を変えたりとかさ」
「……それを実験したいってわけだね?」
「あ、あはは、まあ、そうとも言えるかもしれないしそうじゃないかもしれないわね」
「じー……」
僕とエリィ、ベルゼラにバス子が訝しんで目を細めてみていると、ルビアが腕組みをして女性……セリアに訪ねる。
「まあ実験でもなんでもいいんだけど、髪の色が変わるだけでも印象は違うからアリと言えばアリね。折角だし協力してもらいましょうか」
「本気ですか!? 超怪しくないです? このタイミングで話しかけてきた上に、わたし達の求めるものを提供できるとか都合よすぎないですかね?」
「大丈夫。物語の流れとしては自然だから」
「はい?」
何を言っているか分からないという顔をしたバス子はさておき、ルビアの言う通りもし変装ができるなら渡りに船だ。
「ではちょっと怪しいですけど、背に腹は代えられないのでお願いできますか?」
「言い方が引っ掛かるけど……まあいいわ。貴重な実験体だしね。私の家はあの少し丘なっているところに見える家だからすぐ行きましょう」
「大丈夫ですかね……」
ベルゼラが不安そうに僕の裾を掴んで言うが、賽は投げられてしまったのだ。僕達はセリアさんの後を付いて行くのだった。
◆ ◇ ◆
「おんや? 旅の人と一緒にいるのはセリア先生かのう」
「みたいだねえ。旅人に説明するのを忘れておったわ。あの人、村人を助けてくれるけど失敗作も多いからなあ」
「いいおもちゃを見つけたってところかしらねぇ……」
「まあ死ぬことは無いから大丈夫でしょ。さ、畑仕事続けるよ」
◆ ◇ ◆
――程なくして丘の上にある家に辿り着く。
「さ、入って!」
「結構大きなお家ですね。ご家族の方に挨拶をしておきたいのですが」
「ん? ああ、ここは私しか住んでいないから大丈夫よ。さ、こっちに来て」
「がさつそうな人ですけど、家は奇麗にしていますね」
人のことは言えないだろとツッコミたいバス子の発言は無視して奥の部屋へと入っていく僕達。その部屋はおおよそ『実験室』と言って差し支えないと思える部屋で、フラスコやビーカーに色とりどりのガラスの瓶が所狭しと棚に置かれていた。
「これ全部が薬なの?」
「まあまあ、その前に自己紹介をお願いしていい? 名前が分からないと接しづらいわ」
「それもそうね。あたしはルビアよ」
「エリィです」
「ベルゼラと申します」
「わたしはバス子ですよ」
「僕はレオスと言います」
「オッケー、覚えたわ! 早速だけどルビア、これを一滴頭に振りかけてみて」
軽くウインクしてOKと指で丸を作り、ルビアへ赤い液体の入った瓶を渡していた、
「……ハゲたら殺すからね?」
「げひゃひゃひゃ! 姐さんのハゲは強烈そげぶふう!?」
ドゴン!
「こうなるわ」
「だ、大丈夫よ、多分……」
頭から煙を出して床に突っ伏しているバス子を見て顔を引くつかせながら少し後ずさるが、自信があるのだろう。大丈夫と口にする。
「えい!」
ルビアがかわいい掛け声で目を瞑って赤い液体をかけると――
「あ、凄い。紫だったルビアのポニーテールがみるみるうちに赤い髪になりました!」
説明ありがとうエリィ。
「え、本当!?」
「はい、鏡をどうぞ!」
「わ、本当だ……ちょ、ちょっと自分なのに見慣れないわね。これはどうすれば戻るの?」
「しっかり洗髪すれば消えるようになっています! どうです、信じていただけましたか?」
セリアがドヤ顔でフフフ、と笑い勝ち誇る。頭を洗うまで持つならいいかもしれない。
「それじゃあ使わせてください。お代は? もし高額ならルビアかエリィ、貸しておいてくれないかな?」
「もちろんですよ!」
するとセリアさんは手を目の前で振り、僕に瓶を手渡す。
「お代は要らないわ。その代わり、これをあなたに飲んで欲しいの」
「え? 飲み薬……? 僕じゃないとダメなんですか?」
「ええ。これは貴方にしか意味が無いの」
ガシッと僕の両肩に手を置いて真剣な目で見つめてくる。
「……」
「大丈夫、これも変装薬の一つだから死んだりはしないって! ほら、ぐいっと!」
まあ、毒でも治療できるからいいか……僕は思い切って薬を飲み干す。
「ごくん」
「……? 何も起こりませんね?」
ベルゼラが僕を見て首を傾げていた。
「失敗かな? ん、何か服が大きくなった気がする? 胸もなんか重い……」
「!? あ、ああああ……!」
何か目線が下がったなあ。もしかして見た目の年齢を変えるとかそういうやつかと思っていると、バス子が大声で叫ぶ。
「何だよバス子、うるさいよ?」
「れれれれれ、レオスさん! む、胸! 胸が!」
「胸? 胸がどうし――」
あれ!?
「膨らんでいる!?」
そっと触ってみると、確かに弾力が……ま、まさか!?
「あ! レオス君!」
ダダダ、と物陰に隠れて僕はズボンに手を入れて確認する。すると案の定……
「な、無い!?」
あるべきものが無くなっていた……
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