前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第五章:スヴェン公国都市

その76 ソレイユ七変化

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 地下を抜けた先にあった部屋を改めて中を見渡すと、この部屋はどうも使用人が使う部屋の一室らしく、簡素なテーブルに椅子、ベッドにクローゼットがあった。
 ただ、誰も使っていないらしくベッドにはお布団はなく、部屋の中も生活感が無くきれいなものだった。とりあえず使用人の部屋と考えるとここは一階かな? そう思いながらそっと扉を開けると忙しそうに立ち働く人たちの姿がちらほらと見えた。

 「どうですか?」

 「お城の中で間違いなさそうだね。セーレの手で掌握されているのかと思ったけど普通に生活しているみたいだ」

 「となると飛び出すのは難しいわね。セーレやシロップがどこに居るか分からないと闇雲に動けないし。大魔王の城みたいに誰も居ないと良かったのに」

 「大魔王?」

 「あ、ああー! 大魔王の城っていかにも魔物しかいなさそうじゃないですか? そ、そういう意味です!」

 「くく、ああ、なるほどねー。分からないでもないかな?」

 「あ、あはは」

 ルビアはあまり意図していなかったと思うけど、フェイさんが食いついてきたのでとりあえず誤魔化した。ルビアは目で『ごめん』と言っていたのでため息を吐いて頷く。
 
 それはともかく――

 「どうしましょうか。フェイさんの姿を消すスキルを使ってもらいますか?」

 「そうだね、君が付き合ってくれるならいいよ」

 そういってルビアの手を握るフェイさん。それを即座に振り払って即答する。

 「却下に決まってるじゃない! 時計塔からここまでは助かったけど、そういうことならお断り。ここでお別れね」

 「いいね、気が強いところも俺好みだ。さて、それじゃ別の手段を考えよう。少し待っていてくれ」

 「あ、ちょっとどこ行くんですか!」

 エリィが止める間もなくフェイさんは部屋を出ていく。少し待っても戻ってこず、どうするかと頭を悩ませながら会話をする。

 「うーん、これで僕達の存在がバレたらすごく面倒なんだけど……」

 「実はやっぱりセーレの手の者であたし達の正体がばれてるとか? で、報告に行ったとか? ならここを動かないとまずいかしら。部屋を少しずつ移動して事情を話すか……」

 「いえ、これはもう力づくしかありませんね」

 何故か賢聖のエリィが脳筋みたいなことを言いだしたところで扉がカチャリと開く音がし、僕達は身構える。すると入ってきたのは出て行ったフェイさんだった。

 「あんた一体どこ行ってたのよ! 見つかってないでしょうね? それともあたし達を売ったのかしら?」

 「売る? なんのことだい? それよりも城の中をうろつける画期的なアイテムを持ってきたよ」

 「えー……大丈夫ですか……?」

 「ははは、信用が無いね! でもこれを見たらその考えが改められるよ! はい」

 そう言ってフェイさんは後ろ手に持っていたものをバサッと目の前に広げたのだ。それを見て僕は唖然となり、ルビアは僕とエリィを交互に見て真剣な表情になる。

 「……いい仕事ね。信用するわ」

 「そういってくれると思ったよ」

 がしりと握手をする二人に僕は慌ててツッコミを入れる。

 「さっきまで不仲だったのにこのメイド服だけで意気投合しないでよ!? というか……これを着るの?」

 そう、フェイさんが持ってきたのはさっき扉を開けてチラ見をした時に見た、この城で使われているメイド服なのだ。フリフリエプロンが眩しいけどこれを自分が着るのはすごく……ものすごーく抵抗がある……

 しかしルビアは僕の肩に手を置いてフッと笑う。

 「可愛いは、正義なのよ」

 「いやだぁぁぁぁ!」



 ◆ ◇ ◆


 
 「さて、ソレイユさん達はどこですかねえ」

 「魔物は……居ないようね。どこかで合流できるといいけど」

 時計塔の地下へ入ったベルゼラ・バス子・レジナにシルバは静かな地下を歩き、レオス達を探す。合流予定を立てていたわけではなくバス子が伝えに来ただけなので、少し移動して見つからなければ戻るつもりでいた。
 そこへレジナの腕から地面に降り立ったシルバが床に顔を近づけ、鼻を鳴らす。

 「ふんふん……うん、ルビアお姉ちゃんはこっちに行ったみたいだよ! 匂いが残ってる!」

 「本当? シルバは偉いわね」

 「くぅーん♪」

 ベルゼラがシルバを撫でると、嬉しそうな顔をしてシルバが鳴いた後に駆け出す。

 「ウチのシルバは賢いからね。すぐに追いつけるよ」

 「だと、いいですがねえ……何か嫌な予感がしますよわたしは」

 「そういうことを言わないの、バス子」

 しばらくシルバの後を追い、城へ続く道と奴隷たちのいる地下牢へ続く道の分岐点に差し掛かった時、男の声が聞こえてきた。

 「――い、――しろ! ――った!」

 「この声……途中突っかかってきた剣聖の声じゃないですか!? おのれ、ここで会ったが1千年。ギタギタにしてやりましょうかね!」

 「シーッ! 静かになさい! こっちから聞こえたわね……なら、私達はこっちへ行きましょう。鉢合わせすると面倒でしょう」

 「きゅん! こっちの方が匂いが強いから、ルビアお姉ちゃんはこっちだよ」

 「チッ、命拾いをしましたね……」

 シルバが城への道へ入り振り向いてからそう言い、四人は城へと入っていく。合流まで、あと一息というところまで来ていた。


 ◆ ◇ ◆



 「あら、あなた達どこへ行くの? 持ち場は?」

 「ひっ!? ……い、いえ、セーレ様に呼ばれていまして、そちらへ行こうかと……へ、部屋がどこだったかなーと思いまして」

 「セーレ様に? そういえば見かけない顔ね、新人かしら? 最近れ変わりが激しいからねえ。大変だけど、頑張って仕事を覚えてね。期待しているわ。セーレ様の部屋は三階の執務室だから、そこの階段から行くといいわ」

 「ありがとうございます!」

 「ふふ、元気ね。それじゃ、持ち場が一緒になったらよろしくね」

 そういって三つ編みのメイドさんが僕達から離れていき僕はホッと胸を撫でおろす。予期せぬ事態でセーレの居場所が判明したのは僥倖だった、けど。

 「ううう、スカートってすーすーするんだね……」

 「慣れたら大丈夫ですよ。ソレイユちゃん可愛いですし!」

 「慣れたくない……」

 「うーん、でも本当に可愛いわね。もうそのままでいいんじゃない?」

 「良くないよ!? ルビアのおもちゃにされるだけじゃないか! 僕は男で居たいよ」

 着替えの時、上から着るだけでいいと言ったのにルビアは嬉々として僕にメイド服フル装備に仕立て上げたのだ。本気になった拳聖の力はすさまじく、まるで抵抗できずあっという間にみぐるみをはがされた……そんなことに力を使わないで欲しいよホント……

 ちなみにフェイさんは部屋へ置いてきた。メイドと男が一緒に歩いているのは変だし、いざ戦いになった時にフェイさんが『どっちの味方』なのかが不明だから。まあ隠れるスキルで後をついてきていて挟み撃ちって言うパターンは考えられるけど、それなら容赦なくぶっ飛ばせるので、敵ならそうあって欲しいという思いもあったからね。

 「ここですね」

 エリィが扉のプレートを見て呟いたので、見ると『執務室』と書かれていた。その横に手書きで『セーレの』と書かれた紙がひらひらしていた。

 「……行こうか」

 僕が扉に手をかけて言うと、二人が頷き、重々しい扉が開かれた。
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