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第五章:スヴェン公国都市
その80 実力差
しおりを挟むセーレに向かって飛び出した僕は少し考える。じわじわ戦うのはあまり意味がないし逃げられるリスクが高い。恐らくこいつは自分を移動させることくらいはできるはず……ならやることは一つだ。
指針を決めていると、セーレが得意気に笑いながら言う。
「そちらから向かってくるとは好都合ですね、行きますよ! 《エク――》」
「遅い! <インフェルノブラスト>」
「は?」
「え?」
ドサ……
レイピアと杖を構えて魔法を使おうとしたセーレ。だけど手をかざして魔法を使ったその直後、セーレは一瞬で丸焦げになり、悲鳴を上げる間もなくその場に倒れた。ちなみに短く呟いたのはエリィとバス子であることを付け加えておく。
「<ダークヒール>」
すかさず僕は丸焦げになったセーレを回復してやるとすぐに目を覚まし、僕の顔を見てぶわっと冷や汗が噴き出した。
「な……!? い、今、私は……」
「うん。気絶してたね、もう一回やるかい?」
にっこりとほほ笑むとがっくりと項垂れて動かなくなった。これで抵抗する気力がなくなったと思いたい。そこで僕はもう少し脅しておくことにする。
「これでも大魔王の時と違って一瞬で灰にしなかっただけありがたいと思ってね? 君には色々教えてもらわないといけないんだから」
「くっ……」
「さて、それじゃ質問タイムだけど、君達の目的は?」
「……」
「話したくない? じゃあもういいかな」
ボウっとインフェルノブラストを手に出すと、ごくりと喉を鳴らしたセーレがゆっくりと口を開く。
「殺してしまったら、わ、私から情報は得られなくなるぞ」
「まあね。でも、とりあえずこの国を救うことはできるでしょ? あの領主様に成り代わろうとしていたやつも残っているし……それに僕は実家に帰っている途中なんだ。できればこういうゴタゴタには巻き込まれたくないんだよね。後腐れなくぱぁっと消えちゃおうか!」
あははは、と僕が笑うと、ガタガタ震えだしたセーレが正座をして僕を見据える。
「悪魔かお前は……あれで本気でない、と?」
「うん。本気を出したらお城が壊れちゃうだろうし、町の人達にも迷惑がかかるよ。仮に君が大魔王より強かったとしても、人数を揃えるかしないと僕には勝てないと思う。というか大魔王より強いというのは吹きすぎかな? ……それで言う気になった?」
「レオスさん、なんて悪役が似合うんでしょう……やはり私の旦那様に相応しいわ」
「……」
「どうしましたバス子ちゃん? 怖い顔してますよ」
「ふえ!? い、いえいえ、やっぱり大魔王を倒したレオスさんは強くてかっこいいですねえ!」
何か後ろで勝手なことを言っている女性陣に反論しようと思ったところで、セーレがしぶしぶ話し出す。
「……この国を動かそうとしたのは、先のことを考えてのこと。大魔王が倒された今、邪魔をする者は居ない。まさか勇者や聖職がこんなに早く倒せるとは思っていなかったが、なるほどお前が倒したというなら納得がいく」
「先を? それに――」
「お父様があなた達の邪魔をしていたというのはどういうこと?」
ベルが僕が口にしようとした疑問を代わりに聞くと、セーレはベルに対し目を細めて答えた。
「……大魔王エスカラーチの娘か。いずれわかる……というより、大魔王復活を目論んでいるのだろう? 本人に直接聞けばいい。そして伝えろ、お前の城はすでに我等のものだと」
「え? 私達が去った後、魔王城を占領したのですか?」
「そう我等はこの世界を――」
と、セーレが何か核心をつきそうな話をしようとしたその時、セーレの背後に真っ黒なボロ布をまとった髑髏の顔をした人影が姿を現した。
「ソレイジョウ、ハナシヲサセルワケニハイカンナ」
男か女か分からない声で喋るのを聞いたエリィが驚きの声をあげる。
「あなたは冥王……! 本当に生きていたんですね!」
「ケンセイカ。アノトキハ、セワニナッタ。ダガ、ウンヨクショウメツヲマヌガレタノダ。フクシュウシタイトコロダガイマハオマエタチニカマッテイルヒマハナイ。セーレ、オマエノノウリョクハヤクニタツ。マダシナセルワケニハイカナイ」
「……逃げられると思うの? この数とセーレという人質がいてさ。今度こそ消滅させるよ、エリィが」
僕がセブン・デイズをセーレに突きつけてそういうと、
「私ですか!? 分かりました!」
「……! オ、オマエハ……ドウシテオンナニ……!? コ、コホン……イイダロウ、ワガチカラトクトアジワウガイイ!」
すると――
「こ、いつ、冥王!? 生きていたのか!?」
「へえ、あれがそうなんだ? 禍々しいね。あれ? ルビィちゃんがいない?」
またしてもレオババール……あ、違った。レオバールと、なんとフェイさんが一緒に居た!?
「レオバール!? どうしてあなたがここにいるんですか! それにフェイさんも一緒に!」
「な!? エ、エリィか!? ……なるほど、公王が操られているというのは本当だったのか。それで助けに城へ忍び込んだんだな?」
「最初にそう言ったよね僕が! アホバール!」
「俺はレオバールだ! やや、君はギルドで会った可愛い子! すまんエリィ……俺は新しい恋を見つけたんだ。お前とはもう終わりだ……」
「いえ、始まっても居ませんけど? それにその子はレオ――」
「わあああ! 今はそれより冥王を!」
「お、おう!」
レオバールが剣を構えると、バス子が笑いながら突撃してきた。
「えっへっへ! ならセーレを始末して、冥王に全部吐いてもらいましょうや! 覚悟ぉ!」
「貴様……!?」
「ちょっと待ってバス子!?」
僕が止める間もなくバス子はセーレに槍で攻撃しざっくりと腹に突き刺さる。不意打ちだったせいか、何の抵抗もなく串刺しになっていた。
「ごふ……」
「そら、お仲間の成れの果てですよ!」
「馬鹿!?」
ぶん、とバス子が冥王に言いながら床に転がし得意気な顔で槍を向ける。僕は慌ててセーレを回収に走るが、一歩遅かった!
「アタマノナカガオハナバタケナナカマヲモツトクロウスルナ……クック……セーレは、カエシテモラッタ」
ボロ布がフワリと広がったと思った瞬間、セーレの体を包み込み……
「消えた……! くそ、こいつは死者を使役するんだ、もし死んでいても道具として使われるんだぞ!」
「えええ!? それを早く言ってくださいよ! わたし、お嬢様のお付きで城にこもっていましたからそういうのには疎いんです! で、でも冥王を倒せば結果オーライ?」
「疑問にしない! 仕方ない、速攻で倒す!」
「よくわからんが、斬っていいんだよな?」
僕とレオバールが踏み込むのと同時にベルが叫ぶ。
「おバカ子! ちょっとずらして《フレイム》! お父様のこと、教えてもらうわ!」
「ダメですベル!」
「クク……」
少し狙いをはずしたベルのフレイムはきちんと冥王のところへ飛んでいくが、冥王がボロ布を振ると何事も無かったかのように霧散した。
「あいつは光魔法でないと効果がありません。レオス君が魔法を使わず剣で斬りかかったのはそのためなんです」
「ならアタシもいけるか。シルバ、シロップを頼むよ!」
「きゅん!」
「ああ、カクェールさん……こんな時に、もう! ボクとティリアは魔法使いだから見てるだけじゃない!」
「あわわ……緊張してお腹すいてきました……」
一度戦っているからエリィが素早く言ってくれる。レオバールの動きが速かったのもそのせいだ。以前ならルビアとアレンが加わり近接特化で倒したんだけどね。レジナさんが加わってくれたらかなり助かる! とりあえずティリアさんとルルカさんは役立たずだ!
「その髑髏顔が弱点だっけ?」
「フッ」
僕の斬撃をスイっとかわし、
「イゼントオナジダトオモウナヨ。スコシダケアソンデヤル」
冥王がボロ布から両手を出して魔法を使い始めた!
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