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第五章:スヴェン公国都市
その81 六魔王の一人・冥王
しおりを挟む「《ブラックペイン》」
冥王の両手から生み出された黒い球体がドラゴンの頭を模して僕とレオバールに食らいつこうと迫りくる。僕はすぐにフルシールドで防御し、レオバールは剣で叩き落す。
とりあえず冥王がふわふわと浮いているのが厄介だ。足払いで崩すことができないからね。
「ホウ、ヤルデハナイカ剣聖」
「あの頃と違うのは俺とて同じこと。その首、もらったぞ!」
レオバールが頭上に剣を掲げ、真っ二つにしようと体を動かし、僕とレジナさんが左右を取る。僕は後頭部側から剣を横に振り抜き、レジナさんは斧を下から切り上げるように腕を伸ばす。こうやってクロスさせれば逃げ場はないだろう。
「ナルホド、イイレンケイダ。デハ、ワタシモブキヲモツトシヨウ」
「うおぉぉぉ! ……何!?」
ゴイン、と鈍い音がした瞬間、セーレが持っていたイグドラシルの杖でレオバールの剣を止めていた。いや、正確には杖に何かまとわりつかせて強度を保っているといった感じか。直後にレオバールがたたらを踏み、冥王はかなり屈んでレジナさんの一撃と僕の横薙ぎを回避しつつ、杖で足払いをかけてくる。
「チッ、飛べば問題ないわ!」
「ダト、オモウダロウ?」
「くは……!?」
「レジナさん! たあああ!」
「加勢する!」
バシュ!
足払いを飛んで回避したレジナさんがイグドラシルの杖で肩口から叩きつけられ壁へ吹き飛ばされ、その隙を狙った攻撃で冥王のボロ布が引き裂かれる。
でも浅い! 今ので腕一本は持っていくつもりだったんだけどね! 魔王の意地か、はたまた本当に強くなったのか? 見た目に反して動きがいい。前に戦った時は遠距離からの魔法メインだったから杖の攻撃が意外過ぎる。
「《ブライトネスアロー》!」
「クク……《ダークネスシックル》」
不意に放たれるエリィの中級光魔法。これは嫌がった冥王の黒い鎌を模した闇の魔法がかき消した。しかし光の矢と同時に飛び出すのは、
「バス子ちゃん! ベル!」
「えっへっへ! 汚名挽回と行きますよ!」
「ベタな間違いをしないで!? 牽制くらいにはなります《フレイム》!」
「大丈夫、最近だと間違いということが間違いだって言われていますよ! 死ね、冥王! らああああ!」
「ムダナコトヲ……!」
左手でバス子の槍を掴み、右手でフレイムを消す冥王。なるほど、手で搔き消していたのか、なら魔法が効かないわけじゃないな。僕が探る中、すかさず攻撃を仕掛けるのはレオバールだ。
「動くなよ! ”閃光剣”」
「《ダークネスネット》」
ビシッ
「うお!? 絡みつく!? ぐあああ!?」
レオバールの技で髑髏顔にひびが入ったけど、魔力でできた網目の糸を足に絡みつけられ膝を崩すレオバール。あれって確か体力を削られるんだっけ?
「よくもやってくれたな!」
「まだまだ行くよ!」
レオバールの死を無駄にしないためにも(死んでない)壁から一足で飛んできたレジナさんと僕が斬りかかると、バス子が槍を捨てて素手で殴りかかっていた。
僕とレジナさんの攻撃は右手と左手で受け止めるが、バス子のパンチは見事、髑髏顔にヒットしていた! レジナさんも掴まれた斧から手を放して頭突きをかます。
ビキビキ……!
「ジャマダ! 《カオスディザスター》!」
「うわわ!?」
「ぐ、くそお!?」
真っ黒な渦が足元から吹き出し、レジナさんとバス子が宙へ浮かされ床に叩きつけられる。僕はフルシールドで咄嗟にガードをしたので相殺し、セブン・デイズで髑髏顔を突く!
これだけ近づいていれば魔法で消し飛ばせそうだけどこいつにも色々、特に大魔王関連について聞きたいことが山ほどあるので剣での攻撃に徹することにした。
「僕には効かないみたいだね! もらった……!」
「ボウギョヲ……!」
「させません!」
イグドラシルの杖でガードしようとしたところを、いつの間にか接近していたエリィがロッドで打ち払いバランスを崩す。
「マダ……!」
残った腕で止めようとするが、今度は別の角度からダガーが飛んできて、冥王はそっちに気を取られた。
ヒュ!
ガッ!
チラリと飛んできた方を見ると、
「ウグ……!?」
「終わりだ!」
ガキン! と、良い音を立てて眉間にセブン・デイズが突き刺さる。すると、左目の部分が欠け落ちた。
――欠け落ちた!?
「……ミタナ……!」
「女、の子!?」
「え? ……きゃあ!?」
少しだけ見えた素顔は、白い……本当に白い肌で、さらにいわゆるハイライトの無い目をした女の子だった。素顔を見られたことに怒ったのか、エリィを振り払って僕に杖を振り回してきた!
「オオオオオ!」
「速い!」
杖を避けつつ反撃のチャンスを狙う僕。先ほどまでと違い、動きが雑になったのでやるなら今だ!
そう思った瞬間――
「いただいたぜ!」
「みんな、無事!」
「グゲェ!?」
何とカクェールさんが割った窓から、再びカクェールさんとルビアが帰ってきたのだ! そしてカクェールさんが投げた槍が胸元を貫き、次いでルビアの飛び蹴りが炸裂した。
「ガハァ!?」
「トドメを……!」
「行くよ!」
「姐さーん! 無事だったんですねぇ!」
「バス子!?」
冥王がくの字に折れ曲がり、僕とルビアの追撃で髑髏顔を割ることができる、はずだったのに、天井に巻き上げられたバス子とレジナさんが降ってきて急停止してしまう。ああ、もう!
「……アツクナッタ。キョウハココマデニシヨウ。ケイカクヲカエルヒツヨウガアルトホウコクセネバ」
「逃げる気か! どいて!」
「ひゃい!?」
「アンシンシロ、オンナ。オマエヲコロスコトニキメタ。スグニマタアオウトキガ、クル 《ブラックウインド》」
ビュオ!
「こいつはマズイ!」
黒い風が巻き起こりカクェールさんが慌てた様子で叫ぶ。僕は全力でセブン・デイズを振るい、魔法を使う。今日は……攻撃と防御の技がある土曜の日だ!
「”グラウンドガード”!! で、<フルシールド>!」
黒い風をセブン・デイズから出した土壁で相殺し、止めきれない部分をフルシールドで全員をカバーできるようブラックウイングとやらを囲むように展開すると、土壁もフルシールドも粉々に砕け散って、双方とも消えた。
「冥王……!」
僕は周囲を見渡すがどこにおらず、見上げるとカオスディザスターで空いた天井が目に入った。
「逃げられたみたいですね……あと一歩のところだったのに……」
「マジだな。まあティリアが助けられたから俺はいいけどな。おい、無事か?」
「うーん……」
「きゅう」
「気絶してやがる……」
カクェールさんが頭を掻いてため息を吐くと、今度はルビアが口を開く。
「……どこへ行くのかしら、バス子」
「う!?」
そろりそろりと部屋から出て行こうとしていたバス子から大量の汗が噴き出し、ギギギ、と、ぎこちない動きで首を回し、愛想笑いで言う。
「……ちょっとお手洗いに……」
「却下よ」
スッと近づいたルビアの手がバス子へと伸びた――
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