前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第五章:スヴェン公国都市

その82 ひとまずの収拾

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 チーン

 「あ、あがが……」

 「バカス子のせいで冥王を逃がしたじゃない、あとちょっとだったのに……」

 「天罰覿面ね」

 「凄いですねルビア。『バカ』と『カス』を同時に混ぜるなんて高度なワザを」

 「それはいいから……とりあえずルビアが帰ってくるとは思わなかったからびっくりしたよ」

 「あまり遠くへは飛んでいなかったのよ。で、彼が使ったルートで慌てて戻ってきたって訳。冥王、この目で見るまで信じられなかったけど本当に本物だったわね」

 床でぴくぴくと伸びているバス子をそのままにし、話をしていた。隣ではレジナさん達狼親子が、今度こそシロップの無事を喜んでいた。

 「シロップ! 無事かい? 痛いところとかは無いかい?」

 「きゅんきゅん! だいじょうぶ! お母さんとにいちゃ、来てくれてありがとう!」

 「きゅん! だいじな家族だから当たり前だよ」

 「ふふ、大人ぶっちゃって。でもこれで森に帰れるわね」

 「きゅん?」

 シルバがそれっぽいことを言ってみんなが笑う。カクェールさん達の方も心配は無かったみたいだけど、

 「食い意地が張ってるからこんなことになるんだ! お前、せっかく俺が奴隷から解放しようとした矢先にだぞ?」

 「ううう……都会には誘惑がいっぱいです……」

 「まあ、ティリアは森から出たことない箱入りエルフでしたからね。ま、懲りたら一人でフラフラしないように!」

 「分かりました……」

 正座をして明らかにしょんぼり俯いているティリアさんを見て、カクェールさんは眉をひそめて頭を掻きながら仕方なく、と言った感じで口を開く。

 「あー、なんだ。無事で良かったよ。そっちの人狼と一緒に何かの生贄にされそうになっていたみたいだし、命あって物種ってところか。そっちの女の子達、成り行きとはいえ手伝ってくれてありがとな」

 「いえ、カクェールさんが奇襲をかけてくれたおかげですよ。とりあえず後始末をしないといけませんし、もう少し残ってもらっていていいですか?」

 「ああ、構わないぜ」

 カクェールさんが頷いたので僕達は公王様とフェイさんのところへ向かう。するとレオバールが後からついて来て声をかけてきた。

 「……アレン以外の聖職で大立ち回りは久しぶりだったな。で、ルビア、エリィ、一体どうやってここまできたんだ? その服はなんだ?」

 「あんたが森で襲ってきてから色々あったわけよ。ここまでしないといけなくなったのはあんたのせいだから、後で覚悟しておいてよね?」

 「ですね。あれ以上の苦しみを味わうといいです」

 「……」

 エリィがバス子を指さすと、レオバールが苦い顔をする。誤魔化すように話を続ける。

 「ま、まあ、それは後でだな……そういえば、そこのお嬢さんはルビア達の仲間だったのか? 可愛い顔をして随分荒い戦い方をしていたが。それにレオスはどうした?」

 「何言ってるのレオバール? 僕は僕だよ。レオス」

 「はあ? いや、女の子だろう君は?」

 「さっきからエリィ達も『レオス』って呼んでたじゃないか!? 変装のためこういう体になったんだよ。あの森でセーレを捕まえておけばここまでしなくて良かったのにさ」

 「……マジか?」

 「もう一回”ロスト・ジャッジ”を見たい?」

 僕は若干苛立ちながら、ぐわっと手に魔力を集中させると、あの時の恐怖が蘇ったのか、レオバールが冷や汗を噴出させた。

 「あ、あの時の……!? た、確かにレオス、なのか……」

 ふう、とりあえず僕を認識してくれたので良しとしよう。変な感情を持たれても困るしね。

 「そういうこと。……何? 僕の顔に何かついている」

 「その、可愛い顔だと思ってな」

 頬を掻きながらさぶいぼ……いけね、肌が泡立つのを感じて叫ぶ。

 「いやあああ!? 正気? 僕はレオスだって言ったよね! 男だよ!」

 「でも今は女の子なんだろう?」

 「そうだけどそうじゃないよ!」

 「なら可愛くてもいいじゃないか」

 「<クリムゾン――>」

 「落ち着いてください、レオス君。どうやら公王様が目を覚ましますよ」

 ああ、もうルビアのせいで面倒なことになった……あの時戻っていれば問題なかったのに……! 地団太を踏みたい気持ちを抑えて公王様に近づいていく。

 「くく、お前達、本当に面白いな」

 「そういえばあたし達が変装を止めても驚かないわねあんた。何か知ってるのかしら?」

 「まあまあ、種明かしは後でな。公王様、無事ですかい?」

 フェイさんが公王様の上半身を抱えて起こすと、瞼をピクピクさせていた公王様がゆっくりを目を開け、僕達を見渡した後にポツリと声を発した。

 「お、お前たちは何者だ……?」

 「僕達は怪しいものではありません。お体は大丈夫ですか?」

 「頭がスッキリしている……そういえばセーレはどうした? いないのかセーレ!」

 操る前から信頼を勝ち取っていたのか、セーレを探す公王様。そこへエリィがしゃがみ込んで公王様へ告げた。

 「私は賢聖のエリィと申します。公王様、あなたはコントラクトの町でのことを覚えていますか? 奴隷を買おうとしていたことと杖を買ったことを」

 「奴隷だと!? 馬鹿な、私は奴隷など買わないぞ! むしろ奴隷制度に代わる別の策を考えるべきだと思っている。それを買ったなど……」

 「先日、ほんの数日前に僕達はその現場に遭遇したのです。そして分かったことはセーレがあなたを操っていて、先ほど倒す直前まで行きましたが、逃げられてしまいました」

 「なんと……!? ……色々納得いかないことはあるが、お主たちの話、詳しく話を聞かせてくれ」

 これだけ一杯の人に囲まれているのに毅然とした態度で恐れず僕達にそう語る。もうちょっと疑いをかけてもよさそうだけど、この性格がバンデイルさん曰く『いい人』なのかもしれないね。

 よっこらしょっと立ち上がった公王様は使用人たちを呼ぶと、僕達を謁見の間へと通してくれた。
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