前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第五章:スヴェン公国都市

その83 不明な目的

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 「さて、何から話してもらうか……」

 玉座に座った公王様が僕達を見て半笑いで呟く。というのも、ここに居る人物がちょっと多すぎるからである。
 
 少し整理しておくと、

 僕(女)・エリィ・ルビア・ベルゼラ・バス子・レジナさん・シルバ・シロップ・カクェールさん・ティリアさん・ルルカさん・フェイさん。あ、レオバールも居たっけ。という顔ぶれ。

 なのでズラリと並ぶ僕達に向ける表情としては間違っていないし、公王様も事情は把握できていないのでいきなり僕達を拘束しないのはこちらとしてもありがたかった。とりあえず一番事情を把握している僕達が話しを始める。

 「では僕からよろしいでしょうか?」

 「頼む」

 「まずセーレですが彼は魔族でした。ことの初めはコントラクトの町に僕達が出向いた際、オークション会場で公王様と変装をしていたセーレをお見掛けしたのです。そこで公王様はイグドラシルの杖というものを購入し、オークションは終了しました。ですが、その夜、非合法に行われていた裏オークションで、ここにいるレジナさんの子供、シロップが誘拐されて売りに出されていることを知ったのです」

 「はい! はい! その時、私も居ました!」

 「公王様の前だ、大声を出すな!?」

 カクェールさんが手を上げて口を挟んできたティリアさんを押し黙らせ、僕は話を続ける。

 「彼女……ティリアさんも確かに裏オークション会場で売りに出されていて、その時に公王様とセーレが買い付けをしているところを見たのです」

 「なんと……まるで記憶に無い……」

 「お城の地下に奴隷を集める牢屋がありましたので、後で確認をお願いします。その後、シロップを救出しましたが、セーレの『モノを移動させる』能力で再びシロップが攫われたので、公王様とセーレを追って来たのです」

 「きゅんきゅん! おじさん怖かった!」

 「こら、おじさんだなんて言ったらだめだよ」

 口を尖らせているシロップにレジナさんが頭をぐりぐりするのを見て、公王様はがっくりと項垂れた。

 「構わない。それよりも子供まで買っていたとは……日付を見れば私の記憶から半年は過ぎている。色々迷惑をかけたであろうこと、すまなかった」

 公王様が立ち上がって頭を下げると、カクェールさんが慌てて声を上げた。

 「ま、まあ、こっちとしてはティリアを無事に取り返せたし気にしないでください! それじゃ俺達はこれで――」

 「待ってくださいカクェールさん。えっとですね、公王様……申し上げにくいのですが、ティリアさんを攫われて、ボク達も別の国から追いかけてきたんです。旅費とか、食事とかですね……」

 ルルカさんが出て行こうとしたカクェールさんの首根っこを掴まえて公王様に諸経費の話をしだした。

 「それは失礼だろルルカ!? ティリアがぼーっとしてなかったら良かったってのもあるんだし……」

 「私ぼーっとなんてしてませんよ!?」

 「シャラップ。目立ちたくないカクェールさんはしょぼい依頼をこなし、ティリアは大食い……ウチのパーティは火の車。交渉だけでもしないとボクとカクェールさんの結婚資金も無いんだから」

 「結婚するのは私です!」

 「お前等、恥ずかしいから外でやれよ! ……あ、すみません今出ていきますので」

 すると公王様はフッと笑い、

 「いや、そこのエルフを買ったのはセーレということになるなら、私の責任でもある。わずかだが後で報償をさせてくれ。なので話が終わるまでもう少しこの場にいてくれ。まだ、何かありそうだしな?」

 僕に目を向けると、今度はエリィとルビアが口を開く。

 「セーレのバックには大魔王の腹心の一人、冥王がついていました。公王様が倒れられた後、出現し戦闘にはいりました。ですが、申し訳ありません。セーレは冥王が回収し、逃げられてしまいました」

 「冥王だと……!? それはお前達聖職と勇者アレンが倒したのではなかったか?」

 「どういうわけか私達にも分かりませんが確かにあれは冥王でした。このスヴェン公国で何をするつもりだったのか知りたかったのですが」

 「大魔王が復活して、世界を手に入れようとしているのではないのか?」

 エリィがそういうと、公王様がもっともな意見を述べるが、ルビアがそれを否定する。

 「いえ、大魔王は間違いなく倒されています。冥王が生きていたこと、セーレの目的は不明のままなのです」

 「ふうむ」

 そこで僕は公王様へ聞きたかったことを訪ねる。

 「すみません、話を変えてしまいますが公王様はセーレといつ、どこで会い、側近にしたか覚えていますか?」

 「む? そういえば……いつだったか……」

 そう、セーレとはどこかで会うなりしなければ操られることも無かったはずなのだ。思い当たることが無いかと頭を抱え、やがてハッと気づく。

 「そうだ、あれは私が町にお忍びで散策をしていた時だ。大魔王が存命していた時は魔物が町にも被害をもたらしていた。そんな町の状況を見るため出向いていたのだが。ある日、一人の男……セーレが声をかけてきたのだ――」

 ――その時に持ちかけられた話はただ一言『あなたの望みを叶える』ということだったらしい。もちろんそんな笑い話みたいなことが信用できるわけもなく、公王様は少し難しいことを言ってみたとのこと。

 「町の防衛をもっとできないか、と。今でこそ高い城壁に弓矢が備えられているが、当時はそこまで城壁も高くなかったし、薄かったのだ。それを『かしこまりました』とだけ言って、二月ほどで完成させたのだ。これはギルドの人間も関わっているから聞いてくれてもいい。それに驚いた私は彼をブレーンとして傍に置いたというわけだ。私の記憶と半年ずれているから、それが一年くらい前のことだ」

 「最後に覚えていることは?」

 「その後、魔物からの防衛がうまくいくようになった後、広場の整備、トイレの整備と次々に新しいことを開発してくれた。最後は、そう……『準備が整いました』と不敵に笑ったセーレの顔だ。やはり私は騙されていたのだろう……」

 浮かない顔のまま目を瞑る公王様。話だけ聞けば国を豊かにしてくれる良い人物ということになるけど、奴隷を集めていたこととシロップ達を生贄にして何かをしようとしていたので騙されていた、というのは言いえて妙だ。

 「ありがとうございます。幸い、今のところ被害者は居ないようですがセーレが潜り込んだ期間、それと記憶がない間に何かあったかもしれないので調査をしていただけると」

 「うむ。間違いなく行うと約束しよう」

 「今後もセーレの手のものが来るかもしれませんし、冥王も気がかりです。油断はしない方がいいと思います」

 エリィが最後にそういって〆ると、公王様はありがとう、疲れたからまた来てくれと言って下がり、僕達も謁見の間を後にする。

 報償として受け取ったお金は、

 「うひょ!? こんなに入ってるのかよ!?」

 「やりましたね! これで結婚できるよボク達!」

 「美味しいものー!」

 と、カクェールさん達が変な声をあげるくらい入っており、後でギルドにも来てくれと喜びながら去って行く。

 これで一応の決着はついたかな? 後はレジナさん達を見送るか一度森まで送ろうか、そんなことを考えていると、レオバールが口を開いた――
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