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第七章:動き出す予兆
その137 実力伯仲
しおりを挟む「クロウ! アニスから離れないようにしてね! ネックスたちギルドのメンバーは負傷した騎士の手当てと、余裕があればそこの銀髪を相手して!」
あたしはルキルに突っ込みつつ、武具を装備しながら、すれ違いざまにオーダーを口にする。幸いなのは騎士達が敵にまわらなかったこと。ならば全力で聖職を叩きのめせばこの勝負は決まる。モラクスとかいうのは
「しょ、承知した! 俺とリーヴであの男を止めるぞ」
「ルビアさん、気を付けて!」
「クロウ君、私を負傷者のところへ!」
手を繋いだ二人がチラリと見え、あたしは無言で頷いて承知する。後数歩。それがルキルの顔面に拳がめり込む距離だ。
「はああああ!」
「他人を気にかけている余裕があるのかい! 《フレイム》」
ゴゥ!
ルキルの持つ杖から迸る火炎の渦があたしへ向かって飛んでくる! 魔力の強さは流石と言うべきか、ベルに比べれば数段上の威力がありそうな大きさだ。
「当たり前でしょ? あたしを誰だと思ってるの! ”風翔拳”!」
「炎を曲げた!? 《ウォータバレット》」
「チッ、やるじゃない! でも、このくらいなら強引に……!」
フレイムは風翔拳という技で、上向きに方向を変えて逸らす。本来は槍みたいな長物を使う相手に対し、遠当ての要領で使用する技だけど、こういう使い方もできるのだ。
ウォータバレットは数が多いものの威力は拡散されるので、あたしは腕をクロスさせ、ガードしながらルキルの顔面を狙う!
「もらった! 自慢の胸ととも沈めぇ!」
「やば……!? 《ウインド》」
咄嗟に放った風魔法であたしの足が一瞬鈍る。やることは変わらないと、そのまま拳を突き出すが、その一瞬は彼女にとって良い方へ向いた。
「元気のいいお嬢さんだ。あの方の復活に相応し――」
ドゴン!
「あ」
「あ」
ゴロゴロゴロ……
ルキルを庇おうとしたモラクスという銀髪の男がナルシストに目を瞑って割り込んできた。もちろん、それであたしの手が止まるはずもなく、不敵な笑みを浮かべた彼の顔にクリーンヒットした。そして為すすべもなく床を転がり、玉座に頭をぶつけて止まった。
「ふふ、やるじゃない。モラクスを一撃で葬るなんて、ね?」
「あんたこそ、連続で魔法を使う腕、聖職と認めざるを得ないわね」
攻防はいったん仕切り直しとなり、ルキルは素早く距離を取って不敵に笑う。あたし達が実力に不足なし睨み合っていると――
「死んでない!? もう少し心配してくれてもいいんじゃないかね!?」
でかいたんこぶをこさえたモラクスがむくりと起き上がり、叫んでいた。
「わたくしはいいから、そっちの冒険者共を何とかしなさいな」
「くっ……! 折角助けてやったと言うのにその言い草……!? ……む」
ザザっとネックス以下、数人の冒険者がモラクスを取り囲む。ま、このために単騎突撃をしたのだからそれくらいはやってもらわないとね。
クロウとアニスは二人で治療にあたっているのを見て一応、あたしの思惑である形にできたと満足する。あの頑丈さならモラクスは手ごわいはず。さっさとこの乳お化けを片づけてモラクスをとっ捕まえないと。
「”宴舞脚”!」
「速い!? 《ファイ――》」
姿勢を低くして前進し、魔法が放たれるよりも速く、右上段から回転しての中段、振り抜いて再び上段へ回し蹴りをする三連蹴りで肉薄する。
ガッ!
「痛ぅ……! 近いなら近いでやりようはあるのよ! 《ストーム》」
「きゃあ……!? この……! ”鋼牙”!」
至近距離で繰り出される中級風魔法があたしの身体を切り裂き、服と皮一枚が切り裂かれる。しかしウィンドと違って吹き飛ばすものではなかったので、拳を突き出した。
ブン!
ストームの影響は少なからずあったようで、惜しくも、ルキルの脇を空振りする。眉をピクピクさせて顔を歪めるルキルは当たったら無事では済まないことがよくわかったようだと判断する。
でも、直撃をしなかっただけでも幸運だろう。
「危な!? ――げほ!? 掠った!? くっ《ウォータバレット》!」
そう言って膝が崩れるルキル。杖を咄嗟に支えにして倒れるまではいかず、拘束しようとしたあたしへ魔法を放つ。
「今のは仕留められると思ったけど、なかなかどうして、しぶといじゃない?」
軽くステップしながらいつでも踏み込める状態を維持しつつ、脇腹を押さえているルキルへ投げかける。
「掠っただけでこの威力。ゴリラ女が……!」
「なんですってぇ! この牛女!」
ガツン!
「ぐっ……」
脇をかすめた一撃が効いているようで、あたしの攻撃を杖でなんとか打ち払うルキル。直後、後方へ下がっていたキラールへ声をかけた。
「お逃げなさい! 王妃と王子を盾にすれば攻撃の手が緩むはず! 居場所はキラール様しか知らない今しかありませんよ!」
「わ、わかった……! 任せるぞ!」
チッ、挑発であたしに目を向けさせていたつもりだったけど、存外冷静だったか。ならば、と、あたしはキラールを止める方を優先させるためルキルから目を離した。
「……と、こういえばそうするわよね、拳聖! 《エクス――》」
「え!? そんなことしたらキラールも巻き込――」
上級魔法を使おうとしたルキルに振り返ると、その矛先は――
「クロウ! アニス! 逃げて!?」
こともあろうに二人だった! 慌てて叫ぶと、
「アニス!」
クロウがアニスの前に立ち、庇う態勢になる。でも、エクスプロージョンの直撃は良くて手足の一本は吹き飛ばされる……!
かといってこの場からあたしに防ぐ手立ては――
「……ある! 何やってるかわからないけど、あんたに任せたわ!」
あたしはポケットから青いうさぎのメモ帳を取り出し、半分ほど切れ目を入れ、それを瞬時に丸めて力の限りクロウへ向かって投げた!
「《――プロージョン》! あはははは! 何を投げたかわからないけど、わたくしのエクスプロージョンが防げるはずがないわ!」
「……」
あたしは冷や汗をかきながらその時を待つ。
そして――
ズズズズ……
丸めたメモ帳から六芒星の陣が空中に描かれる。直後、黒い人影が浮かび上がってきた。よし、成功だわ!
「ん」
きゅうぅぅぅん……
現れた人影は左手を突き出すと、エクスプロージョンを吸収する。それを見たルキルが、目を見開いて驚いていた。
「な、何なの!? わ、わたくしの最大火力がこうもあっさり……!?」
それと同時に、クロウとアニスが叫ぶ。
「あ、あなたは!?」
「メ、メディナさん!?」
「うん」
そう頷くメディナの頬は、リスみたいにパンパンだった。
ごめん……食事中だったのね……
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