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第七章:動き出す予兆
その136 互いの思惑
しおりを挟む嵌められた、そう思ったものの、ここはことの成り行きを見守るしかない。逃げるにしてもクロとアニスを置いていけないし、キラールの目的が戦争であるならそれを止める必要がある。
いざ戦闘になった場合どう動くか、思考を巡らせていると、ネックスがゆっくりと口を開く。
「キラール殿にも思惑はあるのだろうが、それは国王の意思ではあるまい? そして貴族たちの望みでもない。戦争は諦めて貰えるだろうか?」
あたしを戦力として組み込んだネックスたちギルドのメンツは、ニコリともせずキラールへ問いかける。確かに交渉としては九割がたこちらに有利。おそらくあたしならここに居る騎士の半分を相手にしても負けることは無いし、クロウとアニスもネックスと一緒に来ている冒険者クラスに強いので、残りの援軍とやらが来るまで持ちこたえられれば問題ない。
――だけど、気になることは二つ。
あたしがキラールなら、『戦争の準備をしていることに気付かれないであろう』という呑気な考えはしないであろうということ。
もう一つは、その予想が立っていたのなら、なぜネックスたちをここに招き入れたのか、だ。
「返答を願いたい。それと国王の容態、それと王妃と王子に会わせてもらおう」
すると、冷や汗をかいていたキラールはフッと笑みをこぼす。
「フ、フフフ……フアハハ……」
「なにがおかしい!」
冒険者のひとりが激高すると、キラールは話し始めた。
「ふう……いや、なに。こちらの思惑が上手く嵌ったのが面白いと思っただけだ。まさか聖職を連れてくるとは思わなかったから焦ったがな。で、なんだったか? 戦争を止めろ、か? 答えは……ノーだ」
「キラール殿! 確かにハイラル王国は他の国より領土は大きい。だが、他国に攻め入っているあいだに別の国から侵攻されやすい土地でもある。そんなことで領民を危険に晒してまで領土を広げる必要はない!」
「いいや、できる。……国王が、グレンデルが倒れる直前。私の前に、自分を予言者だと名乗る男が現れた。その男が言うには、国王はもうじき亡くなると告げた。その後継ぎを私が担い、世界の半分を手に入れることができるだろうとも言ったのだ」
陶酔している表情でそんなことを言いだすキラール。訝しんだあたしは、キラールへと尋ねることにした。
「そんな予言を信じちゃったわけ? ずいぶん頭がお花畑じゃない。それに国王はあなたが毒でも盛ったんじゃないの?」
「いいや。私は自領地に居る時に容態の急変を知らされた。信じてはもらえんだろうが、私は国王に対して何もしてはおらんよ? だからこそ……予言を信じる気になったのだ」
「チッ、キラール殿、あんたを操り人形にして何かをさせるつもりかもしれんのだぞ。そんな怪しい奴のことを信じるというか!」
ネックスの言葉に、目をカッと見開き、キラールは激高する。
「黙れ! 少し生まれが遅かっただけで我が父は国王になれなかったのだ! 能力は父の方が上だというのに、兄だというだけで国王になった! 父の悲願を果たすのは今なのだ……! 騎士どもよ、何をしている。早く捕えぬか!」
キラールが騎士達に命ずるも、騎士達は困惑し、互いの顔を見合わせてざわざわと言い合っている。まあ、無理もないわね。主君は国王であってキラールではないのだし。やがて騎士のひとりが前へ出て口を開く。
「キ、キラール様……その、お言葉ですが戦争はさすがにやりすぎです。それに国王の後継ぎは王子がいます。あなたが王位を継ぐことはないでしょう!」
「うるさい! 王妃も王子も幽閉した、この国は……私のものだ……!」
「くっ……逆賊め……捕らえるのは冒険者ではない、キラールだ! 俺に続け!」
「待て、迂闊に近づくな!」
正体を現したキラールに騎士達が吠えて取り囲み、あたしは戦わずにすんだかと安堵する。しかし、ネックスが慌てて騎士達に注意するよう促していた。
「ネックス、まだ何か気になることがあるの?」
あたしが背中に尋ねると、キラールから目を離さず返してくる。
「……俺がなぜあんたを……聖職をここに連れて来たかわかるか?」
「わかるわけないじゃない。こっちは騙された形だしいい迷惑よ。ここまでくれば目的は果たせたでしょ? あたし達は戻るわ」
「それは――」
あたしが踵を返し、ネックスが何かを言いかけた瞬間――
「《エクスプロード》」
ゴッ……!
「うわあああ!?」
「ぐあああ!?」
上級の火魔法が取り囲んでいる騎士達の足元で爆発し、数人が吹き飛ばされた!
「な!? ど、どこから!?」
クロウが驚愕の声をあげると、いつの間に現れたのか、スッと銀髪の男と、オレンジの髪をした女がキラールの近くに立っていた。
「おお、モラクスにルキル! 今の魔法はルキスか? 助かったぞ。こやつら、私の邪魔をしにきたらしい。騎士共も役に立たん。お前達が頼りだ!」
すると、ルキルと呼ばれた女がニヤリと口を歪めて杖を翳す。
「うふふ、ご安心を。キラール様の敵は、”魔聖”のわたくしめが始末して差し上げますわ。モラクス、あなたも戦えるのでしょう?」
「当然。生贄は多い方がいい……」
!? ちょっと待って、あの女なんて言った!?
「そこの乳でかおばさん! あんた、魔聖って言った? まさか聖職が戦争幇助しているの!」
「乳で……!? お、おば……!? 小娘が口に聞き方に気を付けな! ……というか、お前、拳聖のルビアじゃないか? こんなところで会何をしているのかしら? 貧乳さん?」
「貧にゅ……!? あたしを知っているなら話が早いわ。聖職なら戦争に加担なんて止めなさい」
「ふん、力を示して何が悪いというの? あなたもその力で大魔王を倒し、報酬を得たのでしょう? わたくしはキラール様に雇われて金を稼いでいるだけ……戦争幇助だなんてとんでもない! おーっほっほっほ!」
ものは言いようね……! 聖職がなにかの制限を付けられているわけじゃないから、誰に雇われて、何をするのも自由。だけど、悪事は許されない。そしてそれが知られた場合のペナルティは当然ある。
同じ聖職のあたしを目の前にしてこの物言いということはよほど自信があるのだと思う。そして、ネックスがあたしをだまし討ち同然でここへ連れてきたことの意味がようやくわかった。
「ネックス、あんたこいつがここにいることを知っていたのね?」
「……ああ。調査の段階でわかっていた」
「なら、どうしてそれをあたしに言わなかったの? それならエリィを待っても良かったし、あたしの仲間がいればもっと楽だったのに……!」
「俺だって、まさか賢聖を連れていないとは思っていなかったさ。計画を話せば恐らく待つだろうとも思った。だが、今更計画を止めるわけにはいかなかったんだよ……王子と王妃の行方がどうしてもわからなかったからな……」
それであたしだけでもと連れてきたわけか。どちらにせよ、その判断は失敗だ。魔聖ならあたしだけでもなんとかなると思うけど、問題は横の男……あいつは、強い。二人同時はさすがに手に余るかもしれない。クロウに相手をさせるにも荷が重い。
「あら? 怖気づいちゃった? 貧乳の小娘?」
「はあ? 乳が垂れ下がっているおばさんが何言ってるのかしら?」
「……」
「……」
あたしとクソおばさんの目がかち合う。
「ちょ、ルビアさん……落ち着いて」
「貧乳」
「乳おばけ」
「田舎臭い小娘が囀るわね」
「なあにおばさん? 若いあたしに嫉妬?」
「「……とりあえずぶちのめす……!!」」
あたしはルキルに向かって駆けだした!
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