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第八章:動乱の故郷
その141 一つの終わり
しおりを挟む無事ルビアと合流を果たし、お互いの情報を交換。驚くべき点としてはやはり″旅の男”のことだと思う。五十年という歳月を考えると同一人物とは言い難い。だけど国を戦争に導こうとしているという共通点は偶然だとは思えない。
「それで、王妃様の依頼を受けたんだね」
「ええ。レオスは嫌がるかと思ったけど、メディナの話を聞いていたからもしかすると情報が欲しいかもって思ったのよ」
「大丈夫だよ。ルビアは国王様の呪いを何とかしたいと思ったんでしょ? エスカラーチの話が無くても尊重するよ。バス子が元の世界に戻るための手がかりでもあるし、気にしないで」
「ありがと。国王様のこともあるけど、色々とね。さ、後はギルドに行って謝礼を貰ったらこの町を出発できるわよ」
「ルビアらしいわね。もう何もないといいけど……」
エリィの呟きに苦笑しつつ、僕達は宿を後にしギルドへと向かう。そのまま町を出られるようにするため、馬車でゆっくりと町中を進んでいく。
「それにしても大きい卵ね……」
「アースドラゴンの卵らしいですよ。孵化が楽しみですね!」
「あの誘拐犯が居たのも驚きだけど」
「らしいですね。小物感が凄かったですから、もう悪さはしないんじゃないかと思いました」
荷台ではルビアがシロップを誘拐した男から買ったというドラゴンの卵を見ながら、ベルゼラがアニスとクロウを交えて話していた。
一応、テイマー屋さんが言うには本物らしいと二人が言っていたから僕も内心わくわくしていたりする。岩みたいな硬さの殻はハンマーで殴ったくらいでは壊れないと思う。
「テイマー屋さんの図鑑によると、アースドラゴンの卵は埋めて孵化させるらしいですよ」
「へえ、よく見てたわねクロウ。あたし、そういうの見てなかったわ」
「おねえちゃんはあの誘拐犯と話してたしね」
「炎の精霊に続いてアースドラゴンを拾ったし、ルビアはこのまま四属性のお供を拾うのかもしれないわね!」
「う、何となく当たりそうで嫌ね……。ねえ、エリィ、孵化したら貰ってよ。お金はいいから」
「買ったのはルビアなんだから責任持った方がいいんじゃないかしら?」
「エリィが冷たい!? じゃあレオスに押し付けるわ」
などと、勝手なことを言うルビアの言葉に耳を傾けているとギルドへと到着。裏手の広場に馬車を止めて、僕達はギルドへと入っていく。
「あ、拳聖さん、いらっしゃい! ……というかめちゃくちゃ遅いですね……」
「この前はどうも。ネックスさんは?」
「こちらへ」
ルビアについて歩いていき、ギルドマスターの部屋へ通された。目の前にはワカメみたいな髪をした男性がすでに座っており、僕達の姿を確認すると立ち上がって口を開く。若干、顔が引きつっている気がするのは気のせいか? 見れば隣には笑いをこらえている、同じくギルドマスターのフェネクさんもいた。
「……昨日は世話になったな。し、しかし、どうして昨日来なかったのだ……!」
あ、気のせいじゃなかった。そるとルビアがソファに座りながら言う。
「だって、そっちはあたし達を騙し討ちしたのよ? 実質戦ったのはあたしで疲れてたし。後は報酬を受け取るだけだから急ぐ必要もないでしょ?」
合流した時にルビアから聞いた話だと、元々国王代理のキラールとかいう人を糾弾するつもりで登城したらしい。それにルビアが巻き込まれた形だとかなんとか。そりゃルビアが怒るのも無理はないと思う。
「ぐ……」
「俺達の負けだネックス。昨日のことは他のギルドマスターや領主に代わり謝罪する。すまなかった」
そう言って頭を下げるギルドマスター二人。
「ま、国を想ってのことだからもういいけどね。それで、報酬を貰えるかしら?」
「これだ」
「……白金貨、多くない? 十枚だったはずだけど?」
「少し色をつけさせてもらった。それ込みで手打ちにしてもらえると助かる」
「オッケー。交渉成立ね」
そう言ってウインクし、貰った革袋を懐にしまうルビア。ネックスさんは頷いてから話を続ける。
「そう言えば昨日、また城へ行っていたが何だったのだ?」
「ちょっと野暮用よ。ね、レオス?」
「あ、うん」
急に声をかけられて生返事をする僕。そこにフェネクさんが挟んできた。
「何か頼み事でもされたか? ついでと言っちゃなんだがレオス。もう一つ頼まれてくれないか?」
「? なんですか?」
「馬鹿、聞くんじゃないわよ。どうせまた面倒ごとよ」
「まあまあ、ルビア。聞いてから返事をしても遅くないわ」
「わお、何気に黒いわねエリィ」
「……続けていいか? とりあえずキラールは捕らえたが、国王様の呪いは解けていない。そっちの子が言ったように、呪いを解くには術者を、という話であれば旅の男を探す必要があるそこで――」
「僕達が見つけたら教えて欲しい、ってところですか?」
言い終わる前に僕が言うと、フェネクさんは口笛を吹いてニヤリと笑う。
「話が早くて助かるぜ。リーダーってのは伊達じゃないな? そう、その通りだ。聖職二人に、そっちの黒い子、そして……あれ? 一人足りなくね?」
あ、そういえば依頼を受けた時はバス子いたんだった。
「一人、別行動をしてるんです」
「そうか。まあ、そんなわけでお前達なら実力も高いから捕縛もできそうだし、見かけたらよろしく頼むって言いたかったんだ」
「……僕達も追っていると言えばそうなので、協力はしますよ」
バス子の件が無ければ無理して関わるつもりはないけどね。問題はその男がどういう風貌をしているかがわからないので、確実なことは言えないが現状だったりする。僕がそんなことを考えていると、ネックスさんが僕を見る。
「何かあれば、頼む。国王様はまだお若い。王妃様も有能だが、王子のことを考えると国王様をこのままにしておくわけにはいかんのだ」
「わかりました。逆に、あなた方が情報を掴んだ場合、情報提供をしてくれると助かります」
「ああ。なんとかギルド経由で伝えられるよう考えておく。次は……ラーヴァへ行くのか?」
「はい。僕の故郷なんです」
「そうか。気を付けてな。ルビア殿、世話になったな」
「いいわよ。クロウとアニスも無事だったし、不可抗力ってことにしておくわ」
ルビアがそう言うと、助かると一言呟き、僕達は退室する。馬車を歩かせ始めたところで、僕はルビアへ尋ねた。
「王妃様の件、言わなくても良かったの?」
「ええ。ギルドには協力を得られればそれでいいわ。下手に書状を持っている、なんて言ったらまた何か言われそうだしね」
ルビアがため息を吐いてそう言うと、エリィが頷いて賛同する。
「それはあるかもしれないわね。下手にギルド経由でそれが伝わると、行く先々のギルドで頼りにされる可能性が高いもの」
それでも、私達が聖職だと知られればその限りではないけどね、と続けてエリィは笑う。着地点は同じなんだけど、行きつくまでの道をわざわざ遠回りする必要はないと僕も思う。
「そもそも旅の男が見つかるかわからない。気楽にいこう」
と、メディナが僕の横で急にポツリと言い、一瞬目を丸くする僕達。でも、その言葉を反芻し、どっと笑いがこみ上げてきた。
「ま、まあ、メディナの言う通りよね! どんなやつかもわからないんだし、気を張っても仕方ないわよね」
「うーん、メディナさんは考えているのか適当なのかわからないな……」
「いいじゃないクロウ君。だから居心地がいいんだと思うし。カクェールさんも結構適当でしょ?」
「ま、まあね……。聞いたら怒るよ……」
「あれ? カクェールさんを知ってるの? 僕達――」
と、和やかな雰囲気になり、僕達は食材を買ってハイラルの城下町を後にするのだった。ラーヴァの国境まではまだもう少しかかる。でも、ようやく故郷の土を踏めそうだと、僕は少しだけ嬉しくなった。
――あれ? そういえばクロウとアニス、どこまで付いてくるんだろう……?
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