前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
154 / 196
第八章:動乱の故郷

その147 フェロシティという”欲望”

しおりを挟む
 

 「で、こいつはなんなの? レオスの影から出てきたみたいだけど」

 「結構イケメンだよね? えっちみたいだけど」

 メディナとバス子にボロクソにされているフェロシティを見ながらルビアとベルゼラが僕に聞いてくる。とりあえず僕にダメージは無いのでフェロシティは放っておき、説明をする。

 「あれは僕が悪神時代だった時に使役していた……まあ、分身みたいなものなんだ。両手足にそれぞれ属性と共に宿っていてね、あいつはフェロシティと言って左腕に宿る土属性の能力を持っている」

 「分身、にしてはなんかチャラい感じがするわね。レオスさんって冷静な感じなのに」

 ベルゼラが首を傾げると、エリィが苦笑しながら肩に手を乗せて言う。

 「レオスはああ見えてエッチなのよ。レオスの分身って、無意識から生まれた存在で、それぞれ色々な感情を表しているの」

 「……エリィに言われるのは複雑だけど、フェロシティは”欲望”なんだ。ルビアやクロウは見ていないけど、デバステーターっていう火を属性とした”闘争”の感情を表した右腕が覚醒してるね」

 「足は?」

 「覚醒していないよ。あえて『まだ』、とは言わないけどね。足は比較的おとなしいけどさ」

 左足は特にそうだけど、できるならそのまま寝て居て欲しい。それにしてもなんでこいつなんだろうと思いながら、そろそろ止めないと消滅しそうなフェロシティに近づいていく。

 【お、おお……主……私が死にかけるとはなにごとか……】

 「それは僕のセリフだけどね? デバスは危ないところを助けてくれたけど、お前は何しに出てきたんだ?」

 僕がそういうと、ずぶずぶと土の中に溶けていき、しゃっきっとした格好に戻ったフェロシティが僕の前で膝魔づいて答える。

 【アースドラゴンと言えば土! 土と言えば私! そして土壁を作るなら私しかいないではありませんか!】

 「ああ、そういう……?」

 割とどうでもいい理由だった。単に目立ちたいだけ……まあ、欲望が具現化しているから仕方ないといえばそうか……

 「む、復活が早い」

 「もう一回ボコれるボーナスゲームと思えばいいじゃないですか!」

 「あー、フェロシティは体が土くれだからコアが壊れない限り何度でも復活するし、基本的なダメージは与えられないから時間の無駄だよ。それよりドラゴンの卵を埋める手伝いをしてよ」

 【お安い御用!】

 立ち上がったフェロシティはすぐに穴を掘り、卵のてっぺんだけが見える状態で埋めた。そこで満足げに語り出す。

 【なかなか良い卵ですね。生命力を感じますよ! 恐らく立派なドラゴンが産まれるかと】

 「わかるんですか?」

 【ええ、伊達に土を冠する四肢ではありませんよ。それでは主、どうやら土壁周辺に魔物が集まってきたようですので、迎撃行動に移ります】

 「いいかい? 結構追われてたからみんな疲れているし、頼むよ」

 【ハハハハハ! 疲れ知らずの私にお任せあれぇぇぇ! ……その前に】

 もにゅん

 「!? この!」

 【ぐは!? ……フフフ、ごきげんよう】

 瞬時に影を伝ってルビアの胸に触り、土と同化して消えた。我ながら酷い分身もあったものだ……

 「粉々にしたのに……! あの能力、エッチなことやりたい放題じゃない!」

 「速攻で、殺す気つもりの拳を出したのはさすがだ……でもコアが壊れないと本当に不死身なんだね。あいつがいれば無敵じゃない?」

 「ま、言うほど無敵でも無いんだよね。……そういえば、あいつが前世でやられたのは白い髪をした女の子だったっけ。メディナに雰囲気は似ていたかな」

 「嬉しくない」

 「まあまあ。ほら、卵に水をかけましょう? 陽の光を浴びせるんだったわよね」

 「三日間ね! 《アクア》!」

 エリィの言葉で、ベルゼラの水魔法が卵にちょろちょろとかかり、じわっと蒸気があがる。すると――

 ギシャァァァァ!?
 
 グオォォォ!?

 ザシュ! ブシュ! という生々しい音が外から聞こえてきた。もう戦闘が始まっているらしい。まあ、本当に疲れ知らずだし、空からくる魔物にだけ警戒していればいいのはとても助かる。

 クリエイトアースで家を数件建て、中央に焚火を作っていると、段々陽が落ちてきて暗くなっていく。夕飯も食べ、各々家へ入っていき、僕が焚火の前に座っているとエリィが隣に座った。

 「ふふ、みんな疲れていたからすぐ眠ったわね」

 「そうだね。エリィは疲れてない?」

 「私も結構魔力を使ったから、多分明日はなかなか起きないかも」

 僕はちょうどいいかと聞きたかったことをエリィへ尋ねた。

 「記憶が戻ったけど、今はどう思っている?」

 「どう、かあ。正直なところ、私は嬉しかったよ。この世界に来るとき、全部の記憶は無くなって、もう会うことも無いと思ってたから。ソレイユ様がレオスの暴走を食い止めるため、仕方なくとはいえこうして一緒にいられるのは本当に奇跡」

 「うん……。あの時守れなかったのは本当に悔しくてあんなことになっちゃったけど、今度こそ僕が守るよ」

 「ふふ、大丈夫! 今の私は賢聖でもあるのよ、もし何かあってもなんとかするわ!」

 ぐっと拳を握り、ウインクしてくる。それを見て僕は噴き出し、口を開く。

 「あはは! それもそうだね! ……正直なところ、バス子達を元の世界に戻すことは力になりたいけど、世界のことはなるべく関わりたくないんだよね。振り払う火の粉は払うけど、僕は正義の味方ってわけじゃない。みんなと楽しく過ごせたら、それだけでいいんだよね」

 「それはそれでいいのかもしれないわ。私達は力があっても、それを振りかざす必要はないもの。悪人がいれば私は懲らしめちゃうかもしれないけどね」

 そう言って笑うエリィ。

 結局、旅の男もバス子のため、という個人的な目的で追っているだけなのだ。もし見つからないなら、見つかるまでバイトとして雇うのも面白いかもしれない。
 
 「大魔王もいい人だったし、悪魔達もバアルって人のことで荒れているだけだから話は聞いてくれそうだよね。憂いはキラールが会ったという旅の男だけか……何とか今世はまっとうに生きれそうだよ……」

 「そうね♪ さっさと聖職を誰かになってもらって、お店をやりたいわ。前世ではかなわなかったけど、今世こそはレオス、あなたと、ね」

 「それは……もちろんだよ。絶対幸せにする」

 揺れる焚火の中で、僕達は今世で初めて口づけをかわすのだった――
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...