前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第八章:動乱の故郷

その148 和やかなひと時

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 ――レオスとエリィが焚火の前で話をしているころ、その様子を遠くから見ている人影があった。


 「くっ……レオスさんとエリィ、いい雰囲気で……あ、あ、キスした!? なんでエリィばっかり!」

 「ぐ……苦しい!? お嬢様! 落ち着いてください!?」

 「大丈夫、いつか私達もああなる」

 「なるんですか……?」

 「レオス次第じゃない? ベルゼラと結婚すれば一夫多妻は解決するし」

 と、クロウを除いた女性陣全員が成り行きを見守っていたのだ。興奮状態のベルゼラがバス子の首を絞めているのをやんわり解放しながらルビアがそんなことを言う。するとバス子の首から手は離さず、ベルゼラが口を開く。
 
 「……でも、前世からの恋人でふたりとも記憶を取り戻したでしょ? もう私達の割り込む余地はないのかなって……」

 「あ、あの、首から手を離してもらえませんかね……? というより甘いですよ、お嬢様! 奪い取ってやるくらいの勢いがなくてどうするんですか!」

 「既成事実、というのもある」

 「嫌なこと言わない最年長。まあ、なるようにしかならないわよ? アプローチは続けた方がいいと思うわ。あたしの元彼氏のアレンみたいじゃないからねレオスは」

 「むう……」

 「お父様とお母様に会うの楽しみ」

 「レオスは記憶を取り戻す前、気弱だったしご両親も優しいんじゃないかしらね? さ、それより寝るわよ。三日あるけどその後はお城なんだし」

 【そうしましょう。いやあ、添い寝がよりどりみどりだなんて主は羨ましいですねえ】

 「きゃあああああ!」

 「こいつ……!」

 ベルゼラの背後に急に現れたフェロシティの頭を槍で粉砕すると、フェロシティは粉々になって地面へと返っていく。

 【フフフ、またお会いしましょう!】

 「追いますよメディナさん!」

 「うん。石膏像にしてやる」

 そう言ってふたりが飛び出していく。

 「……バス子達に任せて寝ましょうか……」

 「そ、そうね……」

 「すやすや……クロウ君、好きぃ……」

 「うう、いいわねえアニスは……」

 ベルゼラとルビアはアニスに毛布をかけたあと、レオスの作った簡易ベッドに横になる。ベルゼラは、

 「前世かあ……凄く長い時間、色々あっただろうに絆が切れなかったのは羨ましいな。エリィ、羨ましいかも」

 そう呟いて目を閉じると――

 『大丈夫ですよ。貴女もしかるべき時が来れば、必ず――』

 「誰……? 何だか聞き覚えが……ある、ような……」

 謎の声を聞きながらベルゼラは意識を手放すのだった。


 ◆ ◇ ◆


 <明曜の日>


 卵孵化作戦一日目

 僕は早速水魔法で卵に水をやり、太陽に照らす。

 カタ……

 「今動いたかな?」

 何となく卵のてっぺんが揺れたような気がする。まあ、慌てることは無いとみんなが起き出してくる前に馬車の荷台を展開し朝食を作る。
 結局お店として使ったのはたったの一回という改造馬車を勿体なく眺めながら起き出してくるのを待つ。
 
 ――よく考えると最初のギルド試験からすでに間違った道、というより『力を使うこと』を行使されているんじゃないかな、というくらい騒動に巻き込まれている。それでも冒険者になっていなければ領主様が悪魔に取って代わられていたと思うし、スヴェン公国も、ハイラル王国も戦争を始めていたかも、と考えれば、良かったと思うんだけどね。

 「昔の僕みたいに、特定の人物を狙って仕掛けていているわけじゃないんだよね、旅の男。もし、仮に僕の力と正体を知っていて、僕に何かをさせたいなら好都合なんだけど」

 パチッ

 僕の呟くに呼応するかのように、焚火が爆ぜる。直後、一斉にみんなが起き出してきたので、朝食を用意し賑やかな食事が始まった。

 「あのクソ眼鏡、するすると逃げるんですよ! エロスさん、いや、レオスさん! 弱点とかないんですか!」

 「はは、まあ外の防衛をしてくれているから勘弁してあげてよ。むしろ構うと調子に乗るから放置くらいがいいと思うよ」

 外壁の向こうから聞こえる爆音や魔物の悲鳴に目を向けながらバス子に言う。そこへクロウが僕へ話しかけてくる。
 
 「食事が終わったら一勝負頼むよ! どうせ暇だしいいだろ?」

 「あ、うん……」

 気が乗らない提案に生返事をしつつ、僕はクロウと模擬戦を行う。ハンデとして魔法を無しにして、木剣のみにしたところ、クロウは以前より耐久できていた。元々センスがあるのか、物理攻撃に対する反射神経は鋭いものがあり、懐に飛び込まれそうになることもそれなりにあった。

 「くそう! これで魔法があったら絶対勝てない……もっと速く? いや、フェイントを……ルビアさんお願いします!」

 「元気ねえ。いいわよ、休憩したら勝負してあげる」

 「はい!」

 「ふふー《ヒール》っと」

 アニスに回復してもらい、水を飲むクロウを尻目に、僕は適当に作った椅子に腰かける。

 「お疲れ様」

 「ありがとう。バス子とメディナは?」

 「相変わらずフェロシティを追っているわ。構うなっていったのにね。後でレビテーションの練習したいんだけどいいかな? ベルも付き合ってくれるって」

 今度はエリィと空を飛ぶ訓練をし、その日は何事ともなく終了。

 
 卵孵化作戦二日目


 「今日は外の魔物を引き入れて戦闘訓練をしよう。主にクロウのために」

 「あ、ああ……」

 昨日と同じ調子でクロウが僕に挑んできたので、流石にそれは面倒だと思い提案する。フェロシティが選別し、魔物を一匹だけ通す、みたいなことが可能なので問題ないだろう。最悪全員でかかれば倒せない相手ではない。

 「フェロ、食べられそうなやつで、強そうなのがいいかな」

 【フフフ、承りました主! ……では、最初の対戦相手はこちら!】
 
 魔物の大きさに合わせた通路が出来上がり、そこから突撃してくる魔物。

 「クレイジーゴート……!?」

 「ちょっと強そうだけど、わたしの補助魔法と回復魔法で勝てるわ!」

 クロウが一瞬怯むが、アニスが笑顔でそういい、実際それほど労せず倒すことができていた。

 「レオスやルビアさんに比べれば遅いかったな……」

 【では次!】

 今度はアイアンベアという毛がとても硬い熊型の魔物だ。流石にリーチ差もあって苦戦していた。で、三体目はパライズスパイダー。

 「んん……?」

 少し倒したところで僕はなんだかおかしいなと思い、レビテーションで空を飛んで群がる魔物達を観察する。

 「……」

 やはり、おかしい。

 ただ、その中でも『正常』な事象もあるので僕の勘違いであればいいなと思いながら倒した魔物を解体し料理へと変えていく。

 「おいしい」

 メディナが大変ご満悦だった。

 そして三日目。

 待望のアースドラゴンが――
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