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第八章:動乱の故郷
その149 おいでませ!
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<火曜の日>
卵孵化作戦三日目
魔物を引き入れて訓練と食材の確保を行った二日目も終わり、いよいよ孵化予定の三日目を迎えた。今日ばかりはバス子やメディナもフェロシティを追いかけまわすことはなく、アースドラゴンの卵に興味が移っていた。
「楽しみ」
「メディナは可愛いもの好きだけど、ドラゴンってトカゲとかに近いし、赤ちゃんって可愛いのかしら?」
「確かにおねえちゃんがいうように、小さいトカゲって考えたらわたしはちょっとアレかなー……」
アニスがあははと笑い、エリィもそれに便乗する。
「確かにそう言われるとちょっといやかも」
「見てのお楽しみってことでいいんじゃない?」
僕が最後の水をかけて様子を見ていると、卵のてっぺんががたがたと震えだす。もう少しで孵化しそうな感じで、図鑑とやらは結構正確な情報を載せていたんだなと感心する。
それと同時に、僕はルビアへ尋ねた。
「このドラゴン、産まれたらルビアが育てるってことでいいのかな? だとしたらこっちに来ておいたほうがよくない?」
「別に誰が育てても、というよりみんなで育てればいいんじゃない?」
「お金を出したのルビアなのに……」
「まだお金はあるし、誘拐犯にお金を渡すのが目的だったからアースドラゴンには興味ないからね」
「姐さん、リッチですねえ。ではわたしが丹精に育てて売りに出しましょう! 白金貨百枚はくだらないはず……!」
すると目を光らせたメディナがバス子の後頭部をポカリと叩いた。
「痛っ!? いきなり何をするんですか!」
「ペットは最後まで飼う」
ぷう、と頬を膨らませたメディナが本気で怒っていた。そんなことをやいやいしながら昨日の疲れを癒していると、フェロシティが僕の影からぬるりと出てきて頭を下げながら口を開く。
【主、あの卵そろそろ孵化いたしますよ】
「あ、本当に? みんな、いよいよ誕生するみたいだよ」
フェロシティの声が聞こえていたのか、女性陣は慌ただしく卵の下まで走って行く。
「やっぱりこういうのは男女関係なく好きなのかな? アニスもなんだかんだで様子を見に行ってるしね」
僕がそういうとクロウが返してくる。
「まあアニスも好奇心の方が強いからね。さ、僕達も行こう、楽しみなんだよ実は」
「そうだね!」
僕達も近づき、エリィ達の後ろから様子を伺うと――
ピシピシ……
「あ! ヒビが入った!」
「わくわく」
ベルゼラとメディナが興奮して喋っている通り、少しずつ卵にヒビが入っていく。
ビシビシ……
「……? なんか様子がおかしくない? ヒビは入るけど出てこないんだけど……」
【ああ、もしかすると殻が固すぎて破れないのかもしれませんね。こういう時は親が割ってあげるはずですよ? ちなみに割れなかったら力尽きて死にますね! ははは!】
「ははは、じゃないよ!?」
ドンドン! グラグラ……
中々破れないのか、卵の先が叩かれるもだんだん弱々しく……ま、まずいよ!?
僕はセブン・デイズを鞘のまま卵に叩きつけた!
「やああ!」
ガツン! と、卵のてっぺんを殴ると、べきっという音共に破片がいくつか飛んでいく。さらに打ち付けると――
「ピィ!」
ひょこっと、つぶらな瞳をして一本角のちょっと大きめのトカゲのようなドラゴンが顔を出した! うわあ、かわいいかも!
「ピピィ♪」
アースドラゴンはポン、と卵から出ると、僕と目が合い、
「ピィー♪:
何とも言えない声で鳴きながら足元でぐるぐる回り始める。アースドラゴンだからか羽は無く、角もまだまだ小さい。鱗もまったく硬くないし、ほんのり産毛も生えている。
「ヤバイ、可愛いじゃない! ええ、ドラゴンの赤ちゃんってこんな目をしてるの? だいたい目つきが怖いのに」
「おいで、もちきんちゃく」
「もしかしてそれ名前ですかメディナさん!? センス無さすぎでしょう!?」
ルビアはこういう『可愛い』もアリなようで、しゃがみこんでじっと動きを見つめていた。メディナは掴みかからんばかりの勢いだが、バス子がそれを察してか羽交い絞めにしている。
「でも本当にかわいいですねー」
アニスも目を細めてみており、アースドラゴンはみんなに構って貰えて嬉しいのかぴょんぴょん跳ねまわっている。すると僕の足に掴まってよじ登ろうとしたので、撫でてやろうとしゃがんでみると、
「ピィ―♪」
「あら、気にいったみたいね」
「えー……」
腕をうまく伝い、僕の頭に鎮座した。アースドラゴンは大喜びだ。
「あ、でもこれなら踏まなくていいかもしれないわ。よろしくね~♪」
「ピィ~♪」
「ふふ、人懐っこくてかわいいわね!」
ベルゼラが小さい手を摘まんで握手すると、やはり嬉しそうに鳴く。こいつは人見知りしない子のようだ。エリィもにこにこと、僕の頭でごろごろするアースドラゴンの背中を撫でた。
みんなが僕の周りで、アースドラゴンを愛でている中、フェロシティが卵の殻を拾ってじっと見ていることに気付く。
【……】
「フェロ、どうしたの?」
【……ハッ!? いえ、随分硬い殻だと思いましてね? (後で主にお話があります)】
「(わかったよ)」
フェロシティが珍しく神妙な声で僕の頭に直接話しかけてくると、卵の殻を自身の影に回収し始める。
それからしばらくアースドラゴンを愛でていると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
もちろん天気ではなく……
「もちきんちゃく」
「そんな名前はダメよ、あーちゃんってどう!」
「お嬢様、安易すぎ……」
「ならあんたは何てつけるのよバス子」
「成長を見越して”ファング”ちゃんってどうですかね!」
「あんたも安易だけど、悪くないわね。やっぱりドラゴンならカッコいいやつよね! ”ブラッディ”なんてどう!」
「いや、凶悪すぎるでしょう……」
と、アースドラゴンの名前について揉め始めた。といってもエリィやアニス、僕とクロウは参加せず、主にルビアやバス子、メディナにベルゼラである。
「ま、まあ産まれたばかりだし、道中で考えようよ。城に行かないといけないし、そろそろ出発しよう」
僕の言葉で仕方なくといった感じでみんなが馬車に乗り込む。
「それじゃ、フェロお願い。僕が一気に蹴散らすよ」
【……いえ、その必要はありませんよ。行きましょう、主】
「え?」
フェロシティが穴を開けると、そこには魔物がまったくいなかった。
「倒してくれたの?」
【いえ。では後程……】
そういって影の中へと消えていくフェロシティ。なんだろうと思いながら、僕達は採掘場を後にするのだった。
卵孵化作戦三日目
魔物を引き入れて訓練と食材の確保を行った二日目も終わり、いよいよ孵化予定の三日目を迎えた。今日ばかりはバス子やメディナもフェロシティを追いかけまわすことはなく、アースドラゴンの卵に興味が移っていた。
「楽しみ」
「メディナは可愛いもの好きだけど、ドラゴンってトカゲとかに近いし、赤ちゃんって可愛いのかしら?」
「確かにおねえちゃんがいうように、小さいトカゲって考えたらわたしはちょっとアレかなー……」
アニスがあははと笑い、エリィもそれに便乗する。
「確かにそう言われるとちょっといやかも」
「見てのお楽しみってことでいいんじゃない?」
僕が最後の水をかけて様子を見ていると、卵のてっぺんががたがたと震えだす。もう少しで孵化しそうな感じで、図鑑とやらは結構正確な情報を載せていたんだなと感心する。
それと同時に、僕はルビアへ尋ねた。
「このドラゴン、産まれたらルビアが育てるってことでいいのかな? だとしたらこっちに来ておいたほうがよくない?」
「別に誰が育てても、というよりみんなで育てればいいんじゃない?」
「お金を出したのルビアなのに……」
「まだお金はあるし、誘拐犯にお金を渡すのが目的だったからアースドラゴンには興味ないからね」
「姐さん、リッチですねえ。ではわたしが丹精に育てて売りに出しましょう! 白金貨百枚はくだらないはず……!」
すると目を光らせたメディナがバス子の後頭部をポカリと叩いた。
「痛っ!? いきなり何をするんですか!」
「ペットは最後まで飼う」
ぷう、と頬を膨らませたメディナが本気で怒っていた。そんなことをやいやいしながら昨日の疲れを癒していると、フェロシティが僕の影からぬるりと出てきて頭を下げながら口を開く。
【主、あの卵そろそろ孵化いたしますよ】
「あ、本当に? みんな、いよいよ誕生するみたいだよ」
フェロシティの声が聞こえていたのか、女性陣は慌ただしく卵の下まで走って行く。
「やっぱりこういうのは男女関係なく好きなのかな? アニスもなんだかんだで様子を見に行ってるしね」
僕がそういうとクロウが返してくる。
「まあアニスも好奇心の方が強いからね。さ、僕達も行こう、楽しみなんだよ実は」
「そうだね!」
僕達も近づき、エリィ達の後ろから様子を伺うと――
ピシピシ……
「あ! ヒビが入った!」
「わくわく」
ベルゼラとメディナが興奮して喋っている通り、少しずつ卵にヒビが入っていく。
ビシビシ……
「……? なんか様子がおかしくない? ヒビは入るけど出てこないんだけど……」
【ああ、もしかすると殻が固すぎて破れないのかもしれませんね。こういう時は親が割ってあげるはずですよ? ちなみに割れなかったら力尽きて死にますね! ははは!】
「ははは、じゃないよ!?」
ドンドン! グラグラ……
中々破れないのか、卵の先が叩かれるもだんだん弱々しく……ま、まずいよ!?
僕はセブン・デイズを鞘のまま卵に叩きつけた!
「やああ!」
ガツン! と、卵のてっぺんを殴ると、べきっという音共に破片がいくつか飛んでいく。さらに打ち付けると――
「ピィ!」
ひょこっと、つぶらな瞳をして一本角のちょっと大きめのトカゲのようなドラゴンが顔を出した! うわあ、かわいいかも!
「ピピィ♪」
アースドラゴンはポン、と卵から出ると、僕と目が合い、
「ピィー♪:
何とも言えない声で鳴きながら足元でぐるぐる回り始める。アースドラゴンだからか羽は無く、角もまだまだ小さい。鱗もまったく硬くないし、ほんのり産毛も生えている。
「ヤバイ、可愛いじゃない! ええ、ドラゴンの赤ちゃんってこんな目をしてるの? だいたい目つきが怖いのに」
「おいで、もちきんちゃく」
「もしかしてそれ名前ですかメディナさん!? センス無さすぎでしょう!?」
ルビアはこういう『可愛い』もアリなようで、しゃがみこんでじっと動きを見つめていた。メディナは掴みかからんばかりの勢いだが、バス子がそれを察してか羽交い絞めにしている。
「でも本当にかわいいですねー」
アニスも目を細めてみており、アースドラゴンはみんなに構って貰えて嬉しいのかぴょんぴょん跳ねまわっている。すると僕の足に掴まってよじ登ろうとしたので、撫でてやろうとしゃがんでみると、
「ピィ―♪」
「あら、気にいったみたいね」
「えー……」
腕をうまく伝い、僕の頭に鎮座した。アースドラゴンは大喜びだ。
「あ、でもこれなら踏まなくていいかもしれないわ。よろしくね~♪」
「ピィ~♪」
「ふふ、人懐っこくてかわいいわね!」
ベルゼラが小さい手を摘まんで握手すると、やはり嬉しそうに鳴く。こいつは人見知りしない子のようだ。エリィもにこにこと、僕の頭でごろごろするアースドラゴンの背中を撫でた。
みんなが僕の周りで、アースドラゴンを愛でている中、フェロシティが卵の殻を拾ってじっと見ていることに気付く。
【……】
「フェロ、どうしたの?」
【……ハッ!? いえ、随分硬い殻だと思いましてね? (後で主にお話があります)】
「(わかったよ)」
フェロシティが珍しく神妙な声で僕の頭に直接話しかけてくると、卵の殻を自身の影に回収し始める。
それからしばらくアースドラゴンを愛でていると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
もちろん天気ではなく……
「もちきんちゃく」
「そんな名前はダメよ、あーちゃんってどう!」
「お嬢様、安易すぎ……」
「ならあんたは何てつけるのよバス子」
「成長を見越して”ファング”ちゃんってどうですかね!」
「あんたも安易だけど、悪くないわね。やっぱりドラゴンならカッコいいやつよね! ”ブラッディ”なんてどう!」
「いや、凶悪すぎるでしょう……」
と、アースドラゴンの名前について揉め始めた。といってもエリィやアニス、僕とクロウは参加せず、主にルビアやバス子、メディナにベルゼラである。
「ま、まあ産まれたばかりだし、道中で考えようよ。城に行かないといけないし、そろそろ出発しよう」
僕の言葉で仕方なくといった感じでみんなが馬車に乗り込む。
「それじゃ、フェロお願い。僕が一気に蹴散らすよ」
【……いえ、その必要はありませんよ。行きましょう、主】
「え?」
フェロシティが穴を開けると、そこには魔物がまったくいなかった。
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