帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

文字の大きさ
21 / 136
FILE.1 カラッポノニンギョウ

21. 

しおりを挟む
 ズゥゥゥン……

 「ああ……カ、カイルさん……」

 「伝説級……とんでもねぇな……」

 「……みんな、こっちだ。上に続く階段があった」

 遠くの方でドラゴンが跳躍したのが見え、フルーレがぺたんとその場にへたり込む。最後に見えたのはカイルがドラゴンの頭から振り落とされて祭壇に落下するところだった。その上に飛び掛かられたのであれば下敷きになったカイルはどうなるのかは想像に難くない。
 オートスがチカを背負いながらも脱出口を発見し、そこへ案内する。そしてスナイパーライフルを手にし、元来た道を戻ろうとする。

 「チカはダムネ、お前が連れて行ってくれ」

 「オ、オートスはどうするのさ……!」

 「ヤツを……カイルを助けに行く」

 「じゃ、じゃあ! わたしも行きます」

 「ダメだ。オートスは重要参考人、フルーレ少尉は貴重な回復術の使い手だ、ここで失うわけにはいかん。いや、失っていい人材など帝国にはいないのだ」

 「ならカイルだって――」

 「……」

 ドグルが食い下がろうとしたが、ブロウエルはドグルに左わきのホルスターからハンドガンを取り出し、ドグルの鼻先に突きつけた。

 「上官命令だ。上官の命令は絶対。そうだなオートス?」

 「……は、はい……」

 「くそ……」

 「それとカイルの渡してくれた武器はここに放棄。そんなものを持って帰ったら何を言われるかわからん。お前たちもいらぬ疑いをかけられても敵わんだろう」

 「そ、そうか……くそ、勿体ねぇな……」

 「カイルさん……」

 深紅の装丁をしたカイルの兵装をその場に置き、ブロウエルは頷きドグルを先頭に階段を上りだす。しんがりはブロウエルで、階段に足をかけた時、カイルのいる方を見て胸中で呟いた。

 「(……ここで終わるのかカイル? お前は死ねないはずだ、皇帝陛下を殺すまでは……)」



 ◆ ◇ ◆


 死んだ――

 カイルは直感でそう思い目をつぶる。突き出した深紅の刃では止めきれないが何かをせずにはいられなかった。だが、いつまで経っても圧迫感を感じることが無く、カイルは恐る恐る目を開ける。
 
 「なんだ……? な!?」

 「グォォォォ……!?」

 カイルはそこでとんでもない光景を目にしていた。先ほど人形だと思っていた少女が片手でドラゴンを持ち上げていたからだ。
 抑揚のない無機質な瞳がドラゴンを見据えながら何かぶつぶつと呟いていたので、カイルは耳を傾け聞いてみる。

 『コンディション・オールグリーン。ケツエキカラノマスタートウロク、カンリョウ』

 「マスター登録……? 何だ、お前は」

 カイルが少女の呟きに尋ねてみるが、少女はドラゴンを見据えたまま口を動かす。

 『守護者ガーディアンドラゴン。フウインヲ、マモルモノ。ゲンザイ、マスター、ノ、テキセイソンザトシテ、ショブンシマス』

 「お、おい……!」

 「グォォォォ!?」

 ドラゴンは暴れるがビクともしない。どうするのかとカイルが思った瞬間、少女はドラゴンを高く、その細腕から信じられないほど高くぶん投げた。

 「なんだそりゃ!? ……いや、チャンスか、シュナイダー!」
 
 「ガウ!」

 すぐそばまで来ていたシュナイダーと迎撃態勢を取ると、少女はカイルを見ずに口を開く。

 『マスター、オマカセ、クダサイ。ハイジョ、シマス <*****>』

 ブゥン……

 少女が何か聞き取れない言語を口にすると、右手から魔法陣が現れそこからズズズ……と無機質ななにかが這い出てくる。
 すべて出きった時、それは130cmほどしかない少女の身長をゆうに越え、2mはあろうかという――

 「パ、パイルバンカーか? でもいくら何でもでかすぎるぞ!?」

 無骨なカイルが少女に目を向け扱えるのか? そう思った時、頭上から咆哮があった。ドラゴンが落下してきたのだ。羽はすでに飛行機能を失い飛ぶことはできていないが、踏み潰すことはできると判断したようだ。
 
 ドラゴンが距離を測るため目を細める。しかし、ドラゴンが攻撃をすることはできなかった。

 ゴイン……

 『ハイジョ、カンリョウ』

 ブシュウ……!

 少女がパイルバンカーに魔力を込めると、ジェット噴射のように飛び上がってドラゴンの口から割れた脳天にかけて撃ち抜いたからだ。
 カイル達をあれほど苦しめたドラゴンは、タイミングをほんのわずか狂わされ、最後は何もできずに絶命した。

 「や、やったか……! って、えええ!?」

 『エネルギー、ロー』

 少女はそう呟き、何の抵抗もなくパイルバンカーと共に落下してきた。

 「この辺か!」

 「わんわん!」

 ドサッと少女をキャッチし、シュナイダーが尻尾を振る。パイルバンカーはガシャリと音を立てて地面に落ちた後、スゥっと姿を消した。

 「人形……? いや、暖かい……それにあの武器、どうやって消えた……?」

 綺麗な金髪を短くそろえている少女は目を開けていなかった。服は立派なドレスで、どこかの国の王女と言われればみなが納得する顔立ちをしていた。カイルは少女と棺を交互に見てからひとり呟く。

 「もしかしてこの子が『遺産』なのか? だけど人型の『遺産』なんて聞いたことが無い。もう少し情報が……ん?」

 ゴゴゴゴゴ……

 調査していこうかと逡巡したその時、神殿内が大きく揺れ始めた。氷の壁がボロボロと崩れだし、超高度の天井が落ちてくる。

 「うおわ!? やべぇ、せっかく生き残ったのにまたピンチかよ! シュナイダーこの子を乗せて走ってくれ」

 「うおん!」

 カイルは手早く少女をロープで括り付けると、木箱を抱えて出口に向かって走り出す。

 「対物ライフルは諦めるしかないな! お、俺の武器。……そうか、大佐が置いて行ったな? ま、セボック以外に見せるもんでもないし木箱で回収しとくか」

 アサルトライフル、スナイパーライフル、銀の長剣を木箱に入れ鎖を巻いて肩に担ぐ。深紅の刃と真っ黒な銃はそれぞれカバンに放り込んでいた。

 「階段発見……! 急ぐぞ!」

 「わおわおーん!」

 ガラガラガラ……

 無情にも『遺跡』は崩壊し始めていく。守護者であるドラゴンが倒され、『遺産』が起動したことによる自動消滅であった。内部の魔獣や通路は次々に崩れ――

 「間に合うかー!?」

 カイルは冷や汗をかきながら出口を目指していた。



 ◆ ◇ ◆


 
 コンコン……

 「どうぞ」

 執務室で書類仕事をしていたカイルの上官であるエリザがドアのノック音で顔を上げて声をだす。するとドアが開かれ、白衣を着た軽そうな男……セボックが手を上げて入ってきた。


 「セボック技術開発局長、外に出るなんて珍しいじゃないか」

 「くっく、そりゃないよエリザ大佐殿。先日、カイルを見送ったんだぜ?」

 「そうか、それは失礼した。で、隊舎には何用なのだ? そっちの方が興味深いな」

 エリザが目を細めると、セボックは頭を掻きながらソファに腰かけながら煙草を取り出す。エリザはそれを手で下げる。

 「ここは禁煙だ」

 「おっと、そうか……研究棟は関係なくてね」

 「御託はいい、早く話せ」

 若干の苛立ちを隠さずエリザはセボックへ尋ねる。そこでようやくセボックが真面目な顔でエリザに告げる。


 「……『遺跡』が崩壊した」

 「なんだと? まだ調査を開始して何日かそこらだろう? 混成部隊は無事なのか?」

 「落ち着いて聞けよ? 調査隊は……カイル以外生還した。『遺跡』崩壊からすでに四日。『遺跡』内部に取り残されたままだ」

 「――!?」
しおりを挟む
感想 266

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第2巻発売中です!】 逞しく成長したリューク、そしてジーナ、ユフィオ、キスティーが大活躍します! 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【書籍第3巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。アニスもレムも超カワで、表紙もカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【2024年10月23日コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...