帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

文字の大きさ
131 / 136
LAST FILE

127.

しおりを挟む
「カイル様、これでいかがでしょう。耐久性と伸縮性の両立ができたかと……」
「ああ、ついに完成だ。……間に合った、か――」
『お父さん!?』
「うおん!?」

 ――皇帝ディダイトの天上世界からの侵攻発表がされてから10か月が経過していた。

 各国への通達、訓練の拡充、避難シェルターの建設などできることあり得る最悪の事態を想定して準備を進めていた。
 その中の一つである『装備』はカイルに一任されており、長期戦闘に耐えうるもの作っていた。
 それが今しがた完成し、特に労働時間の多かったカイルは気が緩みその場で倒れた。

『しっかりしてください!』
「ああ、起こさない方がいいよイリスちゃん。主任は疲れているから寝かせてあげよう」
『だ、大丈夫ですか……?』
「うん。ベッドで寝かせておくからお母さんを呼んできてくれるかい?」
『はいです! シュー、大きくなるです』
「わん♪」

 大きないびきを立てて寝たカイルを揺するイリスに、研究者は苦笑しながら止めていた。イリスはすぐにシュナイダーが大きくなり、エリザを呼びに行くため研究所を飛び出した。

「元気だなあ。ま、カイル主任の娘さんなら納得か」
「だよなあ。この人、研究しながら訓練もしているんだろ? 実戦もするつもなのだろうか……?」
「やるだろうな。……よっと」

 イリスが去ったあと、研究員たちはそれぞれそんな話をしながらカイルを仮眠室へと運ぶ。
 話の通り、カイルは夜遅くまで装備品の研究をした後にエリザとイリスを連れて訓練を行っていた。
 全ては決着をつけるために。

「しかし、天上世界は大昔に空に上がった種族だろ? 地上ほど領土はないしそこまで強いとは思えないんだけどなあ」
「どうだろう……カイル主任はモルゲンという男と、我々を裏切ったセボックの技術力を侮るなと言っていた。訓練の状況を考えると甘く見てはいけないのだろう」
「確かに……この装備の重要度を考えたら、な」

 仮眠室から戻ってきてから研究員の一人が完成した武具に目を向けて真面目な声色で言う。
 そこには騎士達が使う金属の鎧でも、サイクロプスの素材を使ったプロテクタとも違う黒い全身防具があった。
 頭部もヘルムではなくメットとなりゴーグルで目をカバーする形の頭部防具もある。
 
 ――そして、武器。

「EW-531ベヒーモス…… ハンドガンにしちゃ口径がでかい。鉄の兜程度なら頭が貫通して潰れたトマトみたいになっちまう」
「こいつも凶悪だぞ? EW-573ドラゴンバイト」
「そいつはアサルトライフル、ウッドペッカーの上位版だっけ? 弾数がおかしいよな……」
「近接は全員こいつだしな」

 そう言って一人がカイルの持つ紅い剣のように反りのある刃を手にする。EW-813リュミエール。魔力を込めた鉱石を加工して折れにくい素材で作成したものだ。
 切れ味は量産したものとは思えないほどの強さを誇っていた。それを掲げて研究員は首を傾げていた。

「……こいつを各国にも配るんだろ? 天上世界との戦いが終わって、次は帝国が狙われたら……なんてことを考えてしまうな」
「なにか考えがあるのだと思う。そもそも、天上と戦って勝たなければ地上は終わりなんだ。先を考えるのは奴等を倒してからでいいんじゃないか?」
「そうか……そうだな……」
「それにしてもカイル主任が味方で良かった……俺はそう思うよ――」

 モノは完成した。
 後は配布するのみという状況になり、改めて出来上がった装備を見るとカイルの凄さが際立つと口にする。
 サイクロプスの皮は在庫が少ないため、手に入る素材を使い、軽量で強装甲を実現した正に天才だと。
 他にもバズーカのような大型兵器なども用意しているため、たった10か月でこの成果は破格なのだ。

 ――そこから量産体制が始まり、素材の入手を経てまずは帝国の兵士に配られた。おおよそ騎士とはかけ離れ、どちらかと言えば暗殺者に近い装備に困惑しながらも訓練を続けていく。

◆ ◇ ◆

「カイルよ、ありがとう」
「なんだよ藪から棒に」

 色々といち段落した昼下がりに、カイル達の居る別宅を訪問したガイラルが出されたお茶を飲んだ後にフッと笑い礼を口にした。困惑するカイルにエリザが続けた。

「どうしたのお父様。急に尋ねてきたと思ったらお礼だなんて」
「いや、なに。装備開発について大儀だったと言いたいだけだ。あれなら天上の軍勢でも押し返せるはず」
「どうかな……セボックの知識とモルゲンの野郎の技術力があればあれと同等のものを作れると俺は考えている」
「まあ……」

 それは否定しないとガイラルが言う。

「モルゲンの持つ振動する剣などはそう簡単に作れないと思うが、重火器はセボックの知識から作られるだろうからな。だが、お前の装備はそれを上回ると思っている」
『お父さんは凄いです!』
「ふふ、そうね! でも、いつ来るかしら? 今のところ予兆もないわよね」

 ホットケーキを食べながら父を称賛するイリスを撫でながらエリザが言う。するとガイラルは窓の外に向けた後、少し間を置いてから口を開く。

「……もう、すぐだろう。モルゲンの終末の子の回収に失敗しているなら、別のプランを準備するはず。カイルと同じかそれ以上の能力を持っていると考えれば、こちらの準備が整った今、同じ時期で仕掛けてくる可能性は高い」
「それならもっと早くきてもいいんじゃない? 仕掛けながら混乱を巻き起こした方がいいような気もするけど」

 隊長をしていたエリザが作戦について推測を言う。
 そこでガイラルは腕組みをしながら片目を瞑って口を開いた。

「……ツェザールは確実な手段ばかりを選ぶ。勝てると思った状態でしか襲っては来ないだろうな。イレギュラーはクレーチェのことくらいか? 天上……その前に地上で主要な王を失脚させて自ら天上の王になっただけはある」
「なるほど。慎重ってことか。だけど、慎重になりすぎて手遅れってこともある」
「ふふ、お前は突撃するばかりだからなカイル」
「う、うるせえ! 五年前はちゃんとあんたが説明してくれれば……いや、それだとイリスはここに居ないんだよな。すまない」

 ガイラルは考えなしに動く男ではないとカイルは思いなおして謝罪を口にする。
 そこでふと、カイルはガイラルに聞きそびれていたことを尋ねた。

「そういえば終末の子はどこかのタイミングで地上に設置したんだよな? イリスの身体は赤ん坊の時から能力だけ抽出したんだろ? なら元々の終末の子はどうなったんだ?」
「……もちろん居なくなった。まあ、すでにあの遺跡はダメだったから仕方が無い」
「そう、なのか? でもそれだと――」
「では、私は失礼するよ。なに、気にするな。私達は絶対に勝つ。その準備をしてきたのだ」
「あ、ああ……」

 ガイラルは会話を切り上げると席を立って出口へと向かう。

『お見送りをします!』
「わふ」
「お父様、また来てくださいね」
「ああ」
「……」

 部屋から出ていくガイラルをカイルは無言で見送った。なにか頭に思い浮かんだが、それは答えが出なかった――
しおりを挟む
感想 266

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...