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その38 一歩前へ
しおりを挟むコーラ。
それは日本において『とりあえず生』と並ぶくらいメジャーで知名度の高い飲み物。カロリーオフといった種類もあり、それっぽい飲み物が作られるくらい人気もある。
俺は普段そんなに飲むことはないけど、何故かハンバーガーを食べるときには欲しい不思議な飲み物。
そんなコーラで酔っぱらったネーラ。エルフには酩酊効果があるのか? それを確かめるべく俺はフローレに進めていたところ――
「スミタカさぁん、なんれすかこれぇ? うへへ、スミタカさんが三人いるー。あ、ダメ、そんないっぺんに……」
「みゅー!!」
「みゃー!!」
「お猫様だけ独占したららめれすよぅ?」
「うははははは! この黒い甘い水、凄くおいしいな! もっとだ! もっと寄こしたまえよ君ぃ!」
――見事に酔っぱらっていた。フローレは俺の膝に座って顔をすり寄せ、子ネコ達に抗議の声と爪を立てられ、後から来たベゼルさんにも飲ませたところ『暑い』といいながら上半身を裸にして筋肉を見せつけてくる。
他にもベゼルさんの連れてきた数人のエルフと、親父……いや、ウィーキンソンさんも出来上がっていた。
「酔っぱらっちゃったわね……これは本当にお酒じゃないの? ほら、フローレ、スミタカが困っているから降りなさい」
「ネーラばっかりじゅるいー」
ネーラがフローレを俺の膝から自分の隣へ座らせると、フローレはネーラの膝に頭を乗せてゴロゴロし始める。
「みゅー♪」
「お、食べ物はダメだぞ。ミルクを飲むんだ」
「みゃー」
コテツとキサラギが俺の膝に乗り、コテツが肉に前足を伸ばすのでそれを窘めながらキサラギにミルクを飲ませ、コテツにもミルクを口に入れて静かにさせ、ようやくネーラへ返す。
「ああ、これはジュースなんだ。ただ、果実の汁を使ったりといったようなものじゃなくて、砂糖とか色々混ぜたものだな」
「あ、だから甘いのね。シュワシュワしているのは? あの苦いやつもそうだったけど」
「あれは炭酸だな。時間が経つと段々抜けてくる……って、さっきの反応を見る限りビールは無いみたいだな」
「私は見たことないけど――」
「人間の大陸ならあるぞ」
「あ、ミネッタさん」
ネーラがうーんと唇に指を当てて口を開こうとした瞬間、ネーラの背後にミネッタさんが現れ、肉を一切れ口に入れてから喋り出した。
「ビール、というのはワシが向こうの大陸に居た時飲んだことがあるわい。……んぐ、これほど美味いものではなかったがの」
「苦くないですか……?」
「まあ、ビールは大人の飲み物じゃ。ネーラにはちと早いかもしれんのう。ほっほっほ」
「むう」
子供扱いされてむくれるネーラを横目に、俺はミネッタさんに尋ねてみる。
「しかし、なんでコーラで酔っぱらうんだ? ネーラも二口くらいで酔ってた。でも、ビールは全然そんな素振りが無い」
「元来エルフは酒に強いのじゃ。酔わないというわけじゃないが、このビールなら五本くらいは余裕じゃろう。じゃがこのコーラというやつは――」
ミネッタさんがフローレの持っていたコーラを一口飲むと、目を細めて俺に言う。
「これはなかなか刺激的じゃな。何が入っているか分からんが、何かエルフを酔わせるものがあるのじゃろうな」
「あー、これの原材料って俺も良く分からないんだよな……今そう言われて気づいたけど、実はエルフにとって毒だったりするかもしれないな……すまん」
「だ、大丈夫じゃないかしら? みんな気持ちよさそうだし」
「いや、ほぼ全員出来上がってるしなんかあった時にこの状態はまずいだろ?」
「ま、人数を決めて飲ませてもらうくらいかのう」
それでも飲むのを止めないのか。中毒性が高いのはまずいんじゃなかろうか……? まあ、俺が持って来なければいいだけかとビールを口にするとシュネがてくてくと歩いてくるのが見えた。
『賑やかだから来ちゃったわ。あら、ウチの子達、おねむみたいね』
「連れて行くか?」
『私がスミタカの部屋で寝るからいいわ。あなたが居なかったらそれはそれで騒ぐからね』
「母親についていりゃいいのになあ」
「スミタカが好きなのよ、いいじゃないお猫様に好かれるなんて羨ましいわよ」
ネーラがクスクス笑いながらすでに寝入ったフローレの髪を撫でていた。まあ、動物は好きだしいいんだけど、シュネも折角復活したんだから子供達と一緒に居たいはずだと思う。
「今日はシュネを枕にさせてもらおうかな」
『もちろんいいわよ。最長老もご一緒する?』
「おお、いいのですか! ならネーラとフローレも一緒じゃな」
「おー」
シュネの言葉にミネッタさんと、寝ながらフローレが拳を突き上げていた。そろそろ肉も無くなったし、お開きにするにはいい頃合いだ。そこでにこにこしているネーラに気づき、声をかける。
「どうした、やけに楽しそうだな?」
「そう見える? ……実を言うとね、こんなに楽しそうなエルフ達を見るのは初めてなの。狩猟、採取、料理……代わり映えしない毎日で寿命ばっかり長いわ。でもスミタカが来てからは笑い声が増えたわ。あの時、スミタカの家に行って良かったな、って」
……人間から逃げ出してきてから長い時を経たけど、この島でエルフ達だけで暮らしていたら刺激も無いし変化も乏しい。それと痩せたエルフ達を見るからに、毎日を生きるのに必死だったから娯楽というものに行きつかなったのかもしれない。
「……ま、殺されかけたけど」
「ご、ごめんなさい……」
「はは、冗談だよ。それじゃ、そろそろお開きに――」
「お、何だいスミタカ、就寝かい? それじゃ今日は私の泊まらせてもらおうかな! はっはっは! この筋肉を枕にしてもいいんだぞ?」
俺が立ち上がると、ベゼルさんが寄って来て、筋肉をぴくぴく動かして見せつけてきた。そこで俺は瞬時に叫ぶ。
「気持ち悪いわぁぁぁぁぁ!!」
「ぐはぁぁぁぁぁ!?」
あ、やべ!? こっちの世界じゃ力が強いんだった!?
「だ、大丈夫か!」
「……ふへへ……スミタカがひとり……ふたり……」
「大丈夫じゃないな……どうしよう」
「いいわよ、それくらいじゃ死なないし。お家へ戻りましょ!」
「あ、おい、お前の兄貴だろ、いいのか?」
「いいのいいの♪ 最長老、行きましょう!」
「うむ! あ、そうじゃ、ワシの家に行こうではないか!」
――そうして今日という日が終わる。何となく、エルフ達ともっとお近づきになれたなと思う、そんな日だった。
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