100 / 253
第四章:風の国 エリアランド王国編
第九十三話 エリアランドのお姫様
しおりを挟む「きっ……!?」
「よーし、ストップだ。こんなところで大きい声を出されたらたまらん」
『速』が上がっているので、女の子が叫ぼうとしたところで後ろに回り込み口を塞ぐ。もごもごじたばたと暴れる女の子に耳元でささやく。
「大人しくしろ、叫ばないと約束するなら放してやる」
こくこくと青い顔をして頷いたので、俺が手を緩めると……
「ど、どろぼ……!」
「はい、ストップ!?」
これは埒が明かないと、俺はもう一度耳元でささやく。
「……とりあえずその辺の部屋に入ってから解放してやる。悪いようにはしない。俺は黒のローブたちを探しにここまで来たんだ」
「……! んー!? んー!」
もがく女の子を抱えて、適当に部屋へ入るとベッドに座らせて拘束を解いた。部屋からなら、叫ばれたとしても即座に逃げることができるし、どこへ行ったか読みづらいと考えた結果だ。
だが、予想に反して女の子は押し黙り、じっと俺を見ていた。
「……叫ばないのか?」
「あなたこそ逃げないの?」
「もう行こうかと思っていたところだ、怖い思いをさせて悪かった。じゃあな」
俺がさわやかに立ち去ろう背を向けると、声をかけられた。
「黒のローブ達、って言ってたわね。あいつらのこと知ってるの?」
「……いや、正直言うと良く分からない。ここの大隊長だったっていうリューゲルの頼みで調査にきたってところだ」
俺がクリューゲルの名を出すと、女の子は目を見開いて俺の首をガクガクさせて喋りはじめた!
「クリューゲル! 彼と知り合いなの!? どこにいるの!」
「ま!? 落ち着け!? クリューゲルの知り合いかお前!?」
ようやく首から手を離してくれ、目をパチパチさせながら俺に言ってくる。
「知り合い……というより、婚約者、だけど……あ、もしかして私を知らない?」
「……悪いがさっぱりだ……」
嫌な予感がする、俺の勘がそう言っている……。そしてその予感は見事に的中するのだった。
「エリアランド王国の王女、シエラよ」
やっぱりな! だと思ったよ! 面倒事ではあるけど、クリューゲルの婚約者なら……婚約者!?
「あいつ国王候補だったの!?」
「彼をあいつ呼ばわりできるなんて、結構親しいみたいね? それで、何か分かったことはあるの?」
さっきびびってプルプルしていた様相から一転、気が強い王女へと変貌を遂げ、腕を組みながら俺に質問を投げかけてくる。
「俺が嘘をついているとは思わないのか?」
「……今の彼はありとあらゆるものを剥奪されてしまってるから、彼の頼みを聞く人なんていないわ。城に潜入するのは危険だしね。信用のないクリューゲルに頼まれた、という人は信じてみてもいいんじゃないかしら?」
「なるほどな。とりあえず俺はシエラ姫さん達をどうこうする気は無い。黒のローブ達も出払ったみたいだし、どっちかの後を追いかけるつもりだ。後は……三階に仲間が捕まっているらしい」
「ふんふん……三階までどうやって行くつもり? 一階はそうでもないけど、二階から上はメイドや使用人の部屋もあるから目立つわよ?」
「一応隠れるスキルはあるんだが、後二十分は使えない。まあ、ここで待つのもアリか」
「……それだと時間が勿体ないわね……いいわ、私が案内する」
シエラがベッドから立ち上がりそんなことを言う。
「いや、無理しなくても……」
「無理じゃないわ! あの黒の変態が来てからロクなことがないの! お父様を治してくれたまでは良かったけど、それからお父様がおかしくなって、お母様が倒れて……ああーもうむしゃくしゃするー!!」
お転婆姫、というフレーズが浮かんだが黙っておこう。それはそれとして、姫がいるなら心強い。
「なら頼めるか?」
「まっかせて! どうせお母様の様子を見に行く途中だったから問題ないわ。監禁するとすれば奥にある窓の無い部屋かしらね……それじゃ行きましょう」
<鬼が出るか蛇が出るか……>
嫌なこというなよ……。
「あら、シエラ様、王妃様の所へ?」
「ええ、様子を見に」
「そちらの方は?」
「あ、えっと……」
「今日から使用人として働くことになったらしいんだけど、迷子になっていたから案内している所なの」
「まあ、そうでしたか。シエラ様はお優しいですね、それでは」
おばさんメイドが俺達の横を通り過ぎ、冷や汗をかきながら俺は一息つく。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったわ」
「ああ、俺はカケル。何とでも呼んでくれ」
「……カケルさんって以外に呼びようがないじゃない……まあいいわ、こっちよ。しっかし変ねえ、今日は非番の騎士達の姿があまり見えないわ」
何やらぶつぶつと言いながらシエラがきょろきょろしながら廊下を歩く。何か違和感があるようだが、俺にはさっぱりわからない。
「ごめん、先にお母様の様子を見させて」
「構わないぞ」
奥の部屋へ行く前に階段を上がりきってすぐのところにある大きな扉を開けて中に入る。扉の大きさ通りの広さがある部屋の中央にベッドが置かれ、メイドさんが数人肩を落としながらもせわしなく働いているのが見えた。
「あ……シエラ様」
「どう?」
「芳しくありませんね……このままではいつ……」
すると年配の人が弱気なメイドさんを怒鳴りつけた。
「何を不吉なことを言うのですか! 王妃様はきっと助かります! シエラ様、明日にはまたお医者様がいらっしゃるので、ご心配なく……」
「ありがとう。……きっとあいつらの仕業よ……お父様だけでなくお母様まで……! ああーもう悔しいっ!!」
地団太を踏みかねないお姫様は大層ご立腹だった。病気か毒か呪いか分からないが、寿命を量ることはできるので確認してみるとしよう。
「(『運命の天秤』をば……)』
『????(42) 寿命残:二十日と九時間』
今すぐではないけど、危険な状態には変わりないか。
<ハイヒールですよハイヒール! ここで恩を売りましょう!>
「(やかましいわ!)」
ゲスいことを明るい声で言うナルレアを黙らせてから、俺はポツリと呟いた。
「……仕方ない、案内してくれるお礼はしないとな」
「ん? 何よ? あ、ちょっと!?」
「無礼者! 下がりなさい!」
俺が王妃様とやらに近づくと、シエラが慌てて止めに入り、歳のいったメイドさんが目くじらを立てて怒る。
「無礼は承知だけどこのままだと命が危ない。それにこの騒ぎが終わったらこの国を出るし」
「そういう問題じゃ……」
シエラの言葉を無視して、王妃のベッドの横に立つ。なるほど、顔はシエラそっくりだが、こっちは優しそうな顔をしている。
「勿体つけずに≪ハイヒール≫!」
「そんな魔法で治せると……! あ、あれ?」
ふわりと光の幕が王妃を覆うと、顔色がみるみる良くなっていき、うっすらと目を開けた。
「……ここ、は? シエラ……?」
「う、嘘でしょ……お医者様も魔法使いも治せなかったのに……お母様……!」
「なんだか頭がすっきりして……あら、お客様かしら?」
「お構いなく」
俺は泣いて母親に抱きつくシエラを相手してくれと目で合図し、心の中で喋りかける。
「(ナルレア、何か隠しているだろ?)」
<ギクリ>
抑揚の無い声で怪しいことこの上ない擬音を口にしたナルレア。わざとだろうが、続けて俺に言い放つ。
<……ルルカ様も言っていましたが、カケル様のハイヒールはすでにハイヒールとは一線を画しています。もちろん最初。リンゴ娘と会った直後くらいはただのハイヒールでしたが>
「(なら、教えてくれるんだろうな? お前は俺のアシストだろ?)」
<今の私ではそこまでの情報を与えられません。カケル様が……そうですね後二つほどレベルを上げて頂ければ『開示要求に答えられません』を話すことができると思います。私はあなたのアシスト。レベルアップの効果で能力が上がるのは同じなのです>
すごく胡散臭いが言いえて妙だ。『開示要求に答えられない』という機械的な声は一応俺に伝えようとしていたからか?
「(レベルアップか……まあいい、今の所困るわけでもないし、後回しにしよう)」
<申し訳ありません>
さて、次はティリア達の救出か。シエラも泣きやみ、俺に話しかけてくる。
「ご、ごめんなさい……お母様が治って嬉しくって……それじゃ、ネイラお母様をお願いします」
「は、はい……!」
「何だか分からないけど気を付けてね?」
シエラの凛とした言葉でメイドと母親が見送ってくれた。
「多分こっちよ」
「分かった」
俺が頷いた時、廊下から見える窓の外が一瞬、暗くなった。
「なんだ!?」
「え!?」
俺達が窓の外を見ると、無数のワイバーン……そう、竜の騎士が空へ飛び立つところだった。一番最後に飛び立ったのは……ワイバーンではなくまぎれもないドラゴン……! その背に乗る人物を見てシエラが驚く。
「お父様……!?」
「あれが親父さんか……! それに……」
赤いドラゴンの背には国王と、黒いローブを羽織った人物が一人、同乗していた。そこで俺は背筋がゾクリとなるのを感じた。
「黒ローブ!?」
すると、国王が高らかに宣言をする。
「これよりエルフの集落に攻撃を仕掛ける! やつらは光翼の魔王を派遣して油断しているはずだ、抵抗する者は皆殺しにせよ!」
おおおおおぉぉぉ!
「やられた……! シエラ、急いで案内を頼む! すぐに戻らないと!」
「は、はい! 操られているとはいえ、お父様、早まったことを……!」
どこからこの筋書きはできていたのかと俺は走りながら考えるが、答えは一つしかない。『最初にティリアがこの町に入って』からだ。
もしかすると斥候が居たのかもしれないが、すぐに城に報告があがったのを聞いて、ティリアを城に招くと同時にバウムさん達へ攻撃を仕掛ける準備をしていたのだろう。シエラが廊下で『騎士が少ない』と言っていたのも納得がいく。朝の時点ですでに待機状態だったに違いない。
「ここです!」
シエラが指さした先に、頑丈そうな扉が目に入った。
30
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる