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第六章:ヴァント王国の戦い編
第百三十八話 レリクスの違和感
しおりを挟む<ヴァント城>
『燃える瞳』と『ブルーゲイル』のメンバーが出会っていたころ、城では――
◆ ◇ ◆
コンコン――
「ペリッティかな? 入っていいよ」
自室で本を読んでいたレリクスがノックの音を聞き、声をかけると『失礼します』という返事と共にメイドが入ってきた。ティーセットを手に学習机とは別のテーブルにお菓子とお茶を用意しながらレリクスに話しかけた。
「王子、トーベンさんから『ブルーゲイル』というパーティに誘拐事件の解決依頼を頼んだと連絡がありました」
「ブルーゲイル? 聞いたことが無いパーティだね」
メイド服を着た暗殺者、ペリッティがトーベンから聞いた内容をレリクスへと報告を行う。するとレリクスは読んでいた本から顔を上げてペリッティへ尋ねた。
「ええ、外からの冒険者ですね。次の報告が驚きなのですが、あのカケル様と接触したパーティメンバーだそうです」
カケルの名を聞き、レリクスは立ち上がり、目を見開いて叫んだ。
「カケルだって!? 彼は今どこにいるんだ!」
「落ち着いてください。ブルーゲイルの話によると、エリアランドで依頼を一緒にこなしたそうです。そして今は恐らく聖華の都に居るとのことでした」
「アウグゼストか。どうしてまたそんなところに……」
レリクスが顎に手を当てて考えると、ペリッティが微笑み、解答を出す。
「ここからが本題なのですが、カケル様がエリアランドに行ったのは偶然だったそうです。そして、偶然からエリアランドで起こっていた「異種族狩り」を解決したのだとか」
「……相変わらずだね。ウチだけでなくエリアランドも救うなんて」
「そこまでなら、まあカケル様だな、ということで片付くのですが……」
「まだ何かあるのかい?」
レリクスの言葉に、真面目な顔をしてペリッティは頷いた。
「はい。『女神アウロラの封印』を見つけたそうです」
「『女神の封印』だって? もしかしてその封印を……!?」
「そうです。不可抗力だったそうですが、デヴァイン教徒の手により封印は解除。その結果、何と破壊神の力の一部が復活したそうです」
「それは……本当かい? ブルーゲイルというパーティが嘘をついている可能性は?」
「トーベンさんの話ではそういったことは見受けられないそうです。彼等は破壊神の力の一部、グラオザムという男に殺されそうになったとか。それを助けたのもカケル様で、その後彼はデヴァイン教本部へ赴き、封印について調べると旅立ったみたいです」
レリクスは渋い顔になり、乾いた口の中を潤すためお茶を一口飲む。
「なるほどね。それでアウグゼストか……で、ブルーゲイルがこの国に来たのは王族の知り合いである僕にそれを知らせるため、ってところかな」
「フフ、流石は王子。彼等は独自に封印を調べるつもりだったみたいですが、カケル様が『この国に立ち寄ることがあれば燃える瞳と王子へ伝えれば力を貸してくれるだろう』とか言ったみたいです」
「ふう……荒らすだけ荒らして逃げたくせに、よく言うよ」
「その割には楽しそうですね?」
「もちろんさ。死んではいないと思ったけど、僕を頼ってくるなんて嬉しいじゃないか」
「王子はボッチ……いえ、友達が居ませんからね」
「いるよ!? 学院での生活は知ってるだろう! それにまったく濁せてないからね!?」
ティーカップをテーブルに置きながら怒鳴るレリクスは、椅子には座らずそのまま扉へと向かっていた。
「どちらへ?」
「父上のところさ。代々国王になる者は『封印』について伝承されるんだ。先代から、今は父上が何か知っているはずさ」
「ではお供します」
「頼むよ」
レリクスとペリッティは国王の部屋へと向かい、すぐに到着する。
「父上、いらっしゃいますか?」
「レリクスか。入れ」
失礼します、とレリクスが入り、続いてペリッティが頭を下げながら入室する。国王の自室に入るのは初めてではないが、やはり緊張するなと、レリクスは思っていた。すると、国王は微笑みながら口を開く。
「私の部屋に来るとは珍しいじゃないか。小さい頃は『父上、父上』とよく来たのになあ……」
「しみじみ言うには父上はまだ老いていませんよ。実はお願いがあって来たのです」
「お願いだと? 明日は大雨か? 小遣いなら母さんに言ってくれ、私が出そうとすると怒られるんだよ、甘やかすなって……」
国王が久しぶりに息子が部屋にきたことに喜びを隠せないでいるのをレリクスは苦笑して聞いていたが、ふと真顔になり父へと告げる。
「お願いと言うのは父上、『封印』についてです」
「……!」
レリクスの言葉に眉をあげて言葉を詰まらせる国王。レリクスはそのまま話を続けた。
「エリアランドの封印が解かれたと、ある筋から情報が入りました。その時、破壊神の力の一部が魔物として現れ、その時遭遇した冒険者を死の淵まで追い込んだ、と」
「……」
国王は肘をついて、レリクスの目をみながら黙って聞いていた。横からペリッティも口を開く。
「その時、アウロラ様の力も戻ったようですが、同時に脅威も拡散されています。破壊神の力の一部は、冒険者の手により致命打を受け逃走したと聞いています」
「何か知っていることがあればお聞かせください。対抗策を練れるかもしれません」
レリクスがもう一度そう言うと、国王は少し考えた後話しはじめた。
「……むう、話が本当なら恐るべきことだ。封印については王位継承時に伝えるものだが、内密というわけではない。エリアランド以外の主要6国には言うとおり、アウロラ様の封印がある。一説によれば、破壊神を封印するのにそれだけの力を使う必要があった、と聞いているな」
「破壊神が復活する、というのは?」
「それは聞いたことが無いな……確かに破壊神を封印しているのだから、解けばいずれ復活するだろう。だが、力の一部が出てくると言うのは初めてだ」
ここでレリクスはペリッティに聞いた時に感じた違和感を国王へ話す。
「……僕は『アウロラ様の封印』というキーワードがどうしても気になるのです。どうして『破壊神の封印』と名をつけなかったのでしょうか?」
「む、確かに。『アウロラ様の封印』と聞けば『アウロラ様』が復活するように聞こえるな……」
そこでペリッティが、なるほどとうなずいた。
「『破壊神の封印』なら、ヘルーガ教は別として、誰も怖がって封印を解こうとしませんね」
「そう。最初に聞いた時、僕はその部分に違和感を感じたんだ。あたかも封印を解くよう仕向けている、そんな気がするってね。父上、何か封印について書かれた書物などは残っていないのですか?」
「……ある。封印されている遺跡の鍵と一緒に残されている」
「見せていただいても?」
「ペリッティはダメだが、お前は構わんだろう。ついてこい」
国王は椅子から立ち上がり、レリクスを奥の部屋へと案内した。書斎のような部屋で、特定の場所にある本をいくつか抜き取ると、隠し扉が現れ、その先に地下へと降りる階段があった。
「面白い仕掛けですね。ペリッティはここで見張りを」
「はい」
「お前なら食いつくと思ったぞ。こっちだ」
国王とレリクスが降りていくと、祭壇のような机があり、その上に箱がぽつんと置かれていた。
「これだ。この中に遺跡の鍵と書物が……」
と、国王が箱を開けた時、驚きの声を上げた。
「な、無い!? 遺跡の鍵がないぞ!?」
「なんだって!? ……これが本……父上お借りします」
「う、うむ! それよりも鍵だ!」
「落ち着いて父上。ここのことを知っているのは?」
レリクスが国王の肩に手を置いて、ゆっくりと話しかけると、国王は汗を拭いながら口を開いた。
「わ、私と……先代……それと、母上の三人だ……」
「他はいない、と? 遺跡の場所は分かりますか?」
「……遺跡は、今二人がいる別荘の近くにある海底洞窟だ。潮が引いた時だけ入り口が見える」
「分かりました。父上は別荘へ騎士達を回してください、別荘が遺跡付近ならおじい様達が危ない」
ああ、と頷くのを見て、急いで階段をかけあがるレリクス。そして入り口に立っていたペリッティへ叫ぶ。
「ペリッティ! 急ぎだ! おじい様達が居る別荘に向かってくれ! 封印の遺跡を解くための鍵が盗まれた!」
「畏まりました。カギはどういった形を……?」
「それは……」
と、レリクスが言おうとした瞬間、後ろから国王が答えた。
「赤いルビーだ。くぼみにはめ込むようにしてセットすると開くようになっている。通常のルビーより真っ赤な色をしているからすぐにわかるはずだ」
「承知しました。燃える瞳とブルーゲイルにはこのことを?」
「僕からトーベン経由で知らせる。すぐに向かわせるから頼む」
「……では!」
それだけ言うと、ペリッティはメイド服を脱いで漆黒の衣装に着替えた瞬間、姿を消した。
「しかし一体誰が……」
国王が呟くと、レリクスは険しい顔をして仮説を立てる。
「……恐らくおじい様かおばあ様のどちらかでしょう……何があったか分かりませんが、不審者をペリッティが感じていない、不審者の目撃者もなく、さらに父上に危害を加えず持ち出せるとすればその二人しかいません。もし、おじい様が別荘から帰ってきていて城を歩いていても不思議には思わないでしょう?」
「ぬう……」
「(問題は『なぜ』というところだね。こればかりは本人たちに聞くしかないか。さて、こうしちゃいられない、僕も動こう)」
レリクスは部屋に国王を残し、ウェハーの町へ馬車を走らせるのだった。
そして、再び舞台はカルモの町へ――
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