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第七章:常闇と魔王の真実編
第百六十六話 チャーさんの……
しおりを挟む「クソ猫がっ……!」
「この! ≪黒き槍≫よ!」
「効かないんだよ! おらぁ!」
「チャーさん、チャーさん。きゃあ……!」
チャーさんから槍を抜いていたイグニスタへ、クロウが闇属性の魔法を放つ。だが、こいつの言うとおりクロウの技は通用しないらしい。振り払った槍がチャーさんを抱きかかえたアニスに当たり、アニスが吹き飛ばされ動かなくなる。
「アニス!?」
「はっはっは! 馬鹿が、猫に気を取られているからだ! お前も死ね!」
勢いをつけて今度はクロウへ攻撃を仕掛けようとするイグニスタだが、俺の存在を忘れているのかね!
「それはこっちのセリフだ! 斬岩剣!」
俺は一気に迫り、下から上へ剣を振り抜いた!
ザキィン……! 何か固いものを斬った音と共にイグニスタの右腕がちぎれ飛ぶ。
「ぐぎゃ!? う、腕が……!? 馬鹿な、魔王の力で強くなっている俺の腕がぁぁぁぁぁ!?」
「殺しはしないが、痛い目は見てもらう! 『生命の終焉』だ!」
ガシっと前から首を掴み、スキルを発動させる。
「ぐ……が……て、てめぇ、も、魔王……だと!?」
スキルを使った俺の目が赤く染まったのを見て、イグニスタが驚愕の目で見てくる。流れ出る冷や汗は痛みか驚きなのか判断はつかないが――
『イグニスタ 寿命残 650……639……624……』
「や、やめろぉ!? て、手が……!? 無数の手が俺の体を……!? ひ、ひぃぃぃぃ!?」
なるほど、魔王になっただけあって寿命は長いようだ。無数の手……そういえばあのアンリエッタを襲った冒険者も同じことを言っていたな。俺からは見えないんだが。それを嫌い、片手で俺の手を離そうとするイグニスタだが、俺は動じなかった。
「う、あ、ああ、あ……」
恐怖からか、金髪だった髪の毛が少しずつ色を失っていく。そろそろ頃合いかというところで、やはり冷や汗を垂らしているクロウへ叫ぶ。
「クロウ! さっきまでの鬱憤を晴らせ! 俺はチャーさんとアニスを診る! ……殺すなよ?」
「え!? あ! わ、分かったよ! うおおおお! チャーさんとアニスの分も受けろ!」
「あ、あひゃあ!?」
クロウがチャクラムを手にへたりこんだイグニスタを出鱈目に殴り始めた。片手では防御しずらく、しかも散々『見えない手』に脅かされているので、クロウの適当な攻撃もガンガン当たっていく。自慢の固さも何度もやられれば傷もつくみたいだ。
そして――
「うわあああああ!」
ガッ!!
「ぐぼ……」
クロウの攻撃が頬を直撃。その瞬間、イグニスタは崩れ落ち……何故かクロウの体が闇に包まれた! え、何アレ!?
「うわ――!?」
ゴォォォォ……
「クロウ! おい、クロウ!」
俺が叫ぶと、闇の中からクロウの声が聞こえてきた。
「し、心配しなくていい……それよりアニスとチャーさんを……」
「何かあったら言えよ!」
クロウがそう言うなら仕方ない
「アニス! チャーさん! ……息は……あるな! 『還元の光』」
パァァ……
スキルを使うと、アニスとチャーさんの体が光りに包まれ、直後、アニスが目を覚ました。
「ん……カケルお兄ちゃん……」
「良かった、大丈夫みたいだな」
「ありがとう。チャーさんは?」
「ああ、チャーさんも――」
と、還元の光を浴びたチャーさんを見るが、傷が治っていなかった。
「ど、どうしてだ!?」
「チャーさん!!」
俺が叫んでいると、闇から出てきたクロウが慌てて駆け寄ってくる。その声でチャーさんがうっすらと目を開けて口を開く。
「お、おお……クロウ少年……やってくれたな……あ、ありがとう……こ、これで吾輩も……ご、ご主人の元へ……」
「喋るな! カケル、何とかならないのか!」
クロウが俺の腕を掴んで揺さぶってくる。
「くっ……どうしてだ……『生命の終焉』」
『シャコシルフィド 寿命残:3分』
まずい。何とか生きているが、このままだと絶命してしまう!
「『運命の天秤』なら……!」
ならば寿命を延ばして回復を図れば――
<だ、ダメですカケル様! スキルの説明が!>
「後にしろ!」
<だ、ダメなんですよ! ほら!>
ヒュインと、俺の目の前にパネルが現れ、『運命の天秤』のスキル説明があらわれる。
『運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。【ただし、対象に生きる意志が無ければ発動しない。回復も受け付けなくなる】』
なんてこった!? ってことはチャーさんのやつイグニスタをボコって満足したってのか!?
「おい、チャーさん! あいつは死んだわけじゃない! 満足するには早すぎる!」
ペチペチと頬を叩きながら、運命の天秤を使う。だが、寿命は確実に減っていく。後二分……!
「……良いのだ……吾輩はご主人と共にあった……捨て猫だった吾輩を子猫の時から……ごほ……あれだけ痛めつけてくれればご主人も、満足だろう……」
「馬鹿なことを言うな! お前はこれが終わったら僕たちと一緒に旅に出るんだろ?」
「ふふ……すまぬな……あれは嘘だ……」
ふるふると手を伸ばすチャーさんだが、目は見えていないのかもしれない。誰もいないところへ伸ばしていた。
「チャーさん。わたしは死ぬのを止めるから。チャーさんも死なないで」
「……う、うう……ご、ご主人……今、そっちへ……」
アニスの声を聞いたチャーさんがポツリと呟く。すると――
ポゥ……
「何だ?」
「これは……?」
俺のポケットとクロウのポケットから、光を纏ったチャーさんのご主人が使っていたイヤリングが勝手に空中へ浮いた。
俺達はイヤリングがチャーさんの近くへ移動するのを黙って見届けていると、フッと透けて見える女の子の姿が現れた。
「この子……髪の色が違うけど、アニスに似ている……」
茶髪で長髪をしていて、顔立ちもアニスよりいくつか年上のようだが、確かに似ていた。最初村で見た時ご主人と叫んでいたのはそういうことだったのか……
「この、匂い……ご、ご主人……迎えに来てくれたのか……」
チャーさんが気配を感じて女の子の方を向くと、女の子は困った顔してチャーさんの耳へ顔を近づけた。
「……な、何と……吾輩に生きろと……? ご主人を守れなかった吾輩を……」
コクリと頷く女の子。そして、俺の方へ向き直り口を開く。
この子を、お願いします。
「カケル、この人は何て言ったんだ?」
「カケルお兄ちゃん、チャーさんを助けて」
俺にしか聞こえていなかった……? いや、それどころじゃない!
「チャーさん! 『還元の光』&『魔王の慈悲』!!」
ケガを治しつつ、寿命を回復させる! すると、チャーさんの傷が一気に塞がり、呼吸が整ってきた。
「……多分、これで大丈夫だ」
「チャーさん!」
「良かった」
「お、おい、アニス。お前……」
「え?」
見れば、アニスの目から涙がこぼれていた。本人は気付いていないようだが、確かにアニスは泣いていた。
ありが、とう
「……逝くのか?」
俺がチャーさんのご主人に聞くと、泣き笑いの顔で頷いた。そしてアニスを見て、もう一度口を開く。
村のみんなを葬ってくれてありがとう……あなた達に、幸がありますように……
「?」
アニスはチャーさんを抱っこしながら不思議そうな顔をする。
「アニスにありがとうってさ」
それを聞いてアニスはご主人に言う。
「ううん。チャーさんはちゃんとずっと一緒にいるから安心して」
「女神のアウロラは俺の知り合いだ。もし向こうで会ったら俺の名前を出して優遇してもらえ」
笑いながらコクリと頷いた後、チャーさんのご主人は光となって消えた。
「……何だったんだい」
「死んでなお、チャーさんが心配だったんだろう……。もう帰ってくることがないようにしないとな」
「そうだね。安心して、眠って……ください」
デヴァイン教の神官らしく、手を合わせてクロウは名も知らないチャーさんのご主人へ祈りを捧げるのだった。
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