31 / 37
もうひとつのワンルーム
31. 魔王の真相
しおりを挟む「火の回りが早い……! 待て!」
「とう! 熱っ!? まだ間に合うはず……<フリーザー>!」
仁の腕をスルリと抜け、キィィン……と、氷の粒がドアノブを冷やし、ドアを開けてアサギが部屋へ入る。間に合うはず、そうアサギは呟いたが――
「あ、ああ……」
部屋はもはや火の海と化しすべてが炎に包まれていた。寝ていたソファも、美月のベッドも、テレビも何もかも。
「あ……! <ブリザイン>!」
そこで床に転がる狼のぬいぐるみを見つけ、魔法で道を開けて駆け寄ろうとするアサギ。だが、炎の勢いは一度魔法を使っただけではおさまらず、無情にも狼のぬいぐるみは炎に飲まれてしまった。
「う、うそ……」
「おい、ここはもうダメだ! 逃げるぞ! ごほ……」
「嫌……」
「何を言ってい――」
振り返ったアサギの顔を見て言葉を詰まらせる仁。アサギの目には大粒の涙が零れていた。この強気な魔王がこんな顔をしていたことがあっただろうか。
自分と戦っている時も、この世界に放り出された時も、本気で泣いたことはただ一度も無かった。アサギの腕を掴んで固まっていると、アサギがポツリと口を開いた。
「……私ね、魔王でしょ? お父様たちに溺愛されていた理由、ちゃんとあるの。一人娘ということもあるんだけど、私自身にも秘密が……」
見たことのない儚げな表情に困惑しながらも、仁は言う。
「……そんなことは今言わなくていい。ほら、今日ぬいぐるみを買ってきたからそれでいいだろう?」
するとアサギは首を振って仁の手をそっと外す。
「ダメよ。あの狼のぬいぐるみはあんたが最初にこっちでくれたプレゼントだもの。代わりは無いわ。それに、私たちが過ごした部屋はここだけ。最後になるかもしれないから言っておくね? 私、元の世界に戻りたくなかったの。今から使う力、このせいで魔王としてお父様か、あんたの国の礎としていつかは利用される運命だったから」
「それはどういう――」
「あんたの村を襲わせたのは国王。仁を勇者として焚きつけ、私を倒して手に入れるつもりだったから」
「な、なんだと……!?」
アサギは両手を天井に掲げて仁に背を向けて続ける。
「仁のお兄さんは、無事よ。死んだように見せかけて隣の国の魔王に預けたから。あんた、気づいてなかったでしょ? 監視がついていること。本当なら、仁が将軍たちを殺して、私を倒しかけたところであんたを始末。私の身柄を手に入れるつもりだったんでしょうけど。あはは! あんた、将軍たちを殺さないから監視者が城の入口で困ってたわよ!」
そんな馬鹿な、と仁は思うが、確かに村が襲われた後、兄が勇者として連れていかれたのは早すぎたと思い返す。手際が、良すぎたのだと。
「今、それを言う必要はない。行くぞ」
嫌な予感が仁を襲い、アサギに手を伸ばすと、バチっと魔力の壁に阻まれた。全盛期とまではいかないが、相当な力がアサギをまとっていた。
「お前……その力は!?」
「言ったでしょ、帰りたくなかったって。あんたと一緒に、美月ちゃんとあっちゃんとずっと暮らしていきたかったなあ」
そう言って笑った後、
「ごめんね、仁はいつか帰してあげるつもりだったんだけど……【ディメンジョン・リターン】」
「待て――」
魔法かなにかを使ったアサギ。次の瞬間、ぐるぐると目の前が回り、仁はたまらず膝を付く。気持ち悪い頭を振りながら周囲を見ると、空間が色を失ったような状態になり、炎が動きを止め外の様子も静かになっていた。
そして――
「ば、馬鹿な……!?」
仁は驚愕する。
それも無理はない、部屋の中が、外が、みるみるうちに逆再生の映像のように修復されていくように見えた。しかし、仁はふらふらと立ち上がりながら言う。
「いや、違う……戻っているんだ……! 燃える前、俺達が出かける前の状態に! こ、こんな魔法が存在するはず。おい、魔王! これは一体どういう――」
ドサッ……
仁が目の前に立つアサギに声をかけると、急に周囲は色を取り戻し、アサギは糸の切れた人形のように倒れた。
「全部元に……おい、しっかりしろ!」
いくら揺すってもアサギは返事を返さず、死んだように眠っていた。最後に呟いた『ごめんね』は一体どういうつもりだったのか。
仁は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じ、ハッとしてアサギの胸に手を当てて鼓動を確かめた。
「心臓は……動いている……生きてはいるようだが……」
ホッとする仁。
「……だがまだ話は終わっていない、他にも聞きださなければいけない……!」
窓の外を見れば、野次馬や消防団員が面くらった顔でざわざわしていた。どうやら、あの魔法を使っている間は周囲の時間は止まっているらしい。
「なんで俺は動けたんだ? いや、それよりも病院へいかねば」
アサギを抱えて立ち上がり、病院へ行こうとした仁に、さらに恐るべき事態が起こる。それはドアを蹴破るように入ってきた敦司によってもたらされた。
「よくわからねぇが火事が消えたみてぇだな! それより大変だ仁さん! 三叉路が……連れ去られた……!」
「何だと!?」
顔を腫らした敦司が血をペッと吐きながら事情を告げる――
◆ ◇ ◆
――数十分前
「ああ……アサギさん……」
「大丈夫だ、仁さんが連れ戻してくれるって! それにしてもお前の部屋が火事になるなんてな……」
「はい……。でも、思い返してみると火を扱ってたのは昨日の夜で、今朝は電子レンジしか使ってなかったはずなんです」
「んだと……? ……放火、にしちゃピンポイントすぎるしそれならゴミ集積場でも燃やすだろうし……」
そう敦司が呟いたところで、美月の姿がフッと視界の端から消えて敦司は即座に振り返る。
「……!?」
野次馬の中に引きこまれる美月の姿が見え、敦司はそれを追う。
「は、離して!」
美月は路地裏へと引き込まれていた。向こう側には先日攫われそうになった時に見たリムジンが見えていた。抱えて走る男はやはりその時の男、速水だった。
「やっと隙ができたな……! このまま連れて行く。あの生意気な女も連れて行きたかったが、まさか火事の中にへ突っ込んでいくとは思わなかったぜ」
「あなたはやっぱり……! まさか、部屋を燃やしたのは!」
「黙ってついて来ればいいんだよ! 次はお友達が痛い目を見る番だぞ?」
「ぐ……」
美月の顔が悔しさと後悔で歪んだ瞬間、速水が吹き飛び、美月が地面に転がった。
「ぐあ!?」
「はあ……はあ……大丈夫か三叉路!」
「美月です! 先輩助けに来てくれたんですね!」
「当たり前だ! こいつ、この前の……やっぱり三叉路を狙ってやがったのか! てめぇ、目的はなんだ? って、嫌らしいことに決まっているか」
速水は敦司に怒号を受けながらも立ち上がり、忌々し気な目を向けながら言う。
「その娘がどういう人間か知らないのか? 話していないならそれでいい。ガキが首を突っ込むな!」
「ハッ! 友達が困ってるなら助けるもんだろうが!」
手を伸ばしてくる速水を殴り飛ばし、激高する敦司。
「こいつが嫌がってるなら、てめぇらは悪い奴らだろうが! こいつが何者かはどうでもいい。俺の友達ってだけで十分だ!」
「ぐっ……クソが! 強い……! 仕方ない! ……やれ!」
「何だと? うぐあ……!?」
「先輩!? きゃあぁぁ!」
速水が合図した瞬間、背後から殴られ敦司が美月から離れてしまう。その隙に速水が美月を連れて走り出す。
「ま、待ちやがれ……!」
「残念だが諦めな。あの娘は友達にするにはちょっと身分が足りないな」
「!?」
男に蹴り上げられ呻く敦司。
「追おうなんて思うなよ? 次は手加減できん」
「く、そ……」
咳きこむ敦司が回復するころにはすでに姿が見えなくなっていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる