前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪

文字の大きさ
28 / 258
力を手に入れるために

27.その覚悟が欲しかった

しおりを挟む

 「なんだって……!?」
 「ど、どうしたんだいアル?」

 カーネリア母さんの不妊が治る。
 リグレットの言葉で俺は驚愕の声を上げ、手を引こうとしたカーネリア母さんが驚いた顔で振り返ってきた。

 ゼルガイドさんの両親も『どうしたんだこの子』って顔でまじまじと俺を見つめている。
 後は使い方だが、使えるようになったとしてもひとつ気になっていることがある。

 それは目を丸くして俺を見ているゼルガイドさん。
 辛辣なことを言ったがこの人はこの人でしがらみがあるのも分かる。
 
 だけど、愛しているというのであればそれくらいの『覚悟』を口にして欲しい。

 俺が思うにこの場には真に悪い人間は誰も居ない。
 ただ、全員が誰かを想って、それが嚙み合わないだけなのだ。
 
 そしてこの沈黙した場を打ち破ったのは――
 
 「父さん、母さん、アルのおかげで目が覚めた。俺はやはりカーネリア以外の女性と結婚する気にはなれない。どうしても許してもらえないならこの家を捨てさせてもらう」
 「ゼル……!?」
 「な、なにを……」

 そう言って首から下げていたペンダントを外してテーブルに置いた。
 模様が入っているのを見ると家紋かなにかを示しているものだろう。

 「考え直せ、資産も何もかも失うのだぞ? 騎士団長の座も危ういかもしれん」
 「それでも、今回は譲れない。……俺が間違っていた、離婚話が出た時に父さん達に気圧されずもっと強く引き止めるべきだったんだ」
 「……」

 母親が険しい顔で黙り込むと、ゼルガイドさんは俺と目線を合わせるためにしゃがむと、頭に手を置いて少し力なく笑った。

 「ごめんな、アル。子供に言われるなんて情けない男だよ、俺は。それとありがとう。目を覚まさせてくれて」
 「……もうカーネリア母さんを泣かせない……?」
 「ああ。約束する」

 オッケー。
 いい目だ。

 なんだかんだでこの親父さんとおふくろさんはいい人だと思うんだよな。
 もっと酷い親なら幼少時に逆らえなくくらいトラウマを与えてくることもある。
 だけど、一度は結婚させているあたりゼルガイドさんの考えを優先してくれていたのだろう。
 ただ、跡取りの問題は見過ごせないからな。カーネリア母さんを見る目はある意味覚悟を持って排除しようとした目だったからだ。

 なら、全員が上手くいく方法は?
 
 ……やるしかないよな。

 <力の使い方は簡単です。左手を再生したい箇所に手を当ててマナを放出してください。一言【再生の左腕セラフィム】と>

 実は頭の中は聞かれているんじゃないかと思うくらいのタイミングでリグレットが呟いた。
 俺はゼルガイドさんの手をやんわり外してカーネリア母さんの下腹部に手を当てる。

 「カーネリア母さんもまだゼルガイドさんのこと好きだよね? 大丈夫、二人には子供がきっとできるよ」
 「アル、さっきからどうしたんだい? あたしのお腹はね――」
 「大丈夫……大丈夫だから……! 【再生の左腕セラフィム】」
 「え?」
 「なんだ……!?」
 <あ、いきなりは――>

 俺がスキルとやらを使うと、ビクンと左腕が跳ね上がり、マナがカーネリア母さんのお腹に吸い込まれるように消えていく。
 目の前がチカチカし、どっと冷や汗が噴き出す。
 まずい、これは、また倒れるやづ、だ……

 「う……お、お腹が……熱い……アル、一体何を……。ってアル!? や、止めないアル!」
 「うぐぐ……ま、まだ……マナを……」
 「鼻血が出ているよ! ……うう、い、痛い……お腹が……ゼル……アル……」
 「カーネリア!? アル、一体なんだって言うんだ!? アル、ア――」
 
 だんだん目が霞んでいく……だ、大丈夫なのか……

 <危険な状態です。カーネリアお母様の再生は成されました。アル様、マナの放出をストップしてください>

 お、終わったか……それなら、良かった……

 リグレットの声が響く中、俺はカーネリア母さんに抱き着く。

 「これで……赤ちゃんが……」
 
 
 ◆ ◇ ◆

 ――スキルを使ったその後のことは覚えていない。
 
 気づけばなんと、あの日から丸一日経っていた。
 
 カーネリア母さんは最初苦しんでいたようだが、数分程度で回復し、すでに来なくなっていた生理が急に来て焦っていたと聞いた。
 ゼルガイドさんのおふくろさんに、だ。

 俺とカーネリア母さんはゼルガイドさんの実家で休むことになり、仕事に出て行くゼルガイドさんの代わりにおふくろさんが看病してくれていた。

 実際、おふくろさんはカーネリア母さんが嫌いというわけではないと語ってくれた。しかし、先の跡継ぎ問題に加えて、子ができない女性は貴族界隈で笑いものにされる懸念もあったらしい。
 一応、カーネリア母さんを守るためだった、ということだ。

 「私達とて一人息子のゼルガイドは可愛い。できるだけ望むようにしてやりたいのだ。……しかし、私に反抗するとは、歳をとったかな」

 ある意味イエスマンだったゼルガイドさんがあそこまでハッキリ言いきってペンダントを置いたのは驚いたと親父さんは言っていた。
 
 で、カーネリア母さんはというと……

 「……まさか……信じられませんが……病魔に侵されていた子宮が元通りに……」
 「ええ……!? そ、それじゃあ」
 「はい、お子さんは期待できると思います」
 「嘘……」

 医者があり得ないといった顔で妊娠できるというお墨付きを与えることになった。
 
 虫のいい話だが、そのことで両親は謝罪し再婚することになったのだ。
 ま、これでこの家はまとまるだろう。
 俺としてもカーネリア母さんに子供ができるのは喜ばしい。
 
 何故なら、俺はどうあがいてもいつかはあの黒い剣士の女を探すためここから去る。負の感情で生き、復讐に身をやつす俺よりも愛を注げる本当の子供がいるべきなのだと俺は思う。

 そして俺とカーネリア母さんはゼルガイド父さんと共に屋敷で一緒に暮らすことになるのだった――
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す

金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。 「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」 魅了魔法? なんだそれは? その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。 R15は死のシーンがあるための保険です。 独自の異世界の物語です。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...