105 / 258
ツィアル国
101.化かし合い
しおりを挟む「ようこそ、冒険者。この方がツィアル国王の、ヨルダ=ライク=ツィアルである。そして私はこの王宮に仕える魔術士兼陛下の主治医であるカーラン=マクワイルドだ」
クソエルフことカーランが仰々しくそんな自己紹介をしてくれる。
知ってるっつーの! ……とはいえず、グラディスと共に膝をついて次の言葉を待つ。
さて、どうやら目標の人物との接触に成功したらしい俺はマフラーの下にある口元を緩めていた。ここまでは本の目論見通り。
ここからはどういう経緯を辿って討伐になるのかを確認しなければならない。
本にはそこまでのことが書かれていなかった……というより、俺がそれを聞いていないからなのだが。
ともあれ、まずはこいつの話を聞くべきかと耳を傾ける。
「お前達の活躍、聞き及んでいる。ここへ来てそれほど警戒していないのにも関わらず、魔物を相当数狩っているとな。……名を名乗れと陛下が仰せだ」
なんだ? 国王は喋れないのか……?
とりあえず俺の正体を知っているかどうか、確かめる時が来たか。
「はっ、おほめにあずかり光栄でございます。僕の名はアルフェン、人族です。こちらは魔人族のグラディス。二人で活動をしています」
「なるほど……魔人族か。それならば魔物くらいなんとでもなるか。それにしても子供がどうして冒険者に?」
「彼は人族の言葉を話せないので僕が代弁をしております。代わりに戦力を提供してもらっていると思っていただけると」
俺の言葉にフードが揺れ、下の口が動く。
「確かに理に叶っているな。話せなければ依頼は受けられない。だが、子供だけでは魔物を倒すのはかなり厳しい。賢いなお前は」
「いえ、生きるためには知恵を絞らねばなりませんので」
「面白い小僧だ。……そうですな。二人とも顔を上げて良いとのことだ」
カーランに言われてグラディスにも魔人語でそう告げ、俺達は顔を上げる。
こいつは俺の顔を知らないはずだが、万が一のためにマフラーをしていた。
大将達がピンポイントでさらった理由が分からないからな。
「……いい顔つきだ。苦労をしているな?」
「いえ……」
反応なし。
となると、大将はエドワウの屋敷で【呪い】を解いたときに送られてきた監視役だったってことか? 一ヶ月あれば特定はできるかもしれないが……
そんなことを考えていると、カーランが本題に入った。
「さて、お前達を呼び出したのは他でもない。依頼の乱獲を止めてもらいたいからだ」
「依頼を、ですか? それはどうしてでしょう?」
「そこを詮索する必要はないな。お前達は黙って言うことを聞けばいいだけだ」
「……お言葉ですが、冒険者が魔物を退治してお金を稼ぐのが基本。それをやるなと言われれば僕達はご飯を食べられなくなります」
ちょっと生意気な口調だが、子供らしく感情で反論をしてみる。とはいえ、これは正論だろう。冒険者に依頼をするななど、有り得ない。
ゼルガイド父さん達のようにその分、兵士が肩代わりをしているならまだしも、それもやっていない。
故に依頼が溢れているのだからな。
「国とてそれほど金があるわけではない。税金が望めぬ今、冒険者に払う金は無いということだ」
「なるほど……しかし、魔物が増えて困っているのは国民や領民では? そこを改善しない限り、増税は見込めないと思います」
「生意気を言う。……まあ、言いたいことはわかるが、国を亡ぼすわけにはいかん。意見として聞いておこう」
「では、僕に代わりの金策を教えていただけるということですかね?」
俺は目を細めてそう返すと、カーランが口をへの字にして少し考える仕草をし、国王に顔を近づける。
このまま牢にでも入れるか? 陰湿なこいつならやりそうだ。
「陛下からの言葉だ。金をやるわけにはいかん。知っているかは分からんが、現在、魔人族の国と我が国は折り合いが悪い。そちらの男を理由にして追い出すことはできるが?」
「なるほど……では、なにかお手伝いできることはありませんか? それか依頼をどの程度まで許容できるのかを提示していただきたい」
この国のために、とは言いたくないができれば前者でなにか提案をしてくれると助かる。王宮に入る口実ができるからな。
しかし、グラディスがここでネックになったかとも感じていた。
まあ、いきなり処刑やら追放やらされないだけマシと思うしかないか。
考えているようだがどうする?
ここで追い返されてもまだ手が無いわけじゃないが、ひとつ聞いてみるか。
「……決めかねているならひとつお話を。実を言うと、僕がここに来た理由は立ち寄った村が襲撃されて、村人が誘拐されたことを聞きつけたからなんです。
折角なのでお伺いしたいのですが、そういった情報はありませんか? ギルドでは分からないらしいのですが……」
「……!」
ふむ、フードが揺れたか。
そう思っていると、カーランが口を開く。
「……聞いたことがないな。そんなことが合ったのか? あそこはルイグラス殿の管轄だったはずだが、報告が無い」
「そうですか」
「アルフェンとグラディスと言ったな。金が欲しいなら私の仕事を手伝ってもらおうか」
「なんなりと。どういった内容かお伺いしても?」
「もちろんだ。冒険者はなにも魔物を倒すだけが仕事ではあるまい。この王宮は近く起こるであろう戦に備えて改築を考えている」
戦……イークンベルか魔人族か……? どっちとだ? 攻めてくるとすれば魔人族だろうが……
「そこで力のある人手が欲しいのだ。となればそこの魔人族の男はちょうどいい。通訳としてアルフェンも雇ってやろう。まあ、金額は少ないが寝泊りと食事、少々の小遣い程度にはなる」
「ふむ……一日、3000ルクスくらい、ですね」
「不満か? 3500でどうだ」
冒険者にしちゃ少ないが、これはチャンスか。
俺はグラディスに相談すると、任せると言ってくれたので返事をする。
「承知しました。俺も役に立つことが分かれば値上げを要求しても?」
「……がめつい子供だ。まあ、私がそう思えればな」
「死にたくはありませんからね」
「素直なのは結構だが、あまり調子にのると早死にするぞ」
「はい」
「では追って通達する。今日は帰ってもらっていい。契約書を明日までに用意しておくから、早朝尋ねてこい」
俺は特に何も言わずに頷き、踵を返して謁見の間を出るため歩き出す。
すると――
「……待て、アルフェン。お前の顔、どこかで見たことがあるような気がする。そのマフラーを取ってみろ」
「申し訳ございません、大きな傷を負っておりまして、お見苦しいかと思いつけているのですが……」
「構わない。見せろ……。う……」
「申し訳ありません」
「も、もういい、行け」
その場でお辞儀をして謁見の間を出ていく。
マフラーの下には遠目からでは分かりにくいが、酷く焼けこげたように細工してあるのだ。
……さて、二つ失言を取れたな。
一度ルイグラスに連絡を取りたいところだがどうするかね?
2
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
魔法学校の落ちこぼれ
梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる