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サンディラス国の戦い
191.一触即発か三者三様か
しおりを挟む「野郎、マジで話が通じねえとはな」
「だいたい陛下の言った通りになったわね。それにわたしのこと嫌らしい目で見てたし!」
「それは気のせいだよロレーナ」
「酷い!? でもアルフェン君、かわいいから好き!」
「暑苦しいからやめろ!?」
というわけで交渉はあっさり決裂。
ダーハルの言い分としては、国民のために北の山を切り開き、草木のあるライクベルンの土地の一部と、トンネルを抜けた先にあるジャンクリィ王国の一部をサンディラス国の領土としてくれれば国交は続けるというのだ。
もちろんそんなことができるはずもないので、陛下にお伺いを立てるまでもなく受け入れられないと返したところ城を追い出されたというわけ。
なのでここ最近国境に近い町で砂塵族が荒らしているのはほとんどわざとということである。
もちろん、本当に辛くて移住をしたいと考えている人もいるので線引きが難しい。
爺さん曰く、曖昧にするためあえて自国民を外に出して泳がせている可能性が高い、ということらしい。
「……戦争、か」
「ギルディーラ殿とは戦いたくありませんな」
「俺とて‟死神”や他の強者を同時に相手にすればケガもする。お互い様だろう」
一応、見送りで一緒に来てくれたギルディーラがそんなことを言う。
謙遜はしているが『負けるかも』ではないあたり、プライドと確固たる自信が垣間見える。
表情から本音としては戦いたくないって感じがするけどな。
「まあ、俺は死ぬわけにはいかないし全力で殺しにかかるよ?」
「お前は参加させんぞ」
「え!?」
「わざわざ孫を死地に送る真似はせんだろう……。しかし困った王だ、雇われだから逆らう訳にもいかんしな」
俺を抱え上げてため息を吐くギルディーラ。
グラディスといい、敵対しない相手にはホント優しいよな魔人族。
そこでロレーナがギルディーラの腰に手を当ててから口を開く。
「お父さん強いし、追手を振り切れるんじゃ? 言うことを聞く必要もないでしょ」
「誰がお父さんだ。……こちらにも事情がある、そう簡単にはいかんのだよ」
「じゃあ死んだふりしてよ」
「いい度胸してるよねロレーナって……」
「じゃあな。そういえば宿はどこにするんだ?」
口を尖らせるロレーナに苦笑する俺とギルディーラは門のところで立ち止まり、ここまでだと言ってこの場を立ち去っていく。一応、
俺達は城を見上げた後、
「結局、無駄足だったということか……」
「馬鹿を言うなイーデルン『宣戦布告』をしてきたことを陛下に伝えるまでが遠征ぞ」
遠足かな……?
そんな話を爺さんがしているが、声を潜めてから本題を続ける。
「……問題はここからだ。こちらの使者をめった打ちにして返してきたことからわかるだろうが、わざわざ宣戦布告した相手を生かして返す王とは思えん。追撃があってしかるべきだと思え」
「た、確かに……」
「先ほどの『魔神』が追手だった場合、誰か一人が逃げ延びる、くらいは考えるべきだな実際」
オーフがそういうと、ライクベルンの騎士達は顔を歪める。こんなところで死にたくないって感じか。しかし命令は遂行しなければ意味が無い。
さて、このままだと爺さんの言う通り追手を相手にすることになりそうだ。
「アルフェン君はわたしが捕まってえっちなことされてもいいっていうの!?」
「なんの話だよ! 暑いからくっつくなって!」
とりあえず町中では襲ってこないだろうということで今日のところは一泊することにしたが――
◆ ◇ ◆
「見たかい、あいつらの顔。傑作だったよ、ライクベルンの将軍とやらも大したことないね」
「……お言葉ですが、横に居たのは元将軍で死神の異名を持つアルベール殿でした。退役したとはいえその強さに陰りは無いかと思います。彼が戦争に参加するというのであれば、こちらも犠牲を覚悟せねばなりますまい」
「うるさいね君は。そのために魔神ギルディーラ殿を雇ったんじゃないか。この国の未来を考えると砂漠以外の土地を確保しておかないとね」
ダーハルは頬杖をつきながら右手を広げて笑みを浮かべる。砂漠化がこれ以上進めば人も住めない土地になり果てるに違いないからである。
「せめて雨がしっかり降ればとは思うけど、木を伐採しまくったからってここまで干上がるのはおかしいよ。なんかの【呪い】かねえ。ま、そういうことだからバルケン、ちょっとあいつらを返さないようにしてくれ」
「……何人かは確実に死ぬぞ、ダーハル」
「僕は死なない。家臣ってそういうもんだろ?」
悪びれた様子もなくいってのける彼にバルケンがため息を吐いていると、腕を組んで聞いていたギルディーラが口を開く。
「……で、先代はどこへ行ったのかわからないのか?」
「……さあね? 頭がおかしくなっていたから見る影も無いと思うよ。まあそれでも会いたいというなら戦争で勝ってから教えてあげるよ」
「先代はなにか言っていなかったか?」
「んー、水神様が……とかぶつぶつ言ってたかなあ? 気持ち悪かったよ……クソ親父が……。ま、今は僕が王だ、頼むよギルディーラ」
そのお願いには答えず、ギルディーラは謁見の間を出て行く。
昔はこういう性格ではなかったはずだが、時は残酷だなと思いながら――
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