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黒い剣士、再び
225.陽動と潜入
しおりを挟む――朝に紅顔ありて夕べに白骨となる、ということわざがある。
どういうことか?
『この世は無常で、人の生死は予測できないこと』である。
黒い剣士が襲撃してきた時はまさにこの言葉を思い浮かべたものだ。
なぜ今になってそんなことを思ったのか?
「そんじゃ、行ってくるねー! 帰ったら一緒におやつをたべようねルーナちゃん、ルークちゃん!」
「僕は男の子だよ!」
「気を付けてな、妹を頼むぞディカルト」
「おう、すぐに合流するぜ!」
……それは今から陽動へ行くロレーナとディカルトを見て、ふとそう思ったからだ。水神の時にも二人は居たが、俺も一緒に行動していたためそんなことは思いもしなかったが、今回は二人。
たった二人で一番危険な陽動を担うため、あの時のことを思い出してしまった。
もちろん信用していないわけじゃない。
だけど相手は黒い剣士たちの一味で、得体のしれない死に方をする人かどうかもわからない存在。
だからふとよぎったのかもしれない。
「……無事に合流してくれよ」
◆ ◇ ◆
「一番人が多そうだったのは西側でいいわね?」
「ああ。灯りの数が多かったからな、ひとまずそれでいいと思うぜ。それにしてもこんな危険なことによく付き合ったよな。一家は育ての親みたいだけど、小さい子もいるし」
「ま、わたし達もアルフェン君には助けられたからね。オーフがゴブリンロードと戦った時に死んでいたかもっていうのもあるし、そもそも無理を言ってついてきてもらった恩もあるからさ」
わたしことロレーナは随伴するディカルトへ笑いながらそう答える。
それだけが理由ってわけじゃないけど、彼に話しても理解は難しいと思う。
アルフェン君……アルが居なかったら最後の肉親も死んで途方に暮れるところだったもんね。
そっちの未来が『どうなるのか』という興味はあるけど、そうならなかったことの喜びの方が大きい。
わたし達兄妹は元第一王子、現ジャンクリィ王国の宰相を任されている人の子。
遊びで妊娠させたメイドが子供を育てているのを見て、疎ましく思って山奥の村に捨てた、というのが真相らしいがそのあたりはよく知らない。
現在王位を継承せず宰相をしているあたり、失脚したとも考えられるけど、王族ならもみ消すくらいはやりそうなんだけどねえ。
母親は村でゆっくり過ごしているので、お金や食料を持ってたまに会いに行っている。父のことを尋ねても『あの人は不器用だったから。私が悪かったの』と困った顔をするだけで攻める様子はない。
第二王子、今の王様も良い人でわたし達に報酬の良い依頼を回してくれるため母は不自由なく過ごせている面もある。
……父とは顔を合わせることは無いんだけどね。
ジャンクリィ騎士団長のフェイバンは陛下の息子、第二王子なので彼とは従兄にあたる。
彼も親身になってくれるからわたし達はしっかりとした訓練を受けて二つ名をもらうような強さも手に入れた。
わたし達……いえ、わたしは運がいいのだろう。
この世界に産まれて複雑な家庭だったとはいえ母は生きているし、父も兄も健在。……ちょっとオーフは危なかったみたいだけど、アルのおかげで今も元気だ。
だけどアルは両親を今まさに倒そうとしているヤツに殺され、人生を狂わされた。
今度はこちらが助ける番だよね。
「さて、と。これに着火したらもう後戻りはできないわ、覚悟はいい?」
「くっく、そんなもんオレが復讐を終えた時から済んでいるぜ? やっちまいな」
「オッケー。『軽き熱よここに』<ファイア>」
そういえばディカルトは村を潰されたことがあるってアルが言ってたわね。
お父さんもそうだし……こういう復讐者《リベンジャー》が集まっているのは偶然なのかな?
とりあえずアル達が潜入する時間を早く作ってあげないとね!
わたしは作った1本のダイナマイトに火をつけると適当なキャンプの中へと投げ込む。
人質の可能性は考えたけど、国境での戦いを見る限り人を巻き込むつもりはないのかと思いその考えは捨てた。
「次、行くわよ」
「おう」
投げた瞬間、サッと移動を始め、暗がりで有利な林の中を移動し、都合四本のダイナマイトをあちこちにばらまき――
「ぐあああああ!?」
「て、敵襲! 皆の者、攻撃に備えろ!!」
「む、向こうでも爆発が!」
「ぎゃあああ!?」
「い、今ので何人やられた!?」
――一瞬で場が騒然となる。
「す、すげぇ威力だな……!? 耳がキーンってなったぞ!?」
「もう少しやっとく?」
「……いや、切り札としてとっとけ。奴等、展開が早い。アル様のところへ戻るぞ」
「わかったわ、なら――」
「こんな夜更けに逢引きかな? 随分と火薬臭いがね?」
「「……!?」」
その時『なら、アルと合流を』と言いかけたところで背後から声がかかり息を飲むわたし達。
ゆっくりと振り返るとそこには黒い鎧を着た例の敵さんが立っていた。
「そう思うならあんたはのぞき見ってことになるけど、趣味が悪くない?」
「まったくだぜ。こいつは高くつくぜ……!」
そう答えながらディカルトはすでに攻撃を仕掛けていた。
「受け止めた……!?」
「くく……あの爆発はお前達で間違いなさそうだな、目的はわからんが……捕まえて吐かせればいいか」
男はなにかを空に飛ばし、すぐに音を立てる。
恐らく、仲間を呼んだのだろう。
「長引くと不利か、一気に叩くわよディカルト……!」
「行くぜ!!」
こっちは……なんとかするしかない。
アル、後は任せたわよ。
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