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23-1 寿司と腐女子
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絵梨花の今日の服装はシンプルだ。ジーンズに黒いトップス、それに黒いキャップを被っている。絵梨花が店の前で立っていると、少し離れたところから背の高い男と小柄な男が駆け寄ってきた。背の高い方の男、孝太郎がすみません、と絵梨花に謝った。
「お待たせしてごめんなさい」
そう謝る孝太郎に絵梨花は、何言ってるのよ~、と突っ込んだ。
「まだ待ち合わせ10分前でしょ。2人が並んで来るところ見たかったから早めに来たの」
ふふ、と笑って絵梨花は孝太郎の隣にいた春に話しかけた。
「孝太郎の、彼氏さんね」
彼氏、というフレーズに顔を赤らめた春が緊張しながら頭を下げる。絵梨花が、ごめんねぇ、と両手を合わせた。
「どうしても、どうしても孝太郎の彼氏さんと3人でご飯食べたかったの……! 推しと推しの彼氏と3人でご飯食べるのが夢だったのよ~!」
「あの……ありがとうございます」
いきなり春が絵梨花にそう言った。絵梨花が首を傾げていると春が言った。
「絵梨花さんは……孝太郎くんに告白するように後押ししてくれた人だと聞きました。ありがとうございます。ぼくから言う勇気はなかったから……それがなかったら付き合ってなかったかも……絵梨花さん?」
絵梨花はその場でしゃがんで、悶えていた。
「ごめんなさい!! ただの発作なの気にしないで! ただ尊いだけだから!」
すっくと立ち上がり、行きましょう、と絵梨花は孝太郎に促した。わかりました、と絵梨花を置いて春と歩き出した孝太郎に春がこそっと言った。
「ちょっと、絵梨花さん置いて先に歩いてていいんですか? ぼく女性とデートしたこと無いですけど、それが駄目ってことくらいわかりますよ」
えっと、と説明しにくそうに孝太郎は春に言った。
「彼女の希望で、その……おれたちの後ろを歩きたいって言われてるんです」
春が少し振り返ると絵梨花は春に手を振った。その様子はムッとするどころか上機嫌にしか見えなかった。春が言った。
「やっぱりぼくは女性の気持ちはわからないみたいです……」
孝太郎は、はは、と笑った。2人の自然な様子が見たいという絵梨花の希望で、絵梨花が腐女子だとは春には話していない。ただ以前に焼肉屋で会った指名のお客さんが3人で食事したいと言っている、と伝えただけだった。
「春さん、今日は付き合ってもらってすみません。今日の分はおれが出しますのでいっぱい食べてくださいね」
「いえいえ。ぼくも直接お礼言えてよかったですし……なんだか、嬉しいです。紹介してもらえて……紹介されて他の人から恋人だって認められるの、恥ずかしいけど嬉しいものですね」
絵梨花が2人の後ろで、可愛い、と呟いた。春が振り返ると絵梨花は、ごめんなさい、と謝った。
「でも本当に可愛い! 春くんも2人の会話も空気感も可愛い! 春くんがホストじゃなくて悔しいよ~! もしそうだったらダブル指名で通うのに!! でもそうなったら歯止めきかずに破産してたかもだからある意味助かった……」
「そ、そんな……ぼくがホストなんて無理です!! ただの陰キャのオタクですし……」
「キャー! こんな、こんな子いるのね。無自覚イケメンなんて現実にはいないと思ってたのに!」
つきましたよ、と孝太郎が2人に声をかける。ついたのは歌舞伎町から少しだけ離れた寿司屋だ。3人は奥の個室に通される。個室がいいと言ったのは絵梨花だ。手前の席に孝太郎と春が並んで座り、奥に絵梨花が1人で座る。春が孝太郎に言った。
「あの……席、ぼくに気にせず奥に座っていいですよ」
指名客の隣に座るべきではと気遣った春にすかさず絵梨花は口を挟んだ。
「気にしないで。私、イケメン2人を見ながらご飯食べたいから」
「お待たせしてごめんなさい」
そう謝る孝太郎に絵梨花は、何言ってるのよ~、と突っ込んだ。
「まだ待ち合わせ10分前でしょ。2人が並んで来るところ見たかったから早めに来たの」
ふふ、と笑って絵梨花は孝太郎の隣にいた春に話しかけた。
「孝太郎の、彼氏さんね」
彼氏、というフレーズに顔を赤らめた春が緊張しながら頭を下げる。絵梨花が、ごめんねぇ、と両手を合わせた。
「どうしても、どうしても孝太郎の彼氏さんと3人でご飯食べたかったの……! 推しと推しの彼氏と3人でご飯食べるのが夢だったのよ~!」
「あの……ありがとうございます」
いきなり春が絵梨花にそう言った。絵梨花が首を傾げていると春が言った。
「絵梨花さんは……孝太郎くんに告白するように後押ししてくれた人だと聞きました。ありがとうございます。ぼくから言う勇気はなかったから……それがなかったら付き合ってなかったかも……絵梨花さん?」
絵梨花はその場でしゃがんで、悶えていた。
「ごめんなさい!! ただの発作なの気にしないで! ただ尊いだけだから!」
すっくと立ち上がり、行きましょう、と絵梨花は孝太郎に促した。わかりました、と絵梨花を置いて春と歩き出した孝太郎に春がこそっと言った。
「ちょっと、絵梨花さん置いて先に歩いてていいんですか? ぼく女性とデートしたこと無いですけど、それが駄目ってことくらいわかりますよ」
えっと、と説明しにくそうに孝太郎は春に言った。
「彼女の希望で、その……おれたちの後ろを歩きたいって言われてるんです」
春が少し振り返ると絵梨花は春に手を振った。その様子はムッとするどころか上機嫌にしか見えなかった。春が言った。
「やっぱりぼくは女性の気持ちはわからないみたいです……」
孝太郎は、はは、と笑った。2人の自然な様子が見たいという絵梨花の希望で、絵梨花が腐女子だとは春には話していない。ただ以前に焼肉屋で会った指名のお客さんが3人で食事したいと言っている、と伝えただけだった。
「春さん、今日は付き合ってもらってすみません。今日の分はおれが出しますのでいっぱい食べてくださいね」
「いえいえ。ぼくも直接お礼言えてよかったですし……なんだか、嬉しいです。紹介してもらえて……紹介されて他の人から恋人だって認められるの、恥ずかしいけど嬉しいものですね」
絵梨花が2人の後ろで、可愛い、と呟いた。春が振り返ると絵梨花は、ごめんなさい、と謝った。
「でも本当に可愛い! 春くんも2人の会話も空気感も可愛い! 春くんがホストじゃなくて悔しいよ~! もしそうだったらダブル指名で通うのに!! でもそうなったら歯止めきかずに破産してたかもだからある意味助かった……」
「そ、そんな……ぼくがホストなんて無理です!! ただの陰キャのオタクですし……」
「キャー! こんな、こんな子いるのね。無自覚イケメンなんて現実にはいないと思ってたのに!」
つきましたよ、と孝太郎が2人に声をかける。ついたのは歌舞伎町から少しだけ離れた寿司屋だ。3人は奥の個室に通される。個室がいいと言ったのは絵梨花だ。手前の席に孝太郎と春が並んで座り、奥に絵梨花が1人で座る。春が孝太郎に言った。
「あの……席、ぼくに気にせず奥に座っていいですよ」
指名客の隣に座るべきではと気遣った春にすかさず絵梨花は口を挟んだ。
「気にしないで。私、イケメン2人を見ながらご飯食べたいから」
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