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明は快くオッケーして、すぐに店から出てきた。
「どうも~狐塚明です。孝太郎とは大阪時代からの付き合いです」
そう名乗った明に、愛華が恥ずかしそうに頭を下げる。あまりこういうのは慣れていないようだ。行きましょうか、と4人で予約していたコンセプトカフェに移動した。そこは不思議の国のアリスをモチーフにしたような可愛いレストランだった。
「なんやお腹すかせてきたらよかったわー。来る前にこいつにカレー食わされて、今可愛いの食いたいのに全っ然腹減ってへん」
夢華が、あ、と声を上げた。
「もしかしてこのカレーですか?」
そう言って孝太郎からもらった紙袋を明に見せると明は、ちゃうちゃう、と否定した。
「そのカレーは大事なお客さんにあげるからあかんって断られておれが腹いっぱい食わされたんただの牛丼屋のカレーやで。冷たいわ~。おれが大阪から出てきて一発目の外食それ」
愛華と夢華が、ふふ、と笑った。
「明さん、すっごく関西の人って感じがします。孝太郎はあんまりぽくないのに」
「こいつキザやもんな~。大阪おるときも、おれがお客さん笑わせてる間に静かにモテてたからな」
夢華が、あれ、という顔をして孝太郎の顔を見た。孝太郎は夢華に言った。
「明さんもおれがゲイだって知ってますよ。夢華さんお気遣いありがとうございます」
「あぁ、よかった。隠さなきゃなのかなってドキドキしちゃった」
4人で和やかに食事を終えて、店に移動した。夢華がシャンパンを入れてから、自然と2対2に別れて話すようになった。愛華は明のことがかなり気に入ったようで、ずっと楽しそうに笑っていた。愛華と夢華が帰ってからも明は外のキャッチで引っ掛けたり大阪時代の東京在住のお客さんを呼んでたりして、初日とは思えないほど活躍していた。仕事終わりに明は孝太郎に声をかけた。
「かーえーろ。タク奢ったるわ」
強引に孝太郎を誘った明はタクシーに乗り込む。孝太郎は言った。
「駅前のスーパーで降りますね」
「何買うん」
「うどん買って、残りのカレーでカレーうどん作るんですよ」
「うわそれ呑んだ後に食べたいやつやん。それ、おれのもあんの」
そう尋ねた明に孝太郎は、無いですよ、と断った。
「帰ってから毎日春さんと一緒に食べる約束してるんです」
あっそ、と明は唇をとがらせる。
「お前も懲りへんな~。大阪のときノンケに失恋したってピーピー泣いてたくせに」
「今は失恋してません。付き合ってます」
「時間の問題やろ。だってお前、セックスできてないんちゃうん」
孝太郎が、しなくていいんです、と答えると明は、は、と笑った。
「セックス無しでよぉ付き合えんな。まあお前が平気でも、あっちが欲求不満で女抱きたくなったら終わりやな。綺麗な顔の子やったしあれ女いけんことは無いやろ」
そんな事にならない、とは幸太郎は答えられなかった。春が自分を受け入れるより女性を抱きたいと思うことの方が自然だと感じたからだ。それに最近の……素肌に触れたときの春の態度が孝太郎はひっかかっていた。触れるといつも春は身体を縮こまらせて固まって、すぐにやめさせてくる。
「飲み物買うからおれも降りるわ」
そう言って明もスーパーの前でタクシーから降りて、スーパーに行く。孝太郎がレジにうどんを3袋持っていくと、ペットボトルの大容量のお茶を一緒に置いて明が決済した。孝太郎が、ありがとうございます、と礼を言う。スーパーから出て家に帰る途中に明が言った。
「まぁゲイはゲイ同士が1番ええんちゃう」
「……おれにはできません」
「どういうこと?」
「だって好きになるって……条件では考えられないじゃないですか。もう春さんと出会ってしまったし他の人なんて考えられません」
「お前高校の時の失恋まんま繰り返してんな。ノンケに思わせぶりな態度とられて、最後に泣くんはコタロー1人や」
カン、カン、とハイツの外階段を上がっているとガチャ、と春が顔を出した。孝太郎が春に声をかける。
「おはようございます。うどん買ってきましたからカレーうどんしましょう」
明は春の前を通り過ぎ、自身の部屋の鍵を開けて帰る前に明は言った。
「コタローほなまた夜にな~。一緒に行こ」
明を見送った春は孝太郎に言った。
「あの人と、一緒の店で働くことになったんですね」
「あぁ、はい。もっと稼げる店にしたらとは言ったんですけど誰も知らないところは嫌だって言われて……春さん?」
春は浮かない顔をしていた。いつも自分が帰ってきたら嬉しそうな顔をしてくれるのになんで、と孝太郎は不安になる。でもキスに誘ったら応えてくれたので、孝太郎はホッとした。しかしいつか断られる日が来るかもと想像したら胸がギュッと痛むのだった。
「どうも~狐塚明です。孝太郎とは大阪時代からの付き合いです」
そう名乗った明に、愛華が恥ずかしそうに頭を下げる。あまりこういうのは慣れていないようだ。行きましょうか、と4人で予約していたコンセプトカフェに移動した。そこは不思議の国のアリスをモチーフにしたような可愛いレストランだった。
「なんやお腹すかせてきたらよかったわー。来る前にこいつにカレー食わされて、今可愛いの食いたいのに全っ然腹減ってへん」
夢華が、あ、と声を上げた。
「もしかしてこのカレーですか?」
そう言って孝太郎からもらった紙袋を明に見せると明は、ちゃうちゃう、と否定した。
「そのカレーは大事なお客さんにあげるからあかんって断られておれが腹いっぱい食わされたんただの牛丼屋のカレーやで。冷たいわ~。おれが大阪から出てきて一発目の外食それ」
愛華と夢華が、ふふ、と笑った。
「明さん、すっごく関西の人って感じがします。孝太郎はあんまりぽくないのに」
「こいつキザやもんな~。大阪おるときも、おれがお客さん笑わせてる間に静かにモテてたからな」
夢華が、あれ、という顔をして孝太郎の顔を見た。孝太郎は夢華に言った。
「明さんもおれがゲイだって知ってますよ。夢華さんお気遣いありがとうございます」
「あぁ、よかった。隠さなきゃなのかなってドキドキしちゃった」
4人で和やかに食事を終えて、店に移動した。夢華がシャンパンを入れてから、自然と2対2に別れて話すようになった。愛華は明のことがかなり気に入ったようで、ずっと楽しそうに笑っていた。愛華と夢華が帰ってからも明は外のキャッチで引っ掛けたり大阪時代の東京在住のお客さんを呼んでたりして、初日とは思えないほど活躍していた。仕事終わりに明は孝太郎に声をかけた。
「かーえーろ。タク奢ったるわ」
強引に孝太郎を誘った明はタクシーに乗り込む。孝太郎は言った。
「駅前のスーパーで降りますね」
「何買うん」
「うどん買って、残りのカレーでカレーうどん作るんですよ」
「うわそれ呑んだ後に食べたいやつやん。それ、おれのもあんの」
そう尋ねた明に孝太郎は、無いですよ、と断った。
「帰ってから毎日春さんと一緒に食べる約束してるんです」
あっそ、と明は唇をとがらせる。
「お前も懲りへんな~。大阪のときノンケに失恋したってピーピー泣いてたくせに」
「今は失恋してません。付き合ってます」
「時間の問題やろ。だってお前、セックスできてないんちゃうん」
孝太郎が、しなくていいんです、と答えると明は、は、と笑った。
「セックス無しでよぉ付き合えんな。まあお前が平気でも、あっちが欲求不満で女抱きたくなったら終わりやな。綺麗な顔の子やったしあれ女いけんことは無いやろ」
そんな事にならない、とは幸太郎は答えられなかった。春が自分を受け入れるより女性を抱きたいと思うことの方が自然だと感じたからだ。それに最近の……素肌に触れたときの春の態度が孝太郎はひっかかっていた。触れるといつも春は身体を縮こまらせて固まって、すぐにやめさせてくる。
「飲み物買うからおれも降りるわ」
そう言って明もスーパーの前でタクシーから降りて、スーパーに行く。孝太郎がレジにうどんを3袋持っていくと、ペットボトルの大容量のお茶を一緒に置いて明が決済した。孝太郎が、ありがとうございます、と礼を言う。スーパーから出て家に帰る途中に明が言った。
「まぁゲイはゲイ同士が1番ええんちゃう」
「……おれにはできません」
「どういうこと?」
「だって好きになるって……条件では考えられないじゃないですか。もう春さんと出会ってしまったし他の人なんて考えられません」
「お前高校の時の失恋まんま繰り返してんな。ノンケに思わせぶりな態度とられて、最後に泣くんはコタロー1人や」
カン、カン、とハイツの外階段を上がっているとガチャ、と春が顔を出した。孝太郎が春に声をかける。
「おはようございます。うどん買ってきましたからカレーうどんしましょう」
明は春の前を通り過ぎ、自身の部屋の鍵を開けて帰る前に明は言った。
「コタローほなまた夜にな~。一緒に行こ」
明を見送った春は孝太郎に言った。
「あの人と、一緒の店で働くことになったんですね」
「あぁ、はい。もっと稼げる店にしたらとは言ったんですけど誰も知らないところは嫌だって言われて……春さん?」
春は浮かない顔をしていた。いつも自分が帰ってきたら嬉しそうな顔をしてくれるのになんで、と孝太郎は不安になる。でもキスに誘ったら応えてくれたので、孝太郎はホッとした。しかしいつか断られる日が来るかもと想像したら胸がギュッと痛むのだった。
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