ハイツ沈丁花の食卓

盆地パンチ

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 トイレから出てきた孝太郎が自分のスマートフォンを触る明を見て、あ、と声を上げた。

「何してるんですか」

「なにて。何もしてへんわ。おれも新しいの替えよかなぁって見てただけや。なんでおれがお前のスマホいじらなあかんねん」

 そう言って明はスマートフォンを孝太郎に返し、言った。

「返事来るまで彼氏のライン開くんやめたら?」

「え! なんでですか」

「見るから気になるんやって。一緒におらん時は彼氏のこと忘れて寝かしとけ。そのくらいの方が長続きするで」

 孝太郎は迷ったが、じゃあ今日だけそうします、と答えた。明が孝太郎のスマートフォンで春をブロックした事は孝太郎からラインを送ろうとしない限り、気づくことはない。明は、電話もすんなよ、と笑った。



 ――…一方春は家で1人どうしていいかわからなくなっていた。孝太郎に電話をかけ直したが、何回かけても電話が繋がらない。ラインをしても一切既読にならない。しかもいつもなら帰ってくる時間になっても帰ってこなかった。もし酔って寝ているだけならいいが何かあったのでは、と不安になる。いつもより3時間ほど遅いもう朝と言える時間に、カン、カン、と階段を上がる音が聞こえてきた。春は外に飛び出そうとしたが、踏みとどまる。それは孝太郎が1人ではなく狐塚と一緒だったからだ。

「コタロー。久しぶりにおれと遊ぶんおもろかったやろ」

「まぁ……楽しかったですけど。疲れました。ボーリングなんか行くん久しぶりですよ」

「なんやお前こっちでも友達おらんのか」

「店で喋るくらいの相手はいっぱいいますけど……閉店後に遊びに行くとかは無いです」

 明が、はは、と笑った。

「それただの仕事仲間やん。まぁおれが遊んだるから、彼氏のこと忘れるようにしぃや」

 何言ってるんですか、そう言ってくれると春は思っていたのに孝太郎は、はい、と答えていた。そしておやすみなさい、と挨拶して春の家に寄ろうともせず自分の家に帰っていく。春はすぐ電話をかけたが孝太郎は出ない。ラインも既読がつかない。春はパニックになっていた。失恋、の二文字が頭をよぎる。こんな一方的に、こんなあっさりと終わってしまうものなのか? と春は足元がフラついて座り込む。孝太郎の事を信じたいが、狐塚に昨日言われたこととさっき聞いた孝太郎の言葉が春の頭から離れない。それに電話もラインも無視されている。



【何か怒ってますか?】

【そっち行ってもいいですか?】

【もう寝ちゃいましたか?】



 春は何通もラインをしたが、既読がつくことはなかった。

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