The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 5-4

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村の外では枯れ木の異形達が、壁を取り囲んで居た。その壁に迫る高さで異形達は、互いを踏み台にして壁を突破しつつあった。

それを押しとどめたのは、急ごしらえで作った木のレールに乗せた枯草であった。

非常に燃えやすいそれに火を放ち、壁の外に押し出す作業を若者達を中心に行っていた。

異形達もまた枯れ木で形成されており、火にはめっぽう弱かった。

壁の外では火の海が広がっていたが、その強固なホワイトシダー製の防壁は表面が燃えても、中までは火が通り辛い。壁は、その堅牢さをしっかりと維持できていた。

「今の内に、必要な分だけ資材を運ぶよ!いいかい!必要な分だけだ!生きてりゃ、家はまた作れる!命を大事にしな!」

指揮をとっていたのは、女主人であった。矢面に立ち男達を叱咤した、その彼女の一言で村人の士気は高まって居た。しかし、その作戦も時間稼ぎに過ぎない。

次の段階へ移るため、村人の数人は扉寄りの広場より向こうの建物を打ちこわし始めた。

火を防壁とするためだ。火の手が期待できるが、すべて燃えてしまっては元もこうもない。その火が広場より坂の奥の住宅に燃え移らないように一帯を打ちこわし始めたのだ。

その作業の最中。壁を担当する若者が数人、一塊になった群れが扉に迫るのを目撃した。

「まだ作業は終わって居ない……扉に集まってくるぞ!押さえろ!!!」

枯れ木も群れれば質量を増し、破城槌と変わらぬ威力となる。異形達に知性は見られなかったが、統制は見られた、時に犠牲にし、時に結束する。異形の脅威はその統制力であった。

戦闘経験の少ない村人にとっては、これは大敵であった。害敵を駆除する事は以前は日常的に行われていたが、今回はまさに戦争であった。

「扉が破られる……!火を放て!祠に逃げ込むぞ!!」

「急ぎな!怪我人を優先的に連れて!……はやくしなッ!!」

扉は本来の機能よりも、木工師達の手によりも2倍増しで強固に仕上げていた。だが、付け焼刃の防護策もあっさりと破られ、その丸太の繋ぎははじけ飛んだ。その向こうから、はぎちぎちと詰まった異形達がなだれ込んできた。

「き、きたぞぉ……うわーッ!!!」

「火だッ!火をッ……!!!」

その異形の群れに、村人の何人かは蹂躙され、その命を落とした。

さらに何人かの犠牲の後に、松明を投げ込み火の壁を作る事に成功した者が。同時に火に呑まれ燃えていった。

「くそッ……逃げ込め!!みんな!祠へッ!!!!」

女主人は張り裂けんばかりの声を挙げた、村人達は一斉に坂を上り始めたのだ。火の壁は功を奏した。異形の群れたちは一時火の海に押しとどめられ、その大半は燃え尽きた。だがその火の海から数体、また数体と無事に生き延びたものが村人達へと迫った。

「はやくッ!急いで!!」

数は減ったと言えども、異形達の勢いは止まらず、村人達はその背に飛び掛かってくる異形達に恐怖した。一目散に逃げるも、追いつかれまた数人の命が散った。

女主人は、その者たちを助ける事も出来ず、逃げるしかできなかった。

「はやくッ!!!こっちだメイヤーナ!急げ!!!」

祠の入り口が見えた、背後に迫る異形達の数を数える暇は無い。

「おかーちゃんッ!!!!」

聖域まであと少しという所で、メイヤーナは足を取られた。振り返れば、ここぞとばかりに異形は獲物に飛びついた。女主人の脳裏に走馬灯が過る、幼かった日のラナとの思いで、夫との出会い……そしてカーヤの誕生の日。そして、その笑顔。

メイヤーナは静かに目を閉じた、すべてを受け入れる覚悟を決めたのだ。その目じりからは一筋の涙がこぼれ、頬を伝った。

「あんた……すぐにあたしも……」

『駄目だメイヤーナ、君が来るにはまだ早い』

そういわれた気がしてハッと目を開いた。飛び掛かろうとした異形は、投げナイフにより押しとどめられ、その場で崩れ落ちたのだった。

「まだ早えよ、おかみさん。美人が、こんな所で死ぬには、勿体なさすぎるぜ」

シェイガンはナイフを携え、メイヤーナの傍に降り立った。さらに迫る2匹にそれぞれ、投げナイフを投じ。一瞥を女主人に向けた。

「あんた……!どうしてここに?」

「まぁ、なんだ……任されたのさ、この村をな」

短く答えるとシェイガンはメイヤーナへ祠を示して。懐から短剣を抜き取り、左右それぞれに構え。

「……恩に切るよッ」

「ハッ、無事だったら酒の一杯ぐらいサービスしてくんな。行けッ!」

メイヤーナは祠に向かって駆け出した。そこに一歩踏み込めば外とは違う安らぎを感じる、長く忘れていた安らぎを。何故今まで忘れていたのか……。今はどうでもよかった、駆け寄ったカーヤが抱きしめてくれたからだ。少女は震えていた、目の前で母を失ってしまう事に耐えれなかったのだ。

「さてェ……と、感動もつかの間って奴だな」

増えていく異形の群れ。短剣使いは聖域の守り人として、聖域を背負い、異形達に立ちはだかった。そのうちの一匹が飛び掛かり、その振るわれた短剣捌きにより落ちた。群がるように、次々と襲う異形達。短剣使いは、視線を忙しなく動かし、死角を出来うる限り減らしていった、即座に対応できるように、両の手をクロスしその群れを撃退してゆく。

「す、すごい……おじさんもすごいけど……あの人も」

ダヤンがラナを伴って、その様子を見に来たのだ。異形を巻き込む短剣捌きに、少年の目には短剣使いは、まるで旋毛風のように映った。

「ダヤンッ!だめよ……無理しちゃッ!」

「うん、ありがとうカーヤ。でも大丈夫……あの人を助けなきゃ……」

異形の群れは止む気配は無い、一体ずつ対応はしているが。無尽蔵に湧くように短剣使いには感じた、息が荒くなりはじめる。こちらは体力が目減りしていっているが、相手は常に新手が迫ってくる。

「たくッ……よくもまァ、こんなにお集まりで……パーティーはお開きだぜおたくら、早く帰っちゃくれねえかな……?まァ……聞く耳はもたねえか」

少年は何かできないかと焦るが、自分には何もできない事を知って居る。行動を起こさなければならないのに、見守る事しか出来ない現状が歯がゆかった。ラナは我が子のその感情を読み取ったのだ、その背にそっと手を当て語り掛けた。

「ダヤン……」

少年は母のいつもと違い、どこか緊張している面持ちを感じ取った。ラナは息子の前に視線を下げて、その首から。若木を集めて繊細に編まれたそのペンダントを、息子の首にかけたのだ。

「これは、今のあなたに必要なものよ……」

「これは……ナジカの聖印。でも、母さん、ぼくは……」

「そう、正式な儀式は済ませていないわね。でもあなたは、ナジカ様の加護を既に受けている。それは私にはもう必要では無くなった……あなたが、ナジカのクレリックよ。ダヤン」

目の見えないラナには、成長した息子を見る事はできない。だが感じ取る事は出来た、今少年は大人への階段を踏み出そうとしているのだ、それを止める権利は母親には無い。

「行ってダヤン、大丈夫。あなたにはナジカ様が……わたしが、そして……カマルがついているわ」

「わかった母さん……どうすれば良いか、ぼく分かった気がする」

少年は聖印を握りしめ、その脳裏声が囁かれた気がする。その声が教えてくれた、何をすれば良いのか。

「ラナッ……何を言ってるんだい!あの子を、あんな危険な所に飛び込ませるなんて……ッ!」

「メイヤーナ……大丈夫よ、これはあの子の試練なの。そう言っているわ、ナジカ様が。聞こえなくなったはずの……ナジカ様の声が……そう言っているのよ」

「……」

メイヤーナはラナに何も言えなくなった、少年を見つめるその肩の震え。誰よりも痛いほど、送り出すことに怯えているのだ。

少年はアーチから飛び出た、体は本調子ではないが。その意志は確かに前を向いている。

「おい、坊ちゃん!何してるんだッ……ここはあぶね……」

シェイガンは異形に対応しつつも、一瞥を少年に向けてその表情を見た。

短剣使いはその少年の意志力宿した眼を見て、納得をしたのだ。

「ハッ……一丁前に男のツラになってるじゃねえかよ。わかった……預けるぜ背中」

「うん、任せて……『自然神の加護を我らに与えたまえ』!」

少年が聖印を掲げ高らかに宣言した。その祈りはその祈る声と聖印を通じて、その信仰する神の力の一部を顕現する。自然神ナジカが、聖印を通じてもたらした『祝福ブレス』は二人を包み、足元の草木が芽吹き、その身体を軽やかなものにした。

「いいねぇ、女神の『祝福』を授かったとなりゃ……オレもちったァ本気を出さなきゃならねえなッ!」

同時に2体が短剣使いに迫る、その二つをクロスから開いた両手の短剣が捌き。そして迫る一体にはクロスを閉じて、横薙ぎの一閃で応じた。木片と化した異形の亡骸が、足元にちらばる。

「シェイガンさん、横からッ!!」

真横をすぐに、異形が迫る。短剣使いは右足を振るいあげ、捻りおろすように薙ぎ払った。

そのブーツのつま先には隠しナイフが飛び出ていた。

「さて……『4つ爪』の異名がウワサだけかどうか、今証明してやるよ」

両手、両足。それぞれが得物を持つ、多刀流。それが短剣使いの本来のスタイルであった。

「坊主ッ、気張れよ。おまえの初陣だッ……勝利で飾るぜッ!」

「うん……必ず、村を守る。おじさんは絶対……戻ってくるから!」
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