The Three copper coin's Tawdry Tales 「異邦人の書」

まるこめX

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混血の放浪者 5-3

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曇天の空はよりいっそうその昏さを増していく。狂い咲きをしている花々は放浪者が駆け抜けるとその紅い花弁を散らした。

放浪者は真っすぐ飛び上がった。両腕を振り上げ、両手で握りこんだ手斧に力を込める。

シェイガンの眼差しはそれに呼応するように、きつく細められた。短剣使いの左手がしなやかに構えを取る。魔術師は酔いしれていた、自らが作り出した状況、そして秘術の仕上がりに。

「フハハハッ……!かような状況になろうとはな、ハーフオークよ!だが裏切られるのはこれが初めてではないだろう! 貴様のような種族には常に疑念と嫌疑が付きまとうッ、それが貴様の運命なのだ!仲間を討たねば、俺を止める事は叶わんぞ!」

「さぁ……殺志ころし合えいッッ!!!」

放浪者と短剣使いが、互いの間合いに踏み込んだ。互いの視線がかち合う。

が、それはすぐさま解かれ。放浪者は短剣使いと、魔術師の脇を抜け。

「オォォォッ――――ッ!!!!」

ダヤンが横たえるテーブルの上にたどり着いた。その様子を魔術師は唖然と見送るしかなかった。振り下ろされた手斧は、ダヤンをテーブルに繋ぐ鎖を一撃で破裂させ、少年を解放した。

「なッ……!何をしているか道化ェェェ!!!貴様ッ!」

ハッバンは怒号を短剣使いへと向けた。振り返りざまに、胸に軽くストンと衝撃を浴びながら。

「何をしているかって? そうだな、おたくの心臓にナイフのお届け物だよ」

魔術師は状況を掴めずにいた、口からせり上がった血が空気の音を混じらせ噴き出した。

胸元のナイフが引き抜かれる、正確に心臓を一突きされ、血は噴き出さずじわりとローブを濡らした。

「な……なぜだ……!俺の術は完璧だったはずだ、貴様の記憶を入れ替えたはず……!それに……防御術を張っていたんだぞ……!なぜ、俺が……!」

「あぁ、その事かい?そうだな、それには……こいつが必要なんだろう?」

ハッバンは目を疑った。短剣使いの右手には、魔術師の杖が握られていたのだ。

そして自分の右手には……10フィートほどの棒切れが握らされていた。

「記憶を改ざんする術なんざ、長年の修行を積んだ秘術使いでもなかなかできるものじゃあない。アンタはコイツから魔力を引き出し、自らの足りない魔力を補っていたんだろう?それに加え、他の秘術の行使にもコレが必要な様子だったと見える」

「まぁ、推測だけどな……だが、まぁ、なんて悪趣味な杖だ、コイツはオレの趣味じゃねぇな」

そう言うとシェイガンはその場で杖を地面に叩きつけ、その機能を破壊した。ただの棒切れとなった杖を魔術師の足元に転がし。

「あぁ……悪い、つい趣味の悪いものを見ると、叩き壊したくなる性分でねェ、返すよ」

放浪者はダヤンを抱えシェイガンに並んだ、疑問は尽きない、膝を付く魔術師を見下ろしながら説明を求めた。
「だが、シェイガン。おれの眼から見ても術は発動していたぞ、肝を冷やしたが……どういう事だ?」

「あぁ、それかい?まぁ、種明かしをするとだな……」

シェイガンは耳元の髪をかき上げて見せた。露わになって見えたその耳は、人の者とは異なりその尖りには特徴があった。その種族的特徴に放浪者は納得して呟いた。

「……ハーフエルフか」

「そういうこった。エルフの血を持つものってのは、心術にはある程度の抵抗があってね。まぁ、賭けだったが……用心しておたくの杖を奪わせて貰っておいて正解だったよ。杖がアンタの手元にあったままじゃあ、ばっちりこのゴツイのとやりあう羽目に陥っていただろうさ」

「クソッ……!この俺がッ……こんなやつらに……!」

「そう、終わらされンだよ、お前の目論見はな。……子供一人、村ひとつ、土地ひとつ。それらをまるっと台無しにしようとしたツケを、ここで払いな」

シェイガンは血を振り払い、刃の切っ先を魔術師に向けた。その眼には明確なる憎悪が秘められていた。

「お、じさん…‥‥」

「ダヤン、大丈夫か‥‥」

ダヤンは息も浅く疲弊しきっている、すぐに手当てをしなければならない状態だった。

「おい坊主、しっかりしろ。無事に帰れるぞ、母ちゃんの顔を拝みてえだろう。あのこまっしゃくれたお嬢ちゃんもな、お前の帰りを待ってる」

「そうだ、ダヤン。帰るぞ、お前の家に」

「うん……ありがとう、ぼくは大丈夫だよ……でも、ごめん。おじさん達、怖いめにあったね……村の皆も、きっと……ぼくのせいで……あうっ」

シェイガンはその言葉に微笑んで見せた。弱々しく泣きそうな顔に、軽くデコを指ではじいて元気づけてやった。

「なんでもかんでも、自分のせいなんて思うもんじゃねえよ坊主。これは大人の責任だ、その尻ぬぐいは大人にさせりゃ良い」

「そうだ、お前の勇気ある行動で。おれ達はここへやって来た……そしてこの男を止めたのだ」

「あれ……ハッバンさんは?」

腕の中のダヤンの言葉に、ハッとして二人は振り向いた。血の跡が花に点々と続く、それを視線を追った先。テーブルの上にハッバンはたどり着いていた。

「野郎、まだ何か……」

「まてシェイガンッ……近づくなッ!」

シェイガンがナイフを両手に、近づくも。そのハッバンを包む怪しい発光が生んだ衝撃波に退けられ、吹き飛ばされた。

「クククク…‥‥よくも……よくもォ!!ここまでこの俺をコケにしてくれたなッ!!もう構わん……その小僧の加護がなくとも、この俺のナーダレスの加護を以て。この俺を贄として『フォロットエーグ』を誕生させよう!ククク……!貴様らはもう終わりだッ!!!」

テーブルが血で濡れていく、もはやハッバンに残された命は風前の灯であった。その声は憎悪と執着にまみれ、まさに狂気の権化となった魔術師は自らを贄とすべく、自らを捧げていたのだ。

「さぁ、腐敗の恐怖をもたらすものよ、この俺を喰らいッその誕生をもって、世界を虚無でみたすがよい……!虚無をもたらすものの様相としてッ!!」

ハッバンを包む光の柱は、ふしくれた巨木の洞の中身に注がれ。そこから漏れた大量の血のように粘液質の力場が魔術師を飲み込み、その光ごと取り込んだ。

「くそッ、一体なにをしたんだ……ッ!!!」

「……誕生させたんだ、エーグを」

地面が大きく揺れる、花畑の下に張り巡らされていた根が持ち上がり一面をめくりあげる。轟音を伴い太い根は放浪者達を襲うが、その場から退く事で難を逃れた。

巨木は今、そののたうつ根を触手のように引き寄せ、その身体をもたげあげた。悪意に満ちた洞の中では収束した光が、命を伴った事を告げるように紅く発光をしている。

根はらせんを描きその身体を支え、互いにねじれあい、それぞれ巨木を包む手足となった。

その身体から漏れた霧がかった樹液は大地に腐食をもたらした。異形の足元は腐敗で満ち、紅い花々は急速に枯れてゆき、庭園は荒れ果てた土地へと転じた。

曇天の稲光を背負い、『フォロットエーグ』が誕生したのである。

「おいおい……うそだろ……立ち上がったぞ……ただのエント樹の守り手じゃねえ、ありゃ……悪意の塊じゃねえか……」

シェイガンはその光景に震えあがって居た、大樹の異形が挙げた産声に恐怖していたのである。それがもたらすであろう虚無を短剣使いは感じ取った……絶望感を。

「シェイガン、ダヤンを連れて村に戻れ」

「えッ……おじさん……?」

「おいおい、あんな化け物を一人でどうするんだよッ!……アンタ死ぬ気かッ!」

「頼む」

放浪者の決意の眼差しに、それ以上シェイガンは口をはさまなかった。

「……くそッ……くそったれッ!!わかったよ旦那、アンタにそんな顔されちゃあな……ッ」

「ま、まって……おじさんッ……!」

「村を頼んだぞ、おれもすぐに追いつく」

「下手に死ぬんじゃねえぞ、旦那」

「あぁ……わかった」

「おじさんッ!!!」

短剣使いは頷きを見せた、後ろ髪を引かれる思いを断ち切って。ダヤンを抱えポータルへと走った。
ダヤンはやっとの思いで顔を上げて、その放浪者の後ろ姿を見た。

放浪者の背丈よりも大きいその異形の大樹は、威圧的にそびえたっていた。

それに怯むこともなく、立ちはだかる放浪者の背を、少年は見守る事しか出来なかった。
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