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混血の放浪者 5-2
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シェイガンには何か考えがあるようだった。放浪者は一瞥をくれて、短剣使いの言葉に応えた。そして巨木の元に居るハッバンに向き直り、しっかりと手斧を握りしめた。
「まだ邪魔を続けるつもりか、私の天命の邪魔を……この崇高なる庭園を見よ、実に美しい景色だろう。ここまで至らせるには苦労したぞ。私が賜った種は実に見事にこの花々を実らせた、そして……かの大自然神の至宝は今やこの通りだ」
ハッバンは洞の内部で蠢く輝きに両手を差し伸べて見せた。巨木の内側でそれは心臓のように光の脈動を繰り返し、魔術師の恍惚とした表情を照らす。
「おかげでよォ、こっちは折角楽しみにしていたお宝見物を台無しにされちまったぜ。魔術師さんよォ、なんだいそのけったくその悪いものは。馬の尻の穴を見つめているほうがまだマシだぜ」
ハッバンは呆れて物も言えぬというように、息を大きく吐いて見せた。大げさに振り返った魔術師はまるで貴人のような振る舞いで語りだした。
「この気高き輝きの真価を測れぬとは……。これは私がかつて勅命を受け賜った『種』を植えたものだ。かの大地に萌えていた樹々はこの宝によって芽吹いていた。種の力はその叢生の力を腐敗させ、大地を虚無に返す力と転じたのだ。そして今その中で生まれた力は、最後の養分を以て誕生する!『フォロット・エーグ』としてな!」
「だめだ、何を言っているかさっぱりわからねえ……」
呆れ顔を返したのはシェイガンも同じくしてだった。ただ、この状況を見るに魔術師の目論見は成功しつつあることは確かであった。放浪者は鋭く視線を向けたまま、唸るように声を挙げた。
「貴様にその勅命とやらを与えたのは……誰だ」
「我が至高の恩方……虚無の王子……ナーダレス!」
放浪者の眼差しに怒気と殺意が高まっていくのをシェイガンは感じ取った。
「ナーダレスはまだ生まれもしていないぞ、魔術師……」
「そう!その通りだ、嘆かわしや。だがお方はいずれ産まれ出る運命だ……ゆえに私はこうして揺り籠を用意し、あのお方の為の器を用意したのだ……!そしてこの少年は最後の贄として選ばれたのだ、この私によってな!」
「あのお方をこの世界に降臨させる、それこそが、我が『虚無の道』の崇高なる天命なのだ!この私のな……喜べ、お前たちはそれを目撃する事ができるのだ……すべてを無に還す者の誕生を!」
陶酔した魔術師の語りは、放浪者の耳に障った。口の中が血の味でにじんでゆく、ギリギリと怒りを抑え付けた食いしばりはシェイガンの耳に届くほどだった。
「ハッ!そんなものの為に、晩餐のメニューに選ばれちまったそこの坊ちゃんには災難だな。お前は何かい?そのナーダレスとやらの料理人か何かなのかい?ただの下男じゃねえか」
短剣使いの軽口にハッバンは怒り心頭だった、顔にみるみるのぼる血の気は、その青白い肌に赤みを与えてより鬼気迫るものにした。
「俺を愚弄するなッ!この蛆虫めがッ!!!」
鋭く発した言葉は、呪文を紡ぐ。火のエネルギーが凝縮され、魔術師の手の中に渦を巻き点と集まる。その掌から放たれた『灼熱の光線』は、鋭く高熱を伴い短剣使いへと向けられた。
「ハッ、奴さん沸点が随分と低いようでッ!いくぞ旦那ッ!」
右へステップし、短剣使いはそれを回避する。線状に流れた熱の余韻は、赤い花を燃え上がらせ消し炭と化した。放浪者は真っすぐと丘を駆けのぼりハッバンへと疾駆した。
「許さんぞッ!この崇高なる天命を与えられた俺に向かってッ!誰であろうと愚弄する事は許さんッ!!」
「ただただ与えられて、それをはいわかりました、ってアンタは、ただお使いをこなしただけだろう? それを天命だとかなんだとか飾り付けてさ、おたくちょっと身の振り方は選んだほうが良いよ?」
灼熱の光線は2度に渡ってシェイガンを襲う。燃え滾る熱量は、どれも短剣使いの俊敏さの前にたどり着くことは無かった。
「………ッッッ!!!!」
「うぉッ……!?あぁ、悪い……ちょっと言い過ぎたぜ。まぁ、話せば分かる……っておい!」
ハッバンは言葉が出てこなくなるほどに血が上っていた。代わりに出て来た言葉は呪文を紡ぎ、その手のひらは握りこむようにシェイガンに差し伸べられた。
その身を空中に固定し浮かび上がらせた後に、勢いよく身が引き寄せられ走る放浪者を追い抜かせた。その勢いのまま短剣使いは、魔術師の足元に渾身で地面にしたたかに叩きつけられたのだった。
「うぐッァ……!!…… おい、顔から突っ込ませるのはナシだぜ……せっかくの色男が台無しじゃねえか……ッ!!」
眼がチカチカとしたが短剣使いは狙いを違わずハッバンに向けていた。跳ねるように立ち上がって、両手に握りこんで居た短剣を鋭く翻し、ハッバンの首元めがけ振るいあげた。魔術師の握る杖が怪しく光る。
放浪者はその動向を見据え、構わず駆け続けた。
「貴様には土濡れがお似合いだ、道化ッ!道化師は道化師らしく……滑稽に躍らせてみせようではないか!『記憶よ、浸食せよ』」
「シェイガンッ……!」
その刃がハッバンの届く事は無かった。魔術師の握りこんだ手の形は、は短剣使いの眼前にて開かれ。その顔面には怪しい輝きで満たされた。その禍々しい色は短剣使いの脳裏をいじくりまわしその記憶を書き換えた。放浪者との出会いを削除され、それを自分が恨み追い求めて来た敵として。
「さぁ、道化よ……貴様の敵を討つのだ、憎きあのハーフオークをな」
「あぁ……任せな」
シェイガンはゆるりと振り返り、その眼差しを放浪者へと向けた。その中に放浪者の知って居る男の色は無く、ただ敵として殺意が向けられていたのであった。短剣使いはするりと左手に持つ短剣を逆手に握りなおした。
「……オォォォッ!!!!」
放浪者はすべてを悟った、その疾駆する足に力を籠め。体は前傾に預け、シェイガンの視線とかち合った。
その咆哮が庭園に轟く
「まだ邪魔を続けるつもりか、私の天命の邪魔を……この崇高なる庭園を見よ、実に美しい景色だろう。ここまで至らせるには苦労したぞ。私が賜った種は実に見事にこの花々を実らせた、そして……かの大自然神の至宝は今やこの通りだ」
ハッバンは洞の内部で蠢く輝きに両手を差し伸べて見せた。巨木の内側でそれは心臓のように光の脈動を繰り返し、魔術師の恍惚とした表情を照らす。
「おかげでよォ、こっちは折角楽しみにしていたお宝見物を台無しにされちまったぜ。魔術師さんよォ、なんだいそのけったくその悪いものは。馬の尻の穴を見つめているほうがまだマシだぜ」
ハッバンは呆れて物も言えぬというように、息を大きく吐いて見せた。大げさに振り返った魔術師はまるで貴人のような振る舞いで語りだした。
「この気高き輝きの真価を測れぬとは……。これは私がかつて勅命を受け賜った『種』を植えたものだ。かの大地に萌えていた樹々はこの宝によって芽吹いていた。種の力はその叢生の力を腐敗させ、大地を虚無に返す力と転じたのだ。そして今その中で生まれた力は、最後の養分を以て誕生する!『フォロット・エーグ』としてな!」
「だめだ、何を言っているかさっぱりわからねえ……」
呆れ顔を返したのはシェイガンも同じくしてだった。ただ、この状況を見るに魔術師の目論見は成功しつつあることは確かであった。放浪者は鋭く視線を向けたまま、唸るように声を挙げた。
「貴様にその勅命とやらを与えたのは……誰だ」
「我が至高の恩方……虚無の王子……ナーダレス!」
放浪者の眼差しに怒気と殺意が高まっていくのをシェイガンは感じ取った。
「ナーダレスはまだ生まれもしていないぞ、魔術師……」
「そう!その通りだ、嘆かわしや。だがお方はいずれ産まれ出る運命だ……ゆえに私はこうして揺り籠を用意し、あのお方の為の器を用意したのだ……!そしてこの少年は最後の贄として選ばれたのだ、この私によってな!」
「あのお方をこの世界に降臨させる、それこそが、我が『虚無の道』の崇高なる天命なのだ!この私のな……喜べ、お前たちはそれを目撃する事ができるのだ……すべてを無に還す者の誕生を!」
陶酔した魔術師の語りは、放浪者の耳に障った。口の中が血の味でにじんでゆく、ギリギリと怒りを抑え付けた食いしばりはシェイガンの耳に届くほどだった。
「ハッ!そんなものの為に、晩餐のメニューに選ばれちまったそこの坊ちゃんには災難だな。お前は何かい?そのナーダレスとやらの料理人か何かなのかい?ただの下男じゃねえか」
短剣使いの軽口にハッバンは怒り心頭だった、顔にみるみるのぼる血の気は、その青白い肌に赤みを与えてより鬼気迫るものにした。
「俺を愚弄するなッ!この蛆虫めがッ!!!」
鋭く発した言葉は、呪文を紡ぐ。火のエネルギーが凝縮され、魔術師の手の中に渦を巻き点と集まる。その掌から放たれた『灼熱の光線』は、鋭く高熱を伴い短剣使いへと向けられた。
「ハッ、奴さん沸点が随分と低いようでッ!いくぞ旦那ッ!」
右へステップし、短剣使いはそれを回避する。線状に流れた熱の余韻は、赤い花を燃え上がらせ消し炭と化した。放浪者は真っすぐと丘を駆けのぼりハッバンへと疾駆した。
「許さんぞッ!この崇高なる天命を与えられた俺に向かってッ!誰であろうと愚弄する事は許さんッ!!」
「ただただ与えられて、それをはいわかりました、ってアンタは、ただお使いをこなしただけだろう? それを天命だとかなんだとか飾り付けてさ、おたくちょっと身の振り方は選んだほうが良いよ?」
灼熱の光線は2度に渡ってシェイガンを襲う。燃え滾る熱量は、どれも短剣使いの俊敏さの前にたどり着くことは無かった。
「………ッッッ!!!!」
「うぉッ……!?あぁ、悪い……ちょっと言い過ぎたぜ。まぁ、話せば分かる……っておい!」
ハッバンは言葉が出てこなくなるほどに血が上っていた。代わりに出て来た言葉は呪文を紡ぎ、その手のひらは握りこむようにシェイガンに差し伸べられた。
その身を空中に固定し浮かび上がらせた後に、勢いよく身が引き寄せられ走る放浪者を追い抜かせた。その勢いのまま短剣使いは、魔術師の足元に渾身で地面にしたたかに叩きつけられたのだった。
「うぐッァ……!!…… おい、顔から突っ込ませるのはナシだぜ……せっかくの色男が台無しじゃねえか……ッ!!」
眼がチカチカとしたが短剣使いは狙いを違わずハッバンに向けていた。跳ねるように立ち上がって、両手に握りこんで居た短剣を鋭く翻し、ハッバンの首元めがけ振るいあげた。魔術師の握る杖が怪しく光る。
放浪者はその動向を見据え、構わず駆け続けた。
「貴様には土濡れがお似合いだ、道化ッ!道化師は道化師らしく……滑稽に躍らせてみせようではないか!『記憶よ、浸食せよ』」
「シェイガンッ……!」
その刃がハッバンの届く事は無かった。魔術師の握りこんだ手の形は、は短剣使いの眼前にて開かれ。その顔面には怪しい輝きで満たされた。その禍々しい色は短剣使いの脳裏をいじくりまわしその記憶を書き換えた。放浪者との出会いを削除され、それを自分が恨み追い求めて来た敵として。
「さぁ、道化よ……貴様の敵を討つのだ、憎きあのハーフオークをな」
「あぁ……任せな」
シェイガンはゆるりと振り返り、その眼差しを放浪者へと向けた。その中に放浪者の知って居る男の色は無く、ただ敵として殺意が向けられていたのであった。短剣使いはするりと左手に持つ短剣を逆手に握りなおした。
「……オォォォッ!!!!」
放浪者はすべてを悟った、その疾駆する足に力を籠め。体は前傾に預け、シェイガンの視線とかち合った。
その咆哮が庭園に轟く
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