30 / 30
混血の放浪者 6-5 完
しおりを挟む
地平線に陽が差し始める。昇った太陽は、その緑の大地の美しさを湛え、鮮やかに照らした。
放浪者は一人、身支度を済ませ村の入り口に立っていた。
まだ人々は寝静まって居る時刻、遠くの空はまだ夜の静けさを湛えていた。
「美しいな……この村の景色がこんなに綺麗だったとはな」
「そうだね、おじさん……ぼくこんな綺麗な景色を見るのはじめてだ」
放浪者は驚き振り向いた。そこには少年が立っていたのだ、その眼差しから、引き留めに来た様子ではない事は想像できた。
「……ダヤン、起きて居たのか」
「おじさん、旅に出るんだよね。忘れ物だよ、はい……これ」
それは、決戦の地で放浪者が脱ぎ捨てたマントであった。放浪者は少年からそれを受け取り。不思議そうに尋ねたのであった。
「これは……。どこで、これを」
「今朝ナジカ様に会いに行ったんだ、祠にね……そしたら、それが風に乗って飛んできたんだ。きっと、ナジカ様が忘れ物を見つけてくれたんだよ。おじさんにとって大事なものでしょう?」
「あぁ、そうだ……。そうか、ありがとう」
放浪者はマントを羽織り、フードを被った。この村から一歩出れば、ハーフオークとしての因縁はついて回る。それは変わらぬ事なのだ。
ただ変わった事と言えば、放浪者にとって。ハーフオークとして分け隔てなく接してくれる場所が出来た事であった。それは放浪者にとってこの上なく喜ばしい事であり、何よりも得難いものであった。
ダヤンは何か言いたげに口を動かしたが、言い出せずに居た……。放浪者は静かにそれを待ち、少年が投げかけるのを待った。
「おじさん、あのねッ……ぼく、いつか旅に出る!ぼくは、まだ弱いけど……きっといつかおじさんの隣に立てるようにがんばるから……父さんのように、強い男にぼくはなるから……」
「……」
ダヤンは震える口で必死に紡いだ、その決意表明に放浪者は静かに聞いていた。
涙を堪えるのに必死で、やはり引き留めたいと思って居る自分が居るのだろう。だが少年はそれでも語りきったのだ。
「その時は……おじさんの仲間に!ぼくを仲間にしてください!」
少年は笑顔で言い放った。その声は澄んだ空より青く、それでいて清らかだった。
放浪者はその成長に驚いていたのだ、そして困惑もした……だが、だからこそ、応える事にしたのだ。
「……カホールだ」
「……えッ?」
「おれの名前はカホールだ。仲間なら、名前を知っておいて貰わねばなるまい」
放浪者は、少年の肩に手を置いた。その眼差しを向け、意志を込めて頷いた。少年はその意志に笑顔で答え、大きく頷いたのだった。
放浪者は村の門をくぐる、ひるがえったマントの靡きは、風を後ろに送り、少年を撫でた風は、その髪を揺らした。
地平線へ向け歩む放浪者の後ろ姿に、少年は手を振り叫んだ。
「おじさーんッ!!」
その声が届くかは分からない、だが少年は、めいいっぱい叫んだのだった。その声は遠く、疾く遠く。
放浪者の背中を後押ししていた。その旅に希望を添えて。
「カホール!!いつかまた……!!!!」
遠く、その地平線と一つになるまで、少年はその背を見送った。
その天に、陽の光を。
地平線に、剣を携え。
放浪者は、新たな旅路を往く。
― 混血の放浪者 完 ー
放浪者は一人、身支度を済ませ村の入り口に立っていた。
まだ人々は寝静まって居る時刻、遠くの空はまだ夜の静けさを湛えていた。
「美しいな……この村の景色がこんなに綺麗だったとはな」
「そうだね、おじさん……ぼくこんな綺麗な景色を見るのはじめてだ」
放浪者は驚き振り向いた。そこには少年が立っていたのだ、その眼差しから、引き留めに来た様子ではない事は想像できた。
「……ダヤン、起きて居たのか」
「おじさん、旅に出るんだよね。忘れ物だよ、はい……これ」
それは、決戦の地で放浪者が脱ぎ捨てたマントであった。放浪者は少年からそれを受け取り。不思議そうに尋ねたのであった。
「これは……。どこで、これを」
「今朝ナジカ様に会いに行ったんだ、祠にね……そしたら、それが風に乗って飛んできたんだ。きっと、ナジカ様が忘れ物を見つけてくれたんだよ。おじさんにとって大事なものでしょう?」
「あぁ、そうだ……。そうか、ありがとう」
放浪者はマントを羽織り、フードを被った。この村から一歩出れば、ハーフオークとしての因縁はついて回る。それは変わらぬ事なのだ。
ただ変わった事と言えば、放浪者にとって。ハーフオークとして分け隔てなく接してくれる場所が出来た事であった。それは放浪者にとってこの上なく喜ばしい事であり、何よりも得難いものであった。
ダヤンは何か言いたげに口を動かしたが、言い出せずに居た……。放浪者は静かにそれを待ち、少年が投げかけるのを待った。
「おじさん、あのねッ……ぼく、いつか旅に出る!ぼくは、まだ弱いけど……きっといつかおじさんの隣に立てるようにがんばるから……父さんのように、強い男にぼくはなるから……」
「……」
ダヤンは震える口で必死に紡いだ、その決意表明に放浪者は静かに聞いていた。
涙を堪えるのに必死で、やはり引き留めたいと思って居る自分が居るのだろう。だが少年はそれでも語りきったのだ。
「その時は……おじさんの仲間に!ぼくを仲間にしてください!」
少年は笑顔で言い放った。その声は澄んだ空より青く、それでいて清らかだった。
放浪者はその成長に驚いていたのだ、そして困惑もした……だが、だからこそ、応える事にしたのだ。
「……カホールだ」
「……えッ?」
「おれの名前はカホールだ。仲間なら、名前を知っておいて貰わねばなるまい」
放浪者は、少年の肩に手を置いた。その眼差しを向け、意志を込めて頷いた。少年はその意志に笑顔で答え、大きく頷いたのだった。
放浪者は村の門をくぐる、ひるがえったマントの靡きは、風を後ろに送り、少年を撫でた風は、その髪を揺らした。
地平線へ向け歩む放浪者の後ろ姿に、少年は手を振り叫んだ。
「おじさーんッ!!」
その声が届くかは分からない、だが少年は、めいいっぱい叫んだのだった。その声は遠く、疾く遠く。
放浪者の背中を後押ししていた。その旅に希望を添えて。
「カホール!!いつかまた……!!!!」
遠く、その地平線と一つになるまで、少年はその背を見送った。
その天に、陽の光を。
地平線に、剣を携え。
放浪者は、新たな旅路を往く。
― 混血の放浪者 完 ー
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お疲れ様よー。まるこめ。
見事に駆け抜けましたな!
内容については・・・下手に書くとネタバレになるなww
次回作?新章?もよろしく!
まだ温めてるものあるでしょ?
この勢いで突っ走りましょう!
だからよ・・・止まるんじゃねぇぞ・・・
忌み嫌われるハーフオークの男が荒れ果てた大地で助けたのは一人の少年だった。
その運命的な出会いで導かれたのは死にゆく森林村。
徐々に色褪せてゆく村で起きる事件とは!?
まるこめXが”僕とは違い”多彩な風景描写で描くは、ダークな純ファンタジー。
この先の展開は乞うご期待!
完走しろよ!まるこめ~。
ありがとうございます、初めての執筆なので至らぬ点やお目汚しもあるかと思いますが、何卒温かく見守って下されば幸いです。