僕らは不完全な世界で猫を撫でる。

道中、表と裏。

　どの喫茶店に行くかは聞かされていなかったので、僕は彼女に付いて行った。彼女は僕の前を歩いたり横を歩いたりしながら目的地に向かった。しばらく並んで歩き、少し不気味な細路地に入ったところで僕は声をかけた。
「活気のある駅前とは違って、ここは静かだね。」
「表と裏って感じがしない？」
そのまま進んでいくと、辺りはごみが散乱しており、壁はスプレーの落書きだらけだった。
「こういう所を通るのは嫌じゃないの？」
「好きでもあるし嫌いでもあるわね。」
「どういうこと？」
「不潔だとか怖いのは嫌だけど、それがリアルだと感じられるから好きなの。こういうのって変かな？」 
彼女は僕の目を見た。
「いや、分かる気がするよ。この世界には綺麗なものや汚いもの、表と裏、善と悪など色んなものがある。でもそんなことに意味なんてないんだ。世界に意味なんて無い。」
「またそんなこと言って。私が泣いちゃうわよ。」
　からかうように僕の頬を小突いた。鼓動は高まる。
「ごめん。また余計なことを言ってしまった。」
「でもね、私もそう思ってたの。」
　それから少し歩くと目的地に着いたらしく、彼女は立ち止まった。雰囲気のある老舗の喫茶店だ。
「ここよ。入りましょう。」