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驚愕

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 玄関から顔を出した彼女を見て、僕は唖然とした。目は虚ろで ひどいクマがあり、化粧もせず髪も整えられてはいなかった。同窓会の時とはまるで別人のようだったので、僕は部屋を間違えたのかと思った。
「急にごめんね。入っていいわよ。」
「お邪魔するね。」
 部屋の中はひどい有り様だった。溜まりきった食器は台所に放置され、床には服やタオルが散らばっていた。ゴミ袋にはカップ麺の容器や酒の缶、タバコの吸い殻などがたまっていた。
 彼女はソファに放置された服の塊を床に置いてから言った。
「座って。」
「うん。」
「ごめんね、汚くて。」
「構わないよ。」
 僕は色々と聞きたかったが、彼女が話すまで待った。お互い正面の壁を見つめたまま、しばらく黙って座っていた。
「お酒あるけど、飲む?」
彼女が僕の方を向いて尋ねた。
「じゃあ、いただこうかな。」
「ビールしかないけど良い?」
「構わないよ。」
 彼女はフラつきながら冷蔵庫に向かい、350mlの缶ビールを2つ手に取って1つを僕に手渡した。
「あ、乾杯しなきゃね。」
彼女は缶のフタを空けながら無理して微笑んだ。
「乾杯。」
僕らはビールを飲み始めた。
「タバコ吸ってもいい?」
「構わないよ。」
それから彼女は2口ほどタバコを吸った。
「私に幻滅したでしょう?」
「どうして?」
「だって、こんな生活してるのよ。」
彼女は体育座りのように体を丸めて言った。
「幻滅なんてしてないよ。」
さらに2口ほどタバコを吸ったところで彼女が言った。
「彼とは別れたの。」
「そうなんだ。」
僕は何も聞かなかった。長い沈黙が続いた。
「部屋の片付けを手伝うよ。」
僕は気まずさをかき消すように言った。
「ありがとう。でも、少しゆっくりしましょう。」
「わかった。」
彼女は僕が来る前から酒を飲んでいた様子で、かなり酔っぱらっていた。彼女は僕の方にもたれると、胸が僕の腕に押し付けられた。僕は勃起してしまったが、彼女に気づかれていないことを願った。
しばらくそのまま座っていると、彼女は僕の手を握りながら言った。
「ねえ。」
振り向くと、彼女は僕に口づけした。
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