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世界の意味

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 彼女は僕の涙を拭い、優しく頭を撫でた。
「ごめんね。」
「いや、辛い思いをしたのは君の方なのに。」
「いいのよ。私を想って泣いてくれたんでしょう?ありがとう。」
 彼女は僕の額に口づけした。僕が泣き止むまでの間、彼女は黙って僕の頭を撫でたり頬を触ったりしていた。
「あなたが泣いているところを見たのは2回目だわ。」
「君が僕の感情を取り戻してくれたんだ。」
「放課後の教室で私が泣いた時、あなたはどう思った?」
「こんなに素敵な人を泣かせてはいけない。僕が守らなければと思った。」
「今の私も同じ気持ちよ。」
彼女は先程の話を続けた。
「そうして再び世界から意味が無くなった私は大学にも行かず、家にこもるようになった。それで昨日の有り様だったってわけ。」
「同窓会には無理して来てたんだね。」
「そう。あなたに会えるかもしれないと思ったから。」
「僕もそうだよ。」
そして彼女はタバコに火をつけた。
「このタバコもね、彼が吸ってたから私も真似して吸い始めたの。彼に絶望して別れたのに今でも止められないなんて馬鹿みたいでしょう?」
「仕方ないよ。タバコに含まれるニコチンは依存性が高いから。」
「そういうことじゃないわよ。」
彼女はクスリと笑い、僕の頬を小突いた。
「あなたのそういうところ好きよ。」
そう言って彼女は吸いかけのタバコを僕に咥えさせた。
「あなたが私の感情を取り戻したから、再び世界に絶望することになった。あなたのせいよ。だから責任取って。私を幸せにして。」
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